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傘を持たない女 / 天気予報のいらない男

2004年05月24日 22時06分32秒 | about him
 昨夜、彼女が借りてきた映画の video を観に、彼は、彼女の住む部屋へやって来た。

 夜勤ではなかったのが、救いだ。

 すでにその映画を観たことのある彼女も、いっしょに画面に観入った。

 映画を観終わると、彼はベッドへもぐりこみ、すぐに寝息を立てた。 仕事で疲れているのだろう。

 彼が眠ったのを見計らうと、彼女は、となりの部屋で、三時過ぎまでキーボードをカタカタとたたきつづけた。 彼には教えていないが、彼女は blog を開設しているのである。



 午前七時。 目覚ましが鳴った。 彼女はもそもそと起き出して、朝食の支度をはじめた。

 ここ十年以上、朝食を食べない生活をしている彼女であるが、彼のために、一食分だけ用意するのだ。

 ごはん、味噌汁、焼き魚、おひたし ... 。 彼の好きそうな menu.

 朝食をかきこむ彼に、彼女は訊いた。 「今日の天気はどう?」

 彼は、「今日は雨だね」 とすぐさま答えた。 「鳥が鳴いてない」

 彼は、湿度とか、風の吹き方とか、雲の状態とか、動物のうごきなどで、翌日または当日の天気をよく予測するのだ。

 いつもは、出かけるときに雨が降っていなければ、傘を持ち歩いたりしない彼女であるが、彼の予測には素直に従い、折りたたみの傘を鞄に入れた。 そして、ふたりは、晴れわたる空のもとに躍り出て、それぞれの仕事場へ向かった。



 午後八時。 会社を出るときに空を見上げ、彼女は、ふっと北叟(ほくそ)笑んだ。

 大粒の雨が、あたり一面を濡らしていた。
コメント (2)
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プライドのカタマリ

2004年05月24日 12時38分11秒 | about him
 空き巣に遭ってしまった友人 (というか彼) のを何度かしたけれど。

 お給料が入ってすぐに被害に遭ってしまったため、入ったばかりのお給料を根こそぎ盗られてしまってから、もうすぐ一ヶ月 ... 。
 (彼の会社は、お給料が手渡し ! )

 そう。

 まもなくお給料日♪

 (ちなみに、給与計算をする人の仕事のすすみ具合・体調・気分・その他もろもろにより、お給料日が可変となるそうである)

 この一ヶ月間、さぞ苦しみ抜いたことであろう。

 凡そ一月まえ、空き巣に遭ってしまった話を聞いたとき、わたしは、とっさに、「お金、貸してあげようか? 」 とたずねてみた。

 すると、即座に、「怒るよ」 と言って、ゲンコを出されてしまった。

 ああ。 そうよね。 いくら付き合っているといっても、お金の貸し借りはよくないわよね。 千円二千円じゃないものね。 しかも、彼にも男のプライドがあるのだろう、とも思った。

 とりあえず。 お金がなくて食べるものもままならぬだろう、と思い、わが家にまねいて食事をご馳走するようにした。 彼にかえって気を遣わせまいと、なるべくお金のかかっていなそうなメニューを、いろいろ苦心しながらつくった。 だいたい、そういう 「家庭の味」 とか 「冷蔵庫のありあわせのもので、簡単につくってみたの♥ 」 とかいうのが、じつはいちばん難しいような気がする。 いい食材を使って、いい調味料を使えば、それなりのものが作れるかもしれないけれど。 シンプルなものほど、ごまかしがきかないのだから。

 そうして、日々、ごはんをつくって差し上げていたのだが、さすがに彼も心苦しいようで、洗い物をしてくれたり、お風呂掃除をしてくれたりなんかした。 「いまのおれにできることは、これくらいしかない」 とのこと。

 「一宿一飯の恩義」 なんてことばを、ふと思い出してしまう。

 「困ったときは、おたがいさまだから、いいのよ」 なんて言っても、なにかせずにはいられないようで、エアコンのフィルターの掃除をしようか? とか、換気扇の掃除をしようか? なんて言って、なにかしら仕事をしようとする。 



 先日。 いっしょに映画を観に行こうということになっていて、楽しみにしていたのだが、その前日に彼から電話があり、とつぜん、「ごめん、明日、無理だわ」 と言われてしまった。

 「どうして?」 と訊いたら、腰痛がひどくて、映画を観ていられなさそう ... とのこと。 まあ。 体調が悪いのなら、仕方がないわね ... と思い、あきらめることにしたのだが。

 翌日になって、またまたとつぜん、「やっぱり、今日、観に行こう」 と言われ、出かけることに。

 あいかわらず突発的な人ねえ、と思いつつも、あきらめていた映画が観れることになって、うきうきしながら出かけた。 内心、そういえば、映画を観てしまって、お金は大丈夫なのかしら ... とも思ったけれど。



 そして。 先週末、いつものように、わが家で朝食 兼 昼食を食べ終わったときに、彼が思いつめた顔で、

 「** ちゃん、どうしてもいやだったらいいんだけど ... お願いがあるんだよ」 と言いはじめた。

 彼は、もう、情けなくてしょうがないといった顔で、「おれ、どうしても、この一週間が越せそうもねえんだ」 と言う。

 ああ。 その表情とことばで悟った私は、「いくらあれば足りるの?」 と返した。

 そうして、約一ヶ月前には怒られてしまったけれど、彼にお金を貸すことになった。 彼としては、もう、ほんとうに困窮してしまって、プライドもへったくれもないほどなのであろう。

 フト、気になって、「映画を観に行ったのがいけなかったの?」 と訊いたら、じつは、さいしょ、腰が痛いから映画を観に行くのをやめよう、と言ったのは、ほんとうはお金がなくて行きたくても行けなかったからだそうである。 お金がない、と言ったら、じゃあわたしが払ってあげる、と言われると思って、それで腰が痛いと言ったのだとか。 その電話をかけているとき、たまたま友だちといっしょだったそうで、その電話をとなりで聞いていた友だちが、「金貸してやるから、行って来なよ」 と言って、映画を観るお金を貸してくれたのだとか !

 と言っても、彼は、その申し出をさいしょは断ったそうである。 やはり、同性の友人が相手でも、彼の美学がゆるさないのだろうか? けれども、「彼女がかわいそうだから、行ってあげなよ。 おまえのために貸すんじゃなくて、彼女のために貸すよ」 と言われ (なんていい人なのだ ! )、しぶしぶお金を借りることにしたとか。

 そんな彼が、恥もプライドも捨てて、わたしにお金を借りる。 その胸のうちは、いったいどのようなものなのか。 わたしには想像できないのだが ... 。



 ある知人の男性が、「男ってのは、プライドのカタマリだ」 と言っていた。 男ってのは、プライドで生きている。 プライドがあるうちは、男は、男らしく生きていける。 プライドをもてなくなったとき、男は、男でなくなる。 と。

 これは、その方の信条なのだが、もし、それと似たようなものを、彼も有(も)っていたら ... ?

 彼のプライドはずたずたに引き裂かれ、地に落ちてしまっただろうか?

 一刻も早く、彼が復活できるよう、心から願うばかりである。





 trackback to: 『今日の幸せ』 - 「ご意見募集(特に女性)」

 --> 回答:
  男性がおごるのは、「プライド」?
  女性がおごられるのは、「相手を立てるため」?





 BGM:
 Bob Dylan ‘くよくよするなよ / Don't Think Twice, It's All Right’
 (本日、五月二十四日は、Bob Dylan のお誕生日。 おめでとう、Bob ! おめでとう、六十三歳 ! )

 # まったく関係ないが、わたしの友人は、『ジョンの魂』 を 『ジョンのカタマリ』 と読みちがえていた。
コメント (7)
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