先日は、午後から、「葛西臨海公園」 というところに行ってきた。
葛飾区に住んでいたころは、環七を飛ばして、よく遊びに行っていたのだけれど。
私の友人 (というか彼) が、行ったことがない、というので、連れて行ってあげることにしたのだ。 海が大好きな人なので、ほんの少しでも、潮風にあたってもらいたい、海の気分を味わってもらいたい、と思って。
東京メトロ (この名称、慣れないなあ ... ) の東西線で、「葛西」 駅まで来て、そこからバスに乗った。 約十五分ほどで、到着。
なまあたたかい海風に迎えられ、さっそくとばかりに、公園をまっぷたつに横切って、波打ち際まで向かった。 子どもたちが、はしゃぎながら、水遊びをしていた。 彼は、とてもうらやましがっていたが、水着を用意してこなかった。 タオルもない。 たしか遊泳禁止のはずなので、そこまで気が回らなかったのだ。
仕方ないので、しばし砂浜で、子どもたちの歓声と波の音を聞きながら、潮風にあたった。 気温は相当高いはずだが、不快ではなく、むしろ、心地よかった。
そのあと、しばらく公園内を散歩し、芝生のうえにビニール・シートを敷いて、寝転んだ。 夏の空に、吸い込まれそうになりながら、じっと、雲を見つめていた。
そうしていると、どこからか、いきなりワンちゃんが飛び込んできて、彼のうえに乗っかり、顔じゅうぺろぺろぺろぺろやりはじめた。 半分寝ていた彼は、とつぜんの 「アタック」 に、びっくりしていた。
飼い主の女の子が、「すみませーん」 と言ってあわててやって来た。 そして、じたばた暴れるワンちゃんを連れて、去っていった。
こんなうれしいびっくりならば、大歓迎なので、ちょっぴり名残惜しい。
二人で笑っていたら、そこへ、ヨチヨチ歩きの男の子がやって来て、たどたどしい手で、私のほっぺをさわった。
私がうれしくて、その小さな手をとって、遊ぼうとしたら、お母さんがすぐに飛んできて、「こら、だめでしょう? おにいちゃんがいるんだから。 声かけるなら、ひとりのおねえちゃんにしろって、言ってるでしょ」 と言って、男の子をだっこして、去っていった。
男の子が、こちらをじっと見ていたので、私たちは、手をふった。
そのうち、今度は、五歳くらいの男の子が、張り裂けんばかりの声をあげて、泣きながら、私たちのほうへ突進してきた。 涙の粒が、あちこちに弾け飛んで、きらきらしていた。
私たちは、その男の子を受け止め、どうどうとあやしてあげた。 どうやらだれかに叱られたらしく、口惜しくて泣いているようだったのだが、やがてお母さんがやって来て、「ごめんなさいね」 と言って、男の子を連れていった。
どうも、その日、私たちは、「モテ日」 だったようだ。
「いや、さっきの男の子、すごかったな」
「うん。 全力で泣いてたよね」
「子どもってのは、いいよな」
「全身全霊で泣けるからね」
石川 啄木の短歌で、
というものがあるが、そんなこころは、もうとっくにどこかに置いてきてしまったことに気づき、私たちは、ふたたび空を見上げた。
雲のうえに影ができて、まるで、エクレアのように見えた。
もう夕方だった。
夜、渋谷で用事があったので、そろそろ帰ろう、と、帰り支度をはじめた。
彼が、まだ心残りがあったようなので、もう一度、散歩することにした。
鳥類を放し飼いしている池があるようで(以前はなかったような気がする)、そちらのほうへ行ってみることにした。
なんだか、「スワンプ地帯」 のように、池の周りは、草木がうっそうと茂っていて、じぶんがどこにいるのかを、わすれそうになった。 ねこもたくさんいた。 花もたくさん咲いていた。 みみずや毛虫もいた。 かにやバッタも。 通路脇には 「まむし注意」 の立て札が ... 。 ま、まむしって。 噛まれたら、たいへんだ。 うっかり変なところに足も踏み込めない。
想像以上のワイルドさにちょっとびっくりした私が、「なんだか、生きものがたくさんいるね」 と言ったら、彼は、
「そうだな。 でも、これが、ふつうなんだよな」 と言った。
ああ。 そう言われてみると、そうかもしれない。 コンクリートに囲まれた都会が、人間のためだけに作られ、生きものたちを排除した、ふつうでない世界なのかも ... 。
田舎育ちの、田舎者なのに、すっかり東京暮らしに慣れてしまって、わすれてしまっていた。
彼は、東京にいても、まったく、子どものころのこころをわすれていないのだ。
彼の服にアリなんかが ついていたりすると、私は、「アリがいるよ」 なんて言って、さっとはらってしまうけれど、彼は、「あ、そいつ、おれの友だちなのに ... 。 ジェニファー、どこ行った」 なんて冗談を言うくらい、生きものが好きな彼。 そして、そんな彼が好きなのだ。
私たちは、幸福な気持ちで、東京の片隅の、海とスワンプの園に、別れを告げ、夜の都会へ落ちていった。
BGM:
Happy End ‘Kaze wo Atsumete’
葛飾区に住んでいたころは、環七を飛ばして、よく遊びに行っていたのだけれど。
私の友人 (というか彼) が、行ったことがない、というので、連れて行ってあげることにしたのだ。 海が大好きな人なので、ほんの少しでも、潮風にあたってもらいたい、海の気分を味わってもらいたい、と思って。
東京メトロ (この名称、慣れないなあ ... ) の東西線で、「葛西」 駅まで来て、そこからバスに乗った。 約十五分ほどで、到着。
なまあたたかい海風に迎えられ、さっそくとばかりに、公園をまっぷたつに横切って、波打ち際まで向かった。 子どもたちが、はしゃぎながら、水遊びをしていた。 彼は、とてもうらやましがっていたが、水着を用意してこなかった。 タオルもない。 たしか遊泳禁止のはずなので、そこまで気が回らなかったのだ。
仕方ないので、しばし砂浜で、子どもたちの歓声と波の音を聞きながら、潮風にあたった。 気温は相当高いはずだが、不快ではなく、むしろ、心地よかった。
そのあと、しばらく公園内を散歩し、芝生のうえにビニール・シートを敷いて、寝転んだ。 夏の空に、吸い込まれそうになりながら、じっと、雲を見つめていた。
そうしていると、どこからか、いきなりワンちゃんが飛び込んできて、彼のうえに乗っかり、顔じゅうぺろぺろぺろぺろやりはじめた。 半分寝ていた彼は、とつぜんの 「アタック」 に、びっくりしていた。
飼い主の女の子が、「すみませーん」 と言ってあわててやって来た。 そして、じたばた暴れるワンちゃんを連れて、去っていった。
こんなうれしいびっくりならば、大歓迎なので、ちょっぴり名残惜しい。
二人で笑っていたら、そこへ、ヨチヨチ歩きの男の子がやって来て、たどたどしい手で、私のほっぺをさわった。
私がうれしくて、その小さな手をとって、遊ぼうとしたら、お母さんがすぐに飛んできて、「こら、だめでしょう? おにいちゃんがいるんだから。 声かけるなら、ひとりのおねえちゃんにしろって、言ってるでしょ」 と言って、男の子をだっこして、去っていった。
男の子が、こちらをじっと見ていたので、私たちは、手をふった。
そのうち、今度は、五歳くらいの男の子が、張り裂けんばかりの声をあげて、泣きながら、私たちのほうへ突進してきた。 涙の粒が、あちこちに弾け飛んで、きらきらしていた。
私たちは、その男の子を受け止め、どうどうとあやしてあげた。 どうやらだれかに叱られたらしく、口惜しくて泣いているようだったのだが、やがてお母さんがやって来て、「ごめんなさいね」 と言って、男の子を連れていった。
どうも、その日、私たちは、「モテ日」 だったようだ。
「いや、さっきの男の子、すごかったな」
「うん。 全力で泣いてたよね」
「子どもってのは、いいよな」
「全身全霊で泣けるからね」
石川 啄木の短歌で、
叱られて
わっと泣き出す子供心
その心にもなりてみたきかな
というものがあるが、そんなこころは、もうとっくにどこかに置いてきてしまったことに気づき、私たちは、ふたたび空を見上げた。
雲のうえに影ができて、まるで、エクレアのように見えた。
もう夕方だった。
夜、渋谷で用事があったので、そろそろ帰ろう、と、帰り支度をはじめた。
彼が、まだ心残りがあったようなので、もう一度、散歩することにした。
鳥類を放し飼いしている池があるようで(以前はなかったような気がする)、そちらのほうへ行ってみることにした。
なんだか、「スワンプ地帯」 のように、池の周りは、草木がうっそうと茂っていて、じぶんがどこにいるのかを、わすれそうになった。 ねこもたくさんいた。 花もたくさん咲いていた。 みみずや毛虫もいた。 かにやバッタも。 通路脇には 「まむし注意」 の立て札が ... 。 ま、まむしって。 噛まれたら、たいへんだ。 うっかり変なところに足も踏み込めない。
想像以上のワイルドさにちょっとびっくりした私が、「なんだか、生きものがたくさんいるね」 と言ったら、彼は、
「そうだな。 でも、これが、ふつうなんだよな」 と言った。
ああ。 そう言われてみると、そうかもしれない。 コンクリートに囲まれた都会が、人間のためだけに作られ、生きものたちを排除した、ふつうでない世界なのかも ... 。
田舎育ちの、田舎者なのに、すっかり東京暮らしに慣れてしまって、わすれてしまっていた。
彼は、東京にいても、まったく、子どものころのこころをわすれていないのだ。
彼の服にアリなんかが ついていたりすると、私は、「アリがいるよ」 なんて言って、さっとはらってしまうけれど、彼は、「あ、そいつ、おれの友だちなのに ... 。 ジェニファー、どこ行った」 なんて冗談を言うくらい、生きものが好きな彼。 そして、そんな彼が好きなのだ。
私たちは、幸福な気持ちで、東京の片隅の、海とスワンプの園に、別れを告げ、夜の都会へ落ちていった。
BGM:
Happy End ‘Kaze wo Atsumete’