世に言う、
「阪神大震災」 があったとき、おれの、じいちゃんとばあちゃんは、神戸市北区に住んでいた。
あの日の朝、午前五時四十六分、とつぜん、はげしい揺れにおそわれて、飛び起きたじいちゃんは、とっさに、となりで寝ているばあちゃんのうえに、四つん這いに乗っかった。
ばあちゃんもびっくりして目を覚ましたが、揺れが収まるまで、凍りついたように、じっとしていた。
そして、なんとか揺れがおさまったので、ほっとして、じいちゃんが、ばあちゃんのうえから離れようとしたら、たんすの上から、オルゴールがごとんと、落ちた。
その、オルゴールは、じいちゃんが、何回目かの結婚記念日に、ばあちゃんに贈ったものだった。
床のうえに落ちたオルゴールのふたが開いて、音楽が流れはじめた。
「Moon River」
じいちゃんとばあちゃんは、恐怖をひとときわすれ、そのままの態勢で、くすくすと笑い合った。
その後、避難生活をしなければならない、きびしい日々がつづいたが、ばあちゃんは、折りにふれて、そのオルゴールを開き、「Moon River」 の音色に聴き入った。
おれたちが、どんなに呼び寄せても、東京には住めない、と言って、なにがなんでも、頑として神戸を離れなかった、じいちゃんとばあちゃん。
震災の日から、ちょうど半年後、じいちゃんは、死んだ。
きょうは、九周忌になる。
「阪神大震災」 があったとき、おれの、じいちゃんとばあちゃんは、神戸市北区に住んでいた。
あの日の朝、午前五時四十六分、とつぜん、はげしい揺れにおそわれて、飛び起きたじいちゃんは、とっさに、となりで寝ているばあちゃんのうえに、四つん這いに乗っかった。
ばあちゃんもびっくりして目を覚ましたが、揺れが収まるまで、凍りついたように、じっとしていた。
そして、なんとか揺れがおさまったので、ほっとして、じいちゃんが、ばあちゃんのうえから離れようとしたら、たんすの上から、オルゴールがごとんと、落ちた。
その、オルゴールは、じいちゃんが、何回目かの結婚記念日に、ばあちゃんに贈ったものだった。
床のうえに落ちたオルゴールのふたが開いて、音楽が流れはじめた。
「Moon River」
じいちゃんとばあちゃんは、恐怖をひとときわすれ、そのままの態勢で、くすくすと笑い合った。
その後、避難生活をしなければならない、きびしい日々がつづいたが、ばあちゃんは、折りにふれて、そのオルゴールを開き、「Moon River」 の音色に聴き入った。
おれたちが、どんなに呼び寄せても、東京には住めない、と言って、なにがなんでも、頑として神戸を離れなかった、じいちゃんとばあちゃん。
震災の日から、ちょうど半年後、じいちゃんは、死んだ。
きょうは、九周忌になる。