【解説】 Qアノン陰謀論とは何か、どこから来たのか 米大統領選への影響は
2020年9月25日 マイク・ウェンドリン、BBCニュース
「QAnon(キュー・アノン)」と呼ばれる極端な陰謀論は、アメリカを中心にオンラインで人気を増している。そしてその支持者は、どうやら自分のことが好きなようだと、ドナルド・トランプ米大統領が発言するに至った。
トランプ氏は8月18日の定例記者会見で「Qアノン」について意見を求められ、「この国を愛する人たちだと聞いた」と答えた。
「おそらく僕のことが好きらしいというほかは、実際は何も知らないんだ」
フェイスブックやツイッターといったソーシャルメディア各社は、「Qアノン」の過激で突拍子もない主張を広める動画やサイトにリンクする何千ものアカウントやアドレスについて、削除や凍結など厳しい姿勢で臨んでいる。
では、「Qアノン」とは何で、どういう人たちがその内容を信じているのか。
いったい何なのか
「Qアノン」の中心にあるのは根拠のない陰謀論で、「政財界とマスコミにエリートとして巣くう、悪魔崇拝の小児性加害者たちに対して、トランプ大統領は秘密の戦争を繰り広げている」というのが主なテーマだ。
この陰謀論を様々な形で吹聴する「信者」たちは、「トランプvs悪のエリート」という構造のこの戦いの結果、いずれヒラリー・クリントン氏など著名人が逮捕され処刑されることになると憶測を重ねている。
これが基本的なあらすじだ。しかし、ここから派生して大量の諸説が派生し、ぐるぐると迷走し、論争になったりしている。「Qアノン」の主張の全容は膨大で、お互いに矛盾することが多い。支持者たちはニュースや歴史的事実に数秘術などを適宜、組み合わせては、独自の突拍子もない結論に至ったりしている。
そもそもの発端は
2017年10月に、匿名掲示板「4chan」に「Q」を名乗るユーザが連投した。「Q」は、自分が投稿しているのは「Q承認」という米政府の機密レベルの内容だと主張した。
一連の投稿はやがて、「Qドロップ」や「ぱんくず」と呼ばれるようになった。トランプ支持のテーマやスローガンや誓いの言葉などが散りばめられ、はたからは分かりにくい言葉遣いの内容が多かった。
本気にしている人はいるのか
実は、かなり大勢いる。4chanなどからフェイスブック、ツイッター、レディット、YouTubeなどへ流入した「Qアノン」的投稿の量は2017年以降、爆発的に増えている。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)の最中に、またさらに増えたようだ。
ソーシャルメディアの様子から判断するに、「Qアノン」の突拍子もない主張の少なくとも一部を信じる人は、数十万人はいる。
「Qアノン」の主張を完全に否定したと思える出来事があっても、その陰謀論の人気は衰えない。たとえば、初期の「Qドロップ」は、ロバート・ムラー前特別検察官によるロシア疑惑捜査ばかりを取り上げていた。
「Qアノン」の支持者たちは、ムラー特別検察官が捜査しているのは実は2016年米大統領選へのロシア介入疑惑ではなく、それは大がかりな見せ掛けに過ぎず、捜査は実は小児性加害者の集団に関するものだと言い張っていた。ムラー氏の捜査は終結し、小児性加害者についての一大暴露などまったくなかった。すると陰謀論好きの関心は別のことに移っていった。
熱烈な支持者は、そもそもQは自分のメッセージにわざと誤情報を織り交ぜているのだと主張する。そう主張することで、自分たちの信じる陰謀論は彼らの頭の中で反証不可能になるというわけだ。
どういう影響が
「Qアノン」の支持者たちは、小児性加害集団の犯罪隠しに加担していると信じ込んだ政治家やジャーナリスト、有名人を「敵」と認定し、否定的なハッシュタグやメッセージを大量に投稿する。
自分たちの陰謀論に沿って「敵」とみなした相手をオンラインで攻撃するだけではない。ツイッターが「Qアノン」に対抗措置をとったのは、「オフラインで実害」があり得ると判断したからだという。
具体的な脅迫やオフラインでの行動が理由で逮捕された「Qアノン」信者もいる。
2018年には、大量の武器を装備した男がアメリカ中西部のフーバー・ダムにかかる橋を占拠した。この有名な事件では、マシュー・ライト被告(32)が後にテロ罪で起訴され、有罪を認めた。
米大統領選への影響は
米ピュー研究所の調査によると、ほとんどのアメリカ人は「Qアノン」について聞いたこともないと答えている。しかし、多くの信者にとって、自分は「Qアノン」を信じるからこそトランプ支持者なのだという、その発想の根幹をなしている。
過去にトランプ氏はわざとか知らずしてかは不明だが、「Qアノン」支持者の発言をリツイートしてきた。息子エリック・トランプ氏もインスタグラムに、「Qアノン」のミーム(拡散用の動画・画像)を投稿している。
11月3日に大統領選と合わせて行われる連邦議会選挙では、数十人の「Qアノン」支持者が出馬している。ほとんどに当選の見込みはないが、ジョージア州から連邦下院選に出馬しているマージョリー・テイラー・グリーン候補は当選の可能性が高いとみられる。
「Qアノン」支持者や、少なくとも陰謀論に同調的な人がかなりの確率で、アメリカの連邦議会議員になりそうだ。
(追加取材:ジャック・グッドマン、シャヤン・サーダリザデ)
https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-53929442
2020年9月25日 マイク・ウェンドリン、BBCニュース
「QAnon(キュー・アノン)」と呼ばれる極端な陰謀論は、アメリカを中心にオンラインで人気を増している。そしてその支持者は、どうやら自分のことが好きなようだと、ドナルド・トランプ米大統領が発言するに至った。
トランプ氏は8月18日の定例記者会見で「Qアノン」について意見を求められ、「この国を愛する人たちだと聞いた」と答えた。
「おそらく僕のことが好きらしいというほかは、実際は何も知らないんだ」
フェイスブックやツイッターといったソーシャルメディア各社は、「Qアノン」の過激で突拍子もない主張を広める動画やサイトにリンクする何千ものアカウントやアドレスについて、削除や凍結など厳しい姿勢で臨んでいる。
では、「Qアノン」とは何で、どういう人たちがその内容を信じているのか。
いったい何なのか
「Qアノン」の中心にあるのは根拠のない陰謀論で、「政財界とマスコミにエリートとして巣くう、悪魔崇拝の小児性加害者たちに対して、トランプ大統領は秘密の戦争を繰り広げている」というのが主なテーマだ。
この陰謀論を様々な形で吹聴する「信者」たちは、「トランプvs悪のエリート」という構造のこの戦いの結果、いずれヒラリー・クリントン氏など著名人が逮捕され処刑されることになると憶測を重ねている。
これが基本的なあらすじだ。しかし、ここから派生して大量の諸説が派生し、ぐるぐると迷走し、論争になったりしている。「Qアノン」の主張の全容は膨大で、お互いに矛盾することが多い。支持者たちはニュースや歴史的事実に数秘術などを適宜、組み合わせては、独自の突拍子もない結論に至ったりしている。
そもそもの発端は
2017年10月に、匿名掲示板「4chan」に「Q」を名乗るユーザが連投した。「Q」は、自分が投稿しているのは「Q承認」という米政府の機密レベルの内容だと主張した。
一連の投稿はやがて、「Qドロップ」や「ぱんくず」と呼ばれるようになった。トランプ支持のテーマやスローガンや誓いの言葉などが散りばめられ、はたからは分かりにくい言葉遣いの内容が多かった。
本気にしている人はいるのか
実は、かなり大勢いる。4chanなどからフェイスブック、ツイッター、レディット、YouTubeなどへ流入した「Qアノン」的投稿の量は2017年以降、爆発的に増えている。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)の最中に、またさらに増えたようだ。
ソーシャルメディアの様子から判断するに、「Qアノン」の突拍子もない主張の少なくとも一部を信じる人は、数十万人はいる。
「Qアノン」の主張を完全に否定したと思える出来事があっても、その陰謀論の人気は衰えない。たとえば、初期の「Qドロップ」は、ロバート・ムラー前特別検察官によるロシア疑惑捜査ばかりを取り上げていた。
「Qアノン」の支持者たちは、ムラー特別検察官が捜査しているのは実は2016年米大統領選へのロシア介入疑惑ではなく、それは大がかりな見せ掛けに過ぎず、捜査は実は小児性加害者の集団に関するものだと言い張っていた。ムラー氏の捜査は終結し、小児性加害者についての一大暴露などまったくなかった。すると陰謀論好きの関心は別のことに移っていった。
熱烈な支持者は、そもそもQは自分のメッセージにわざと誤情報を織り交ぜているのだと主張する。そう主張することで、自分たちの信じる陰謀論は彼らの頭の中で反証不可能になるというわけだ。
どういう影響が
「Qアノン」の支持者たちは、小児性加害集団の犯罪隠しに加担していると信じ込んだ政治家やジャーナリスト、有名人を「敵」と認定し、否定的なハッシュタグやメッセージを大量に投稿する。
自分たちの陰謀論に沿って「敵」とみなした相手をオンラインで攻撃するだけではない。ツイッターが「Qアノン」に対抗措置をとったのは、「オフラインで実害」があり得ると判断したからだという。
具体的な脅迫やオフラインでの行動が理由で逮捕された「Qアノン」信者もいる。
2018年には、大量の武器を装備した男がアメリカ中西部のフーバー・ダムにかかる橋を占拠した。この有名な事件では、マシュー・ライト被告(32)が後にテロ罪で起訴され、有罪を認めた。
米大統領選への影響は
米ピュー研究所の調査によると、ほとんどのアメリカ人は「Qアノン」について聞いたこともないと答えている。しかし、多くの信者にとって、自分は「Qアノン」を信じるからこそトランプ支持者なのだという、その発想の根幹をなしている。
過去にトランプ氏はわざとか知らずしてかは不明だが、「Qアノン」支持者の発言をリツイートしてきた。息子エリック・トランプ氏もインスタグラムに、「Qアノン」のミーム(拡散用の動画・画像)を投稿している。
11月3日に大統領選と合わせて行われる連邦議会選挙では、数十人の「Qアノン」支持者が出馬している。ほとんどに当選の見込みはないが、ジョージア州から連邦下院選に出馬しているマージョリー・テイラー・グリーン候補は当選の可能性が高いとみられる。
「Qアノン」支持者や、少なくとも陰謀論に同調的な人がかなりの確率で、アメリカの連邦議会議員になりそうだ。
(追加取材:ジャック・グッドマン、シャヤン・サーダリザデ)
https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-53929442