M.シュナウザー・チェルト君のパパ、「てつんどの独り言」 

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ランブラス通りと聞くと

2017-09-24 | エッセイ


 先日のISIS系のテロリストが大型バンを乗入れて、ジグザグ運転で意図的に歩いている人たちを跳ね飛ばして有名になったバルセロナのランブラス。事件を聞いて、もしやあの美しい通りではと思った。この道には真ん中に幅広い歩道があって、両側に高い街路樹の立ち並ぶ歩道に花屋や、土産物を売るキオスクなどが並び、車は遠慮がちに歩道の右と左の外側を、一方通行で流れていた。主人公は、もちろん散歩する人たち。恋人たちが、そっと手をつないで語りながら歩く。父さんと母さんと子供たちが、にぎやかに話しながら歩くプロムナード。



 <ランブラス通り>

 昔、若い仲間4人と、ランブラス通りに面したホテルに、3~4泊した記憶がある。仲間とは、日本から南仏のモンペリエに3か月間、フランス人の作ったMRPシステムを検証し導入するための準備作業だった。復活祭の休みに、真面目なリーダーだけをモンペリエに残し、車でバルセロナまで国境を越えてスペインへ旅した。



 <南仏モンペリエのシンボル広場 ラ コメディ>

 バルセロナは、ガウディやピカソで知られ、陽気なスペイン人に触れ、バルで長めのアペリティーフを取り、ゆったりとした時間を過ごした記憶がある。

 この旅には一人の女の子が、仲間のMにくっついて参加していた。彼女はモンペリエ大学に留学中で、Mと親しくなっていた。他の仲間は、ほとんど知らない女の子、Y子ちゃんだ。

 バルセロナでも、当然MがY子ちゃんを面倒みると僕は信じていた。少しぽっちゃり系の、色の白い女の子だった。しかし、着いた夜、僕とY子ちゃんが、ホテルのロビーに取り残されたのだ。Mや、そのほかの友達に電話しても応答がない。ロビーで会う約束をしていたのに現れない。しかたなく、僕がその夜、Y子ちゃんの面倒を見る羽目になってしまった。Mは他の友達、Sとスペインの女性と「親密な時間」を持つ為に、Y子ちゃんを置き去りにしたのだ。結果として、ベソをかいているY子ちゃんを放り出すこともできず、僕が行く予定だったフラメンコを見に一緒に出掛けることになった。

 モンペリエに戻って、その後、MとY子ちゃんがどうなったかは詳しくは知らない。ただ、日本に帰って数年たって、Mはスポーツウーマンの、しっかりした感じの女性と結婚した。Y子ちゃんとは別れたんだと知った。

 Mとは、その後も同じSEとして同じ部門に所属し、友達としての時間が流れた。さらに僕がI社を止めてからも、友達付き合いが続いた。

 彼が、日本にある「モンペリエ会」のメンバーになったのは知らなかったが、突然連絡が来た。Mは、僕の本にモンペリエのことが書いてあるのを知っていた。その本をもって招待された「モンペリエ会」に出席したいと言ってきた。本の注文を入れたのだが、会合に間にあいそうにもないので、僕の手元に本が有ればそれを融通してくれないかとの依頼だった。手元の本を5冊だったか、サインをしてMに送り届けた。その本を、モンペリエを知る人たちの会で、どう使ったのかは知らない。

 それからまた時間がたって、モンペリエの教会にいた日本人シスター、RYが神戸に帰国しているのを知っているかとMから連絡をもらった。僕は、モンペリエでシスターとは付き合いがなかったから、そのままにしていた。

 ところが、元気印のMは突然の病気で、2015年にあの世に旅立った。テニスの上手い本当のスポーツマンだったのに、突然消えた。



 <元気印のM>

 「モンペリエ会」に、I社から関係していたのはMだけだったようなので、僕は神戸のシスター、RYにMが急逝したことを告げた。
 
 シスターは、Mのモンペリエ時代の彼女、Y子さんも、「モンペリエ会」のメンバーなので、Y子さんに連絡を取ってみると言った。メールアドレスを彼女に知らせてもいいかと訊いてきたから、どうぞと言った。しかし、Y子さんから僕への連絡はなかった。結婚して苗字も変わっていた。

 その年末、モンペリエ会が神戸で行われるので出席しないかと招待されたが、僕は心臓君の問題もあり、横浜から神戸まで出かけるのは…と思って欠席のハガキを出した。

 後日、神戸での会の出席者名簿をシスターから受けとったが、そこにはY子さんの名前はなかった。欠席していた。

 Y子さんのメールアドレスは、シスターからもらっているので、連絡は取れるのだが、僕の方から連絡を取ることもないと、そのまましている。Mがいなくなって、特に話すこともないからだ。

 そんな中で、今回のバルセロナのテロ。久しぶりに聞いたランブラス通りの名前は、僕の古い思い出へと繋がっていった。まあ、あれがMの青春の日々だったのだなぁと、あらためて、Mの死を思った。



 <ランブラスのホテル>

 今回の事件が起きたのは、自分が置き去りにされたホテルに面したランブラス通りだったから、Y子さんも、あの思い出を間違いなくたぐり寄せたにちがいない。どんな思いをしたのだろうか、と思う。



 <空から見たランブラス通り>