2001年のイタリア年から始まった、17年の歴史を持つ「イタリア映画祭・2017」を数寄屋橋マリオンで見て来た。9年連続、欠かさず見てきている。日本ではなかなか見られない現代イタリア映画15本の新作を、ゴールデンウイークに上映している。イタリア文化会館と朝日新聞、そしてチネチッタが主催で、イタリア大使館が後援しているすばらしい企画だ。

<2017年イタリア映画祭>
今年観たのは、「歓びのトスカーナ」という作品。

<歓びのトスカーナのポスター>
今回、僕は選択を誤った。「歓びのトスカーナ」という題名と、ブローシャーにある赤いランチャのオープンカーとトスカーナらしい風景を見て、この映画を選んだ。これが大きな間違いだった。トスカーナと聞けば、僕の中には2012年に車を転がした2週間のトスカーナの旅の思い出が蘇り、シエナ、オルチャ渓谷、サンジミニアーノ、モンタルチーノ、ルッカなどの長閑なトスカーナの景色をもう一度見たいという気持ちが強く湧いていたからだ。
しかし、その思いは、もろくも崩れた。最近の流れで今年も喜劇を選んで観たつもりだったが、今回は喜劇でもなかった。喜劇的な場面もあるが、見終わるとシリアスな人生の物語だった。
場所は確かにトスカーナのピストイアとか、温泉のモンテカチーノとか、ヴィアレジョが舞台だが、トスカーナの風景を楽しめることはなかった。
さらに、日本語の題名「歓びのトスカーナ」は、全くの誤訳だと強く思う。歓びは最後には湧いてきたが、それはトスカーナという場所とは無関係だった。完全に、名は体を表していない題名だ。
イタリア語の原題は、”La pazza gioia”、直訳すれば「狂人の歓び」という映画だったのだ。この題名の方が、内容としてはふさわしいと思う。少し精神を病んだ二人の女の、最終的には感動を与えてくれる物語だったからだ。
作品紹介
「歓びのトスカーナ」 2016年/116分
原題:La pazza gioia
監督:パオロ・ヴィルジ Paolo Virzi
主演者と役割:
テデスキ:ベアトーチェ役
ミカエラ・ラマッツォッティ:ドナテッラ役

<この映画のブローシャー>
僕の書くあらすじ
絶え間なく喋りまくる元侯爵夫人と自称しているベアトリーチェと、うつの傾向の強い口数の少ないドナッテラの二人が、トスカーナ・ピストイアのメンタルディスオーダーの治療施設で出会う。ベアトリーチェは、遺言は書き換えられていて、事実上は一文無し。心の中の不安を忘れるためにしゃべりまくる。方や、ドナッテロは強度のうつ症状が出て、抗うつ剤のお世話になっている元ダンサー。全身にタトゥーを入れ、息子を取り上げられた経緯を持つ。
ある日、2人はリハビリの散歩中にバスに乗り逃走する。ヒッチハイクにも助けられ、さらにはかっぱらったオープンカーをドナテッラが運転して、ショッピングモールや、温泉施設を尋ね、カネもない、薬もない、ゴールもない旅をする。

<ランチャのオープンカー>
そんな中、ドナテッラが息子のマウリッツオ道ずれに心中しようとしたことをベアトリーチェに打ち明ける。二人は、この世界を共有する友達になる。
息子を引き取ってくれた家を訪ね、ドナテッラは自分を母だと知らぬ息子と言葉を交わす。また会おうね…と。そして、クライマックスは、ヴィアレッジョの海で、自分の息子と砂浜で遊ぶことが出来たドナテッラの姿だ。息子を育ててくれた夫婦は、こみ上げる涙を押さえて、遊ぶ二人を無言で見守る。ドナッテラは、母とは名乗らずに収容所に戻っていく。
ドナテッラの心には、新しい人生を生きなおすという、新しい目的が芽生えていた。
感想
このアイロニーと、ユーモアと、病気を伴った人生ドラマが、人生の不完全さをにじませながら観客に迫ってくる。見終わった観客には、きっと、この二人は近く立ち直り、新しい人生を歩き始めるという、明るい、確かな将来の路程が透けて見えてくるはずだ。二人の主演者と、息子の存在が大きく、監督のいざなう心情が伝わってきたすばらしい人生ドラマだった。

<2017 スポンサー>
以前はイタリアブームで、この映画祭への観客の全国的な期待値も高く、なかなかチケットが手に入れられなかった状況だった。しかし、最近、乗客数は減っている。平土間では、一列毎に、客を入れない列を設けて客を座らせていた。見る方からすれば、前の人の頭をよけながら、映画を見るということを解決してくれる配慮だ。しかし、観客数は減った。しかも、若者がいない。
映画祭のHPのコンテンツも貧しくなり、フェラガモのリーフレットの質も下がったような気がした。少し下り坂に入ってのかもしれない。もっと多くの日本の人に、人間を丹念に描いているイタリア映画を見てもらいたいと思うのだが。
朝日ホールを出て銀座を歩くと、ゴールデンウイークだから、人がごった返していた。

<ごった返す銀座>
趣味の悪いGinza Sixに、人の列ができていた。いやだ、いやだ。
P.S.
<歓びのトスカーナのポスター>と<ごった返す銀座>以外の絵は、
「2017イタリア映画祭」のブローシャーとHPよりお借りしました。
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