新潮文庫 宮部みゆき『あかんべえ(下)』を読了しました。
あらすじと感想をざっくりと備忘録として書きます。
※ネタばれがありますのでご注意ください。
※ネタばれがありますのでご注意ください。
※文中の敬称は省略させていただきます。
【目次】
あかんべえ 下巻
解説ー理想像について 菊地秀行
【あらすじ】
料理屋「ふね屋」には五人の亡者が迷っていた。あかんべえをする少女、美男の若侍、婀娜っぽい姐さん、按摩のじいさん、宴席で暴れたおどろ髪の男。亡者と心を通わせていくうちに、おりんは、ふね屋の怪異が三十年前にここで起きた忌まわしい事件に関わっていることに気づく。
幾重もの因縁の糸はほどかれ、亡者は成仏できるのだろうか?
ファンタジーとミステリーと人情話が溶け込んだ江戸時代もの。
【感想】
下巻のほうがするすると読み進められた。上巻では亡者絡みの騒動が次々に起き、訳がわからず??となっていたから。
亡者のおみつが言う台詞、「ああ、嫌だ嫌だ! 人ってのはどうしてこう、汚いんだろうね。どうしてもっと潔くなれないんだろう?」。同じ亡者の玄之介が「それがわかれば苦労はないさ」と答える。刺さる台詞だ…。
白子屋たちがふね屋に会する件では、名前が似たりよったりで紛らわしい。特に町人の女性たち(亡者も含めて)は皆、頭に「お」がつく平仮名なので余計に混乱してくる。読んでいて「誰だっけ?続き柄は?」と、頭がフル回転しながらなのでおもしろいけど疲れてくる。横溝正史の作品を読んでいる気分になった。
おゆうは父親の白子屋に捨てられた恨みと、腹違いの妹への妬みで生きながら亡者のようになっていた。亡者のおどろ髪がおゆうに向かって言う台詞が痛く哀しい。。真実だから。
「おまえの、親父。妹。おまえの、ものじゃない。親父も、妹も、おまえの、ものじゃない。親父も、妹も、おまえの、取り分じゃない。他人だ。争っても、何もない。争おうと、思ったときに、争ってでも、ほしかったもの、おまえがほしかった取り分、そんなものは、消えて、なくなってしまった。みんな、消えて、なくなって、しまった。だから、おまえは、他所へ行った方が、ずっとずっと、よかったんだよ」
亡者の銀次とおどろ髪の件は、もう完全にオカルトかホラー。ちょっとくどいかもしれない。
「心のしこり」と「何かへ強い想い」がある者が、同じ心情をもつ亡者が見える…ということになっている。だから見える者には見えるし、見えない者には見えない。唯一の例外はおりんだけだ。
最後は大団円。おりんが亡者を見てしまう謎が解き明かされる。全ての伏線はきっちりと回収されて、絵画の消失点に向かっていくような感覚がした。
ホラー風味をふりかけた上質な江戸時代ものファンタジー作品。