自分の「トリセツ」を作ろう 「生きづらさ」克服への道示す 発達障害抱える大学生
2/8(火) 8:01配信・時事通信
「周囲とうまく協調できない」「ミスが多い」「すぐパニックに陥る」といった特性を持つ人は、発達障害を疑うべきだという意見もある。
ただ、周囲に溶け込めなかったり、ミスを連発したり、失敗して頭が真っ白になったりといった現象は、誰にでも起こり得る。そうした自分の特性と向き合い、困難を克服する方法はないのだろうか…。
そんな悩みに一筋の光を与えてくれそうなのが、発達障害の当事者で帝京大学1年生の西川幹之佑さんの著書「死にたかった発達障がい児の僕が自己変革できた理由~麹町中学校で工藤勇一先生から学んだこと」(時事通信社)だ。この中では、自分が直面する課題解決のため「自分のトリセツ=取扱説明書」を作り、自己コントロールの方法を身に付けることで、生きづらさを克服しようという果敢な試みの過程が分かりやすく解説されている。
西川さんは幼い頃から多動で、言葉の発達が遅く、気に入らないことがあると大暴れする「超問題児」だった。幼稚園は入園から2時間で退園処分となり、小学校1、2年で通った特別支援学級にもなじめなかった。3年生から通常学級に移るが、授業の内容で分からないことがあると教室を飛び出すような問題行動を繰り返した。
その後、東京都千代田区立麹町中学校に進学、そこで工藤勇一校長に出会ったことが人生を変えたという。西川さんがどう変わり、発達障害に特有の困難をどのように克服したかを西川さん本人に聞いた。
―本を書こうと思ったきっかけは何でしょう。
高校3年生の夏休み、なかなか英検2級に合格できないので、麹町中で工藤先生に教わった「マインドマップ」(写真)を作って、自分の目標とそこに向かう上での問題点を分析してみました。
すると、「自分の得意なことは自分だけのものであるうちは価値はないが、自分以外の誰かに伝えることができたら価値を持つようになる」という工藤先生のお言葉に行き当たりました。発達障がいである自分の実体験は「得意なこと」とは少し違うかもしれませんが、18年間かけて身に付けたことが誰かの役に立てるかもしれない、そう伝える手段として本を書こうと思いました。
―書字障害を持っていることが著書にも書かれていますが、執筆ではどんな点に苦労しましたか。
今回の執筆は、原稿用紙にペンで書いたわけではなく、パソコンのワープロソフトでタイピングしたものを基に、母や編集者さんと口頭でのやりとりをした上で原稿にしていきましたので、その点での苦労はありません。もともと僕の文章力は低いので、本当に言いたいことが伝わるようにするため、母の協力を仰ぎました。自分ですべて書くのだったら、本の出版は諦めたと思います。
―一番大変だったのは、どんなことでしたか。
18年の人生で「暗黒時代」と言える小学校の頃のことを思い出す作業が最大の難関でした。両親にとってもつらい時期なので、このあたりの原稿を母と一緒に書いていた昨年の夏は、家の空気も重くなったように感じました。
―自分が引き起こしたトラブルの全容を明らかにする「事故調査委員会」を立ち上げるというのは自己管理の手法として秀逸なアイデアですね。
僕はもともと鉄道、航空、宇宙、軍事など安全を重視する分野が好きです。特に運輸安全委員会の事故調査報告書にはとても興味があります。過去に目を向け、客観的に分析・検証した報告書は、今後の安全対策に非常に役立つという考え方に共感して、それが自分の起こしたトラブルを客観的に振り返る事故調査委員会をつくる考えにつながりました。
―「自分自身の取扱説明書」を作るというのは、どのように思いついたのでしょう。
自分が学校でいろいろ苦労しましたので、特に学校で困っている子たちに対応する上で土台となるようなガイドラインがあれば、先生と生徒がもっと良い関係になるのではないかという発想が生まれました。日本ではさまざまな製品に過剰なまでの注意書きが付いた取扱説明書が作られていますが、社会が最も大切にしなくてはならない未来を担う子どもたちへの教育には、先生の経験という、ある意味行き当たりばったりの方法しかないことが僕は不思議で仕方ありません。
―「生きづらさ」を乗り越える上で、特に苦労したのはどんなところですか。
やはりアンガーコントロールですね。「暗黒時代」に暴れまわったのも、「怒り」の感情を制御できなかったからです。
でも、工藤先生の発案で麹町中の生徒と保護者向けに開催された「アンガーマネジメント講習会」で聞いた「自律的に行動するというのは感情をコントロールすることだ」という言葉が心に突き刺さりました。そこで、自分がなぜ怒るのか、イライラの原因を分析・特定しようと思いました。
―そこは「事故調査委員会」のやり方ですね。
その通りです。僕の場合、自分を取り巻くさまざまな理不尽に対して怒っていたのですが、分析の過程で「怒る」と「キレる」を混同していたことに気付いたのです。
―どう違うのですか。
「怒る」は納得できない問題に異議を唱えることで、ある意味、健全で前向きな行為です。でも「キレる」は、たとえ正しい考えや意見がベースにあったとしても、感情に任せて暴言や暴力で相手を打ち負かそうとする間違った行為だと思います。
ですから、「キレる」のは絶対にダメですが、「怒り」はその感情を正しく相手に伝えられればいいわけです。僕は、その二つに明確な線引きをすることで、感情をコントロールするようになりました。
―それは難しそうですね。
でも、僕は「怒る」自分を認めることで、人には「怒」の感情があるからこそ、自分を向上させ、世の中を変える可能性も出てくるのだと考えられるようになりました。例えば、いじめに遭っている子が、「嫌だ」という怒りの感情を相手や周囲に伝えられれば、いじめをそれ以上エスカレートさせないことができるかもしれません。
―ほかに読者に伝えたいメッセージがあったら教えてください。
もし悩みがあるのなら、家族や身内、学校に分かってもらえなくても、あらゆる手段を使って、自分の気持ちや話を分かってくれる人や窓口に伝える努力をしてほしいと思います。とにかく、「伝える」ことを諦めないでほしい。
自分の気持ちを理解してもらうのに必要なのは、何より誠意と相手への感謝です。
だから、どんなにつらくても、犯罪のような行為で自分の気持ちを表現することだけは絶対にしないでほしい。
追い込まれた人たちが自分の存在意義を否定するような手段を取らないで済むように真剣に皆で考えていこうと、呼び掛けたいです。
自分はなぜこの世界にいるのかという存在意義を見つける手掛かりは、自分が誰かの役に立てているという気持ちに尽きます。
僕の考え方が100%正しいとは思わないけれど、僕の本が誰かの、何かの役に立てることがあればこの本を出した意味があると思います。
2/8(火) 8:01配信・時事通信
「周囲とうまく協調できない」「ミスが多い」「すぐパニックに陥る」といった特性を持つ人は、発達障害を疑うべきだという意見もある。
ただ、周囲に溶け込めなかったり、ミスを連発したり、失敗して頭が真っ白になったりといった現象は、誰にでも起こり得る。そうした自分の特性と向き合い、困難を克服する方法はないのだろうか…。
そんな悩みに一筋の光を与えてくれそうなのが、発達障害の当事者で帝京大学1年生の西川幹之佑さんの著書「死にたかった発達障がい児の僕が自己変革できた理由~麹町中学校で工藤勇一先生から学んだこと」(時事通信社)だ。この中では、自分が直面する課題解決のため「自分のトリセツ=取扱説明書」を作り、自己コントロールの方法を身に付けることで、生きづらさを克服しようという果敢な試みの過程が分かりやすく解説されている。
西川さんは幼い頃から多動で、言葉の発達が遅く、気に入らないことがあると大暴れする「超問題児」だった。幼稚園は入園から2時間で退園処分となり、小学校1、2年で通った特別支援学級にもなじめなかった。3年生から通常学級に移るが、授業の内容で分からないことがあると教室を飛び出すような問題行動を繰り返した。
その後、東京都千代田区立麹町中学校に進学、そこで工藤勇一校長に出会ったことが人生を変えたという。西川さんがどう変わり、発達障害に特有の困難をどのように克服したかを西川さん本人に聞いた。
―本を書こうと思ったきっかけは何でしょう。
高校3年生の夏休み、なかなか英検2級に合格できないので、麹町中で工藤先生に教わった「マインドマップ」(写真)を作って、自分の目標とそこに向かう上での問題点を分析してみました。
すると、「自分の得意なことは自分だけのものであるうちは価値はないが、自分以外の誰かに伝えることができたら価値を持つようになる」という工藤先生のお言葉に行き当たりました。発達障がいである自分の実体験は「得意なこと」とは少し違うかもしれませんが、18年間かけて身に付けたことが誰かの役に立てるかもしれない、そう伝える手段として本を書こうと思いました。
―書字障害を持っていることが著書にも書かれていますが、執筆ではどんな点に苦労しましたか。
今回の執筆は、原稿用紙にペンで書いたわけではなく、パソコンのワープロソフトでタイピングしたものを基に、母や編集者さんと口頭でのやりとりをした上で原稿にしていきましたので、その点での苦労はありません。もともと僕の文章力は低いので、本当に言いたいことが伝わるようにするため、母の協力を仰ぎました。自分ですべて書くのだったら、本の出版は諦めたと思います。
―一番大変だったのは、どんなことでしたか。
18年の人生で「暗黒時代」と言える小学校の頃のことを思い出す作業が最大の難関でした。両親にとってもつらい時期なので、このあたりの原稿を母と一緒に書いていた昨年の夏は、家の空気も重くなったように感じました。
―自分が引き起こしたトラブルの全容を明らかにする「事故調査委員会」を立ち上げるというのは自己管理の手法として秀逸なアイデアですね。
僕はもともと鉄道、航空、宇宙、軍事など安全を重視する分野が好きです。特に運輸安全委員会の事故調査報告書にはとても興味があります。過去に目を向け、客観的に分析・検証した報告書は、今後の安全対策に非常に役立つという考え方に共感して、それが自分の起こしたトラブルを客観的に振り返る事故調査委員会をつくる考えにつながりました。
―「自分自身の取扱説明書」を作るというのは、どのように思いついたのでしょう。
自分が学校でいろいろ苦労しましたので、特に学校で困っている子たちに対応する上で土台となるようなガイドラインがあれば、先生と生徒がもっと良い関係になるのではないかという発想が生まれました。日本ではさまざまな製品に過剰なまでの注意書きが付いた取扱説明書が作られていますが、社会が最も大切にしなくてはならない未来を担う子どもたちへの教育には、先生の経験という、ある意味行き当たりばったりの方法しかないことが僕は不思議で仕方ありません。
―「生きづらさ」を乗り越える上で、特に苦労したのはどんなところですか。
やはりアンガーコントロールですね。「暗黒時代」に暴れまわったのも、「怒り」の感情を制御できなかったからです。
でも、工藤先生の発案で麹町中の生徒と保護者向けに開催された「アンガーマネジメント講習会」で聞いた「自律的に行動するというのは感情をコントロールすることだ」という言葉が心に突き刺さりました。そこで、自分がなぜ怒るのか、イライラの原因を分析・特定しようと思いました。
―そこは「事故調査委員会」のやり方ですね。
その通りです。僕の場合、自分を取り巻くさまざまな理不尽に対して怒っていたのですが、分析の過程で「怒る」と「キレる」を混同していたことに気付いたのです。
―どう違うのですか。
「怒る」は納得できない問題に異議を唱えることで、ある意味、健全で前向きな行為です。でも「キレる」は、たとえ正しい考えや意見がベースにあったとしても、感情に任せて暴言や暴力で相手を打ち負かそうとする間違った行為だと思います。
ですから、「キレる」のは絶対にダメですが、「怒り」はその感情を正しく相手に伝えられればいいわけです。僕は、その二つに明確な線引きをすることで、感情をコントロールするようになりました。
―それは難しそうですね。
でも、僕は「怒る」自分を認めることで、人には「怒」の感情があるからこそ、自分を向上させ、世の中を変える可能性も出てくるのだと考えられるようになりました。例えば、いじめに遭っている子が、「嫌だ」という怒りの感情を相手や周囲に伝えられれば、いじめをそれ以上エスカレートさせないことができるかもしれません。
―ほかに読者に伝えたいメッセージがあったら教えてください。
もし悩みがあるのなら、家族や身内、学校に分かってもらえなくても、あらゆる手段を使って、自分の気持ちや話を分かってくれる人や窓口に伝える努力をしてほしいと思います。とにかく、「伝える」ことを諦めないでほしい。
自分の気持ちを理解してもらうのに必要なのは、何より誠意と相手への感謝です。
だから、どんなにつらくても、犯罪のような行為で自分の気持ちを表現することだけは絶対にしないでほしい。
追い込まれた人たちが自分の存在意義を否定するような手段を取らないで済むように真剣に皆で考えていこうと、呼び掛けたいです。
自分はなぜこの世界にいるのかという存在意義を見つける手掛かりは、自分が誰かの役に立てているという気持ちに尽きます。
僕の考え方が100%正しいとは思わないけれど、僕の本が誰かの、何かの役に立てることがあればこの本を出した意味があると思います。