<ともに>読み書き困難(下) 理解と道具で自信
2018年7月31日・東京新聞
文字の読み書きがうまくできない「読み書き困難」。長野市の高等専修学校一年生(高校一年に相当)、大谷梨華(りか)さん(16)は、この障害に苦しみながらも学び続けてきた。
しかし、学習に必要な「デジタル教科書」の使用を中学校に認めてもらえず、学校で学ぶ気持ちがなえていた。吹っ切れたのは中学三年の夏。小学校から継続して支えてくれた特別支援教員、山崎幸子(ゆきこ)さん(53)の紹介で、豊野高等専修学校(長野市)の存在を知ったからだった。
同校はデジタル教科書を授業で使っていたことがあり、教員の理解も高かった。「ここなら受け入れてもらえる」。進路目標が明確になり、気持ちが切り替わった。大谷さんは今春、同校に合格。将来の就職を見すえ、パソコンや介護の資格取得を目指している。
大谷さんはしみじみと振り返る。「本当に山崎先生がいてくれてよかった」。教師-生徒の関係ではないが、中学時代に始まった山崎さん宅での個人教授は今も続く。「ずっと見守ってくれたから、ここまで来ることができた」
山崎さんは大谷さんの支援を通じ、継続的な支援の必要性を痛感した。小学、中学、高校と進学する度に、学校に障害を説明し、デジタル教科書などの使用許可を得なければならない。支援者がいなければ本人と家族だけで学校を説得する必要がある。山崎さんは「一貫した支援者が学校との間に入り、スムーズな進学を支えるべきだ」と話す。
山崎さんは現在、長野市内の小学校に勤務。特別支援学級の担任として、児童の指導にデジタル教科書を取り入れているが、普及には壁があると感じている。
デジタル教科書は「視力が低い人にとっての眼鏡」とも評されるが、長野市内でも学校によって対応はまちまち。同じ小学校で特別支援学級の支援員を務める笠原美香さん(45)も「デジタル教科書があれば救える子を救えていない現実がもどかしい」と訴える。
二〇一二年の文部科学省の調査によると、通常学級に在籍する全国の小中学生約二十四万人に「読み書き困難」の可能性があるとされる。デジタル教科書「デイジー教科書」を無償で提供している日本障害者リハビリテーション協会によると、全国の利用者はまだ約八千人。読み書き困難児のたった3%にすぎない。
デイジー教科書を一括導入する自治体も増え、現在、六十六市町村が利用している。ただ、東北地方では導入例がないなど、地域によって普及に偏りがある。
大谷さんは、ノーベル平和賞を受賞したマララ・ユスフザイさんの演説になぞらえて、こう話す。「理解してくれる先生と、デイジー教科書というツール(道具、手段)が私を変えた。デイジー教科書があれば、私は強く生きていける」
山崎さんはここ数年、各地に足を運び、大谷さんら教え子の事例を紹介。障害の周知とデジタル教科書の普及に努める。「『周囲の気づき』『学校の理解』『教材の普及』という、読み書き困難児が直面する壁を壊したい。今もどこかの教室で、静かに困っている子がいるはずだから」 (今川綾音)