「先生次第で吃音の子は明るくなれる」 先生の卵に当事者が体験談
8/23(月) 16:03配信・毎日新聞
どもって思うように話せない吃音(きつおん)。子どもの頃に同級生にからかわれて初めて「自分のしゃべり方は変なの?」と自覚して傷つき、話すことをやめてしまうケースも少なくない。でも、担任の的確な対応によって救われることもある。吃音者の自助団体・香川言友(げんゆう)会は「そんな先生になってほしい」と願いを込め、香川大学教育学部(高松市)の学生らに吃音出前講座を開き、体験談を語った。
◇「話し終わるまでゆっくり待つ」
言友会は全国30以上の都道府県にある。香川言友会は2020年4月に発足し、現在は当事者や家族、支援者ら20~60代の男女約15人が会員で、私(55)もその1人だ。
会員の多くは子どもの時に吃音を笑われ、奇異な目で見られた体験を引きずっている。例会の度に「小学生時代に先生に理解してもらえて楽になれた」「自分が体験した苦しみを今の子どもにさせたくない」といった声が上がるようになった。そこで20年11月、香川県東部の養護教諭の研修会で初めて出前講座を企画した。
2回目が今回の香川大で、私を含む言友会会員6人が21年7月16日に出向き、特別支援学校教諭免許を取得見込みの3年生ら約40人が受講した。講座では、事前収録した体験談ビデオを上映したり、会員が直接語ったりして思いを伝え、学生らも感想を語り合った。
最初は、旭川荘南愛媛病院(愛媛県鬼北町)で吃音相談外来を担当する岡部健一院長がビデオを通して「緊張したからどもるのではない。『落ち着いて』と声を掛けても効果はない。どもる子がいたら、話し終わるまでゆっくり待ってあげて」と解説した。
高校3年の当事者の長男がいる女性(52)は「息子が中学入学直後のオリエンテーションで、学年主任が『吃音だからといってからかってはいけない』とみんなに説明してくれたためか、からかいは受けなかった」と説明した。香川大とは別の大学4年の女性(21)は、ゼミの発表会で言葉が出せなかった体験に触れ、「翌日からゼミで孤立した。でも大学の相談支援室に事情を話すと、口頭発表では配慮してもらえるようになり、びくびくすることも少なくなった」と明かした。
社会福祉士の女性(27)は小学生の時の音読の授業のつらさを語った。「自分の読む番が近づいてくるとどきどきして、うまくしゃべれるかどうかだけが気になっていた」。別の大学4年の女性(22)も「普段は、言いにくい言葉を別の言葉に置き換えてしゃべっているので、周りから吃音だと気づかれていない」と前置きし、「音読では言い換えが効かないので詰まってしまう。でも周りは、なんで黙っているのって。つらかった」と振り返った。
◇学生「授業で音読の意図を意識したい」
受講後、学生たちにアンケートを書いてもらった。どれも、びっしりと感想が記されていた。
ある学生は「小学校の先生から肯定的な言葉を掛けられて心が軽くなったというエピソードが印象的だった」と書いた。これは、私が紹介した体験談の一つだ。小学4年の時の担任が母に「いつも人の話をじっくり聞き、優しいお子さんですね」と話したことがあった。自分では単にしゃべるのを避けていただけなのに、それをプラスにとらえてくれて、うれしかった記憶がある。その学生は「先生が吃音を理解していることを目に見える形で示すことの重要性を感じた」と続けていた。
別の学生は「音読で一人一人に当てる必要があるのか? 授業で何をするにしてもその意図を意識したい」と書いていた。会員が音読のつらさを訴えたことの感想だろう。
「吃音を隠すためにしゃべらない子がいると知った」「吃音には表に現れない症状があることを知った」との記載もあった。「子どもが、みんなとは違う友達をからかってしまうのは、ある程度しようがない。でも本人は傷ついてしまうので、先生が知識を持って理解できたら、その子の人生は全く違うものになると思う」と書いた学生もいた。
先生次第で吃音の子は明るくなれる――。そんな言友会の願いが伝わったようだ。
◇10月にオンラインでワークショップ
香川言友会は今後も、社会に吃音を知ってもらう活動を続けていく考えだ。10月9、10両日には高松市を拠点にオンラインで「第55回言友会全国大会 吃音ワークショップ2021香川(Web大会)」を開き、吃音者はもちろん、吃音に関心のある人たちに参加を呼びかけている。教育関係者に向けたプログラムもある。
メインプログラムは9日午後2時半からの講演会「『きつおんガール』を語ろう~吃音のある人が話しやすい社会を目指して」。当事者でもある九州大学病院の吃音専門医の菊池良和さん、コミックエッセー「きつおんガール」(合同出版)で自らの吃音体験をつづった社会福祉士の小乃(おの)おのさん、香川言友会会員がそれぞれ自身の各年齢ごとの悩みを語り、周囲はどう対処するべきかをアドバイスしていく。
10日午前9時45分からは七つの分科会を開き、そのうちの「吃音のある子どもの支援」は、教員や保育士ら教育現場に携わる人に参加してもらい、子どもへの接し方を菊池さんがアドバイスする。
この他にも、参加者が吃音体験を発表する場を設け、分科会では「女性のつどい」や「10代のつどい」、どもっても堂々と生きることを目指す「コミュニケーションについて考えてみよう!知って得する上達法」もある。
全国大会は毎年、開催地の言友会とNPO法人全国言友会連絡協議会が主催している。ホームページ(https://kagawazenkoku2021.wixsite.com/gyk-zenkoku)で申し込みや詳細確認ができる。参加料2000円(高校生以下無料)、申し込み締め切りは9月12日。
香川言友会は「当事者以外の人が吃音のことを分かってくれたら、吃音者は楽に生きられる。そのための情報が全国大会で得られます」と話している。
◇吃音とは
吃音は100人に1人が持つとされ、特定の言葉の一部が出づらかったり、出せなかったりする言語障害。連発(ぼぼぼくは)、伸発(ぼ―――くは)、難発(………ぼくは)の症状がある。はっきりした原因は分かっていない。からかわれたり、奇異な目で見られたりした体験から、コミュニケーションを取ることに消極的になり、社会に適応できなくなる人も少なくない。
8/23(月) 16:03配信・毎日新聞
どもって思うように話せない吃音(きつおん)。子どもの頃に同級生にからかわれて初めて「自分のしゃべり方は変なの?」と自覚して傷つき、話すことをやめてしまうケースも少なくない。でも、担任の的確な対応によって救われることもある。吃音者の自助団体・香川言友(げんゆう)会は「そんな先生になってほしい」と願いを込め、香川大学教育学部(高松市)の学生らに吃音出前講座を開き、体験談を語った。
◇「話し終わるまでゆっくり待つ」
言友会は全国30以上の都道府県にある。香川言友会は2020年4月に発足し、現在は当事者や家族、支援者ら20~60代の男女約15人が会員で、私(55)もその1人だ。
会員の多くは子どもの時に吃音を笑われ、奇異な目で見られた体験を引きずっている。例会の度に「小学生時代に先生に理解してもらえて楽になれた」「自分が体験した苦しみを今の子どもにさせたくない」といった声が上がるようになった。そこで20年11月、香川県東部の養護教諭の研修会で初めて出前講座を企画した。
2回目が今回の香川大で、私を含む言友会会員6人が21年7月16日に出向き、特別支援学校教諭免許を取得見込みの3年生ら約40人が受講した。講座では、事前収録した体験談ビデオを上映したり、会員が直接語ったりして思いを伝え、学生らも感想を語り合った。
最初は、旭川荘南愛媛病院(愛媛県鬼北町)で吃音相談外来を担当する岡部健一院長がビデオを通して「緊張したからどもるのではない。『落ち着いて』と声を掛けても効果はない。どもる子がいたら、話し終わるまでゆっくり待ってあげて」と解説した。
高校3年の当事者の長男がいる女性(52)は「息子が中学入学直後のオリエンテーションで、学年主任が『吃音だからといってからかってはいけない』とみんなに説明してくれたためか、からかいは受けなかった」と説明した。香川大とは別の大学4年の女性(21)は、ゼミの発表会で言葉が出せなかった体験に触れ、「翌日からゼミで孤立した。でも大学の相談支援室に事情を話すと、口頭発表では配慮してもらえるようになり、びくびくすることも少なくなった」と明かした。
社会福祉士の女性(27)は小学生の時の音読の授業のつらさを語った。「自分の読む番が近づいてくるとどきどきして、うまくしゃべれるかどうかだけが気になっていた」。別の大学4年の女性(22)も「普段は、言いにくい言葉を別の言葉に置き換えてしゃべっているので、周りから吃音だと気づかれていない」と前置きし、「音読では言い換えが効かないので詰まってしまう。でも周りは、なんで黙っているのって。つらかった」と振り返った。
◇学生「授業で音読の意図を意識したい」
受講後、学生たちにアンケートを書いてもらった。どれも、びっしりと感想が記されていた。
ある学生は「小学校の先生から肯定的な言葉を掛けられて心が軽くなったというエピソードが印象的だった」と書いた。これは、私が紹介した体験談の一つだ。小学4年の時の担任が母に「いつも人の話をじっくり聞き、優しいお子さんですね」と話したことがあった。自分では単にしゃべるのを避けていただけなのに、それをプラスにとらえてくれて、うれしかった記憶がある。その学生は「先生が吃音を理解していることを目に見える形で示すことの重要性を感じた」と続けていた。
別の学生は「音読で一人一人に当てる必要があるのか? 授業で何をするにしてもその意図を意識したい」と書いていた。会員が音読のつらさを訴えたことの感想だろう。
「吃音を隠すためにしゃべらない子がいると知った」「吃音には表に現れない症状があることを知った」との記載もあった。「子どもが、みんなとは違う友達をからかってしまうのは、ある程度しようがない。でも本人は傷ついてしまうので、先生が知識を持って理解できたら、その子の人生は全く違うものになると思う」と書いた学生もいた。
先生次第で吃音の子は明るくなれる――。そんな言友会の願いが伝わったようだ。
◇10月にオンラインでワークショップ
香川言友会は今後も、社会に吃音を知ってもらう活動を続けていく考えだ。10月9、10両日には高松市を拠点にオンラインで「第55回言友会全国大会 吃音ワークショップ2021香川(Web大会)」を開き、吃音者はもちろん、吃音に関心のある人たちに参加を呼びかけている。教育関係者に向けたプログラムもある。
メインプログラムは9日午後2時半からの講演会「『きつおんガール』を語ろう~吃音のある人が話しやすい社会を目指して」。当事者でもある九州大学病院の吃音専門医の菊池良和さん、コミックエッセー「きつおんガール」(合同出版)で自らの吃音体験をつづった社会福祉士の小乃(おの)おのさん、香川言友会会員がそれぞれ自身の各年齢ごとの悩みを語り、周囲はどう対処するべきかをアドバイスしていく。
10日午前9時45分からは七つの分科会を開き、そのうちの「吃音のある子どもの支援」は、教員や保育士ら教育現場に携わる人に参加してもらい、子どもへの接し方を菊池さんがアドバイスする。
この他にも、参加者が吃音体験を発表する場を設け、分科会では「女性のつどい」や「10代のつどい」、どもっても堂々と生きることを目指す「コミュニケーションについて考えてみよう!知って得する上達法」もある。
全国大会は毎年、開催地の言友会とNPO法人全国言友会連絡協議会が主催している。ホームページ(https://kagawazenkoku2021.wixsite.com/gyk-zenkoku)で申し込みや詳細確認ができる。参加料2000円(高校生以下無料)、申し込み締め切りは9月12日。
香川言友会は「当事者以外の人が吃音のことを分かってくれたら、吃音者は楽に生きられる。そのための情報が全国大会で得られます」と話している。
◇吃音とは
吃音は100人に1人が持つとされ、特定の言葉の一部が出づらかったり、出せなかったりする言語障害。連発(ぼぼぼくは)、伸発(ぼ―――くは)、難発(………ぼくは)の症状がある。はっきりした原因は分かっていない。からかわれたり、奇異な目で見られたりした体験から、コミュニケーションを取ることに消極的になり、社会に適応できなくなる人も少なくない。