「いつも風 流れる川」は宗左近氏の「鑑賞百人一首」から選ばれた
和歌が元になっている。
この曲集の第4曲『夜があけない』は、前日書いた
「函谷間」の故事にまつわる清少納言の和歌が本歌。
「夜をこめて鳥のそらねははかるとも夜に逢坂の関はゆるさじ」
曲集の中から第1曲目『ながめ』
「花のいろはうつりにけりないたづらに我が身世にふるながめせしまに」
『古今集』小野小町の和歌と言うことは有名。
桜の木が色あせてしまう風情はむなしい。
私が自分の身にかかるものを見つめて、想いにふけってしまっていた間に、、、。
女性の若さはあっという間という例えにもされる和歌。
とおどおしく遠ざかるものの足音を溶かし ちかぢかと近寄るものの息吹きを流し
ふりこめる長雨のなきがらの色に染まり 匂い立つかおりの煙りのけざやかなゆらめきの
夢のあとがらのゆるやかなたゆたいにゆれて ああわたくしは何に見入っていたのだろう
何に見入られていたのだろう ※けざやか・・・際だっているさま
この曲集の第5曲目「空が低く」の本歌は
『新古今集」伊勢の
「難波潟みじかき蘆のふしの間も逢わでこの世をすぐしてよとや」
難波潟(なにわがた)の蘆(あし)の、あの短い節と節の間のような、わずかの間も
会わないで、むなしくこの世をすごしてしまえとおっしゃるんですか、あなたは。
空が低くたれ落ちている 風はもう這うことしかできない
蘆のむれが倒れ伏している 笛のように鋭く鳴いたものが
湾の砂浜に幾條も筋を刻んでいる
難波潟
嵐は去ろうとしてなおむごく呻いている
むなしく死に果てなければならないのか
わたしの恋
輝かなかった夏 こばまれたこころ
ああ蘆のむれがいっせいに光のように折れている
短かった時間の茎の節と節の はじけることもなく折れた距離の切なさ
低くたれ落ちている空に 幾條も筋をきざんだまま黒ずんでゆくもの
逢えない長さの痛みをふるわせて 嵐は去ろうとしてなおむごく呻いている
難波潟