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知らない世界へ帰りたい(日本探求)

自分の祖先はどんなことを考えていたのか・・・日本人の来し方、行く末を読み解く試み(本棚10)。

「忘れられた日本の文化」by 姫田忠義

2012年01月12日 07時33分44秒 | 民俗学
 副題「ー撮り続けて30年ー」
 岩波ブックレット、1991年発行。

 62ページしかない小冊子です。タイトルに惹かれてしばらく前に購入したものですが、昨年末蔵書の整理をしていて見つけ、一気に読んでしまいました。

 姫田さんは民俗学者ではありませんが、色々な職種を経験後に宮本常一さんに師事し、1961年から映像による民族文化の記録作業を始め、1976年には「民族文化映像研究所」を創立し、所長として現在に至る方です。
 このブックレットは、彼の反省を詰め込んだエッセンスといったところ。タイトルからして宮本常一氏の「忘れられた日本人」を思い出します。

 はじめの方は、自分がこの仕事をするようになった経緯が記されています。非常に肩に力が入った文章(悪く云えば大げさ)で、ちょっと辟易してしまいましたが、話が進むにつれ、実際に記録映画の作成余録が出てくると俄然魅力的になり引き込まれました。

 時代の流れに消されていく日本の習俗・職業を愛情を込めて映像に残そうという熱意がひしひしと伝わってきました。柳田国男、折口信夫、宮本常一やその後続の民俗学者達が文章で残してきた古からの日本庶民の生活を、姫田さんは映像で残したのです。彼はフィールドワークを実践してきた実体験から「私の仕事は日本の『基層文化』を映像記録に残すことだ」と自信を持って言い切っています。
 専門外なんだけど、血が騒いでフィールドワークを実行して記録に収めたという点では俳優の小沢昭一さん(「日本の放浪芸」)と共通するところがありますね。
※ 一部 YouTube でも予告編や一部の映像を見ることができます。タイトル箇所をクリックしてみてください;

■ 「アイヌの結婚式
 古来北海道に住んでいたアイヌ民族は、明治時代以降、日本民族によって侵略・支配されるようになりました。日本は単一民族ではなかったのです。彼らの生活には、大自然に感謝し、そのおこぼれで生活させてもらっているという敬虔な精神が伺われます。
★ 「イヨマンテ~熊送り~
★ 「沙流川アイヌ・子どもの遊び
★ 「Ainu, First People of Japan, The Original & First Japanese」これは姫田さんとは関係ありませんが、アイヌの古い映像を見ることができます(英語版なので投稿は外国人?)。

■ 「奥会津の木地師
 木の日常食器を造るために移動生活を続ける職人家族の痕跡を追います。里に下りてこない「山人」達の貴重な生活記録となりました。ハンマーのようなノミを見事に使いこなす様は、まさに職人技です。

■ 「周防猿まわしの記録
 これは「反省ザル」で有名になった太郎・次郎コンビの成り立ちのお話。
 村崎義正(太郎さんの父)さんという方が、昭和30年代に絶えてしまった大道芸猿まわしを復活したいと持ちかけ、姫田さんの「椿山」という記録映画を見て感動し、息子の太郎さんを後継者に指定した、という経緯。その後苦労を重ね、紆余曲折を経て現在に至ります。
★ 「講演:宮本常一生誕100年(姫田忠義)

■ 「椿山~焼き畑に生きる
 焼き畑農業は稲作以前から日本で行われてきた歴史的な農業形態です。これは四国の山深い小さな村の、1970年代まで焼き畑農業を営んでいた人々の記録です。
 ひたすら体を使って働き続ける夫婦の姿に引きつけられます。生きるために働く、次世代を育んで命を、生業を伝える、というシンプルな構図に、現代家族が見失っている生の本質を垣間見たようでした。

■ 「寝屋子
 三重県の小さな島の若者宿のお話。男児が一定の年齢になると、信頼できる大人を指定して「寝屋子」という若者宿を造り、そこに集団で寝泊まりする習俗です。他人ながらも親子同然の付き合いが生まれ、育ち合い、漁師として独り立ちした後も一生その関係が続きます。

★ 2012.1.12のNHK「地球イチバン」で「イチバン長~い成人式:パプアニューギニア・フリ族」を放映していました。フリ族では10歳頃から親元を離れて若者だけの宿で暮らすようになり、弓矢、畑仕事、他部族との戦い方/駆け引きの方法を学びます。20歳頃から2年間かけた成人式が行われ、そこで村民から一人前と認められて初めて独立可能となり、結婚も許されるようになる、というシステムが現在進行形で生きていました。
 日本の成人式の話をすると「好き勝手に生きてきて20歳になったら1日で大人になれるなんて信じられない」と驚いていました。
 ゲストは「日本もああやればいい」などとコメントしていましたが、何のことはない、日本にも同じようなシステムが存在したのに、それを捨て去ってきたことをみんな忘れているだけ。


■ 「奥三面
 新潟県の奥深い山村で大正時代の国勢調査までは知られることがなかった平家落人伝説の里。漁業以外の生業をすべて行い生き延びてきた山人たちのがダムに沈んでしまうことが分かり、消えゆく山の生活を残そうと挑んだ記録映画です。

★ 「遙かなる記録者への道~姫田忠義と映像民俗学~
 姫田さんが自分の仕事を語った映像です。

※ YouTubeで閲覧可能な他の民族文化映像研究所の映像
□ 「豊松祭事記
□ 「奈良田の焼き畑
□ 「うつわ~食器の文化


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