アンナ
そう呼んでいた
いつも午前0時に
こっそりと
部屋のガラス窓を
気ずかいもなく
ガラガラと
音を立てて
おかえりだったね
アンナ
おまえはだれにもなつかずに
一人住まいの麗人のように
おもいっきり重い荷を背にしていたのか
そしてその荷を隠すことで
生きがいを喰いものにして
ほとんど厚みのない塀のうえを
いつも気をくばりながら
曲芸師のように通り道にしていたね
おれは しっていたよ
どういう重さの荷だったのかを
それは 人間の通り道にも
デン といすわっていたんだ
心とか そういった種類のもので
目に見えない 大きな山のようなもので
数えきれない木が生えていて
とおせんぼうをするんだ
アンナ
いつからかおまえのすがたはみえなくなった
定刻にも もどってこなくなった
でも
時々だけれど
ガラス窓がきしむ音がする