追いかけてみたら
そいつは
すきまかぜのように
すりぬけてゆく
物や人びとのあいだを
一足お先に!
とかなんとかいって
するすると追いこしてゆく
追いかけていってみると
そこは時間の海だった
たくさんの難破船と
すこしの豪華客船と
港をうしなった船の群れ
水平線あたりだろうか
もうもうとして
海が蒸発していく
水蒸気が
ぼう ぼう ぼうと
天上へ 天上へと
水温は異常に高く
摂氏100度にちかい
夢が朝方蒸発するのも
こんな温度の上昇が
脳中枢でおこっているのだ
そして ひからびたちいさな丘たちは
夜明けの日にさらされて
ゆっくりとおぼろげに
世界の屋根から
気もそぞろに わくわくとして
それぞれの舗道へと降り立つ
朝一番の短い影を飼い犬のようにつれて
Pink Floyd -- Take it Back
[We were spinning into darkness;the earth was on fire]
「さん」
こんにちは
いいお天気さんで
と
お隣の御婦人の
朝の挨拶でした
天気に「さん」をつける
天気を敬語でよぶ
自然に感謝を
という想いが
「さん」となる
ここだけでは
優しいのだ
それ以上は
雲のなかにしておけばよい
「さん」は
そういうものだ
強いて言えば
その朝は
小さい小鳥の様になって
森の中にいた
朝一番の曙の太陽は
きらきらとして
僕の翼を照らしていた
翼のあることを
すっかり忘れていた
僕は元気を取り戻した
今は小さい翼だけれど
ラッキーのはじまりだと
大鷲の翼のようになることもできる
力強い飛翔も
夢ではなくなる
夜になるまで
僕は待った
夢をみるためには
できるだけ永い夜がほしい
その日の夜は「超」永かったから
僕の思いをかなえてくれた
だから何時までも夢に浸ることができた
最大の大鷲になって
ちいさな森なんかではなく
頑丈な岩壁のうえで
広大な視界をまえに
翼をおおきくひろげ
獲物をねらっていた
僕の描いたたった一枚の絵が
とあるマジシャンのポケットにあるそうだ
実
あかいはなに
あかいみがなる
それははなのいろに
みもそまってしまうから
それとも
いろはおなじでも
なかみはちがったものを
みはもっているのかもしれない
みをわってみて
なかみをみてみれば
それはわかるけれど
わらずにおくほうが
こころをそだてるのではないだろうか
あまり
りろんてきではないけれど
りろんてきではないほうが
ぼくは
いちばんたのしいのだ
おたまじゃくし
おたまじゃくしは
かえるのこ
ごせんふのうえにのぼれば
ミュージシャン
たえなるおととなりすまし
ひとをあいてに
みみからはいって
たえなるサウンドで
ひとのかんじょうを
じゆうじざいに
てだまにとって
喜怒哀楽
風声鶴唳
垂直傾斜
遊動円木
おたまじゃくしは
かえるのこ
ごせんふのうえからおりたなら
りっぱなごせいちょうを
まちましょう
そうして
いちおしの
ふるいけさがして
とびこみましょう
ああそうゆうことか
あれは
いつかの
あのひとすじの
あかいゆうひいろになって
ろじょうをおうだんしていって
すーっときえてしまったが
ひかりというものは
かんたんにさえぎられるものだったんだ
それからひかりはどうしたんだろう
せいしふめいのまま
ひとびとにわすれられ
そのままかげにもならず
さりとてこうぎもしないで
たんたんときえてゆくのだ
しかしまたすぐにまいもどり
あかいゆうひいろになって
たちあらわれて
いっしゅんのいきおいで
ろじょうをおうだんしていって
すーっときえてしまう
そうやってたえずすきまをうめているのだ
ぼくはそれをすくおうとしたら
ぼくはめずらしいかげになった
ドアのむこう
そいつは
みをかくす
はいじんを
こなごなにする
ことばの
わふうのたくみを
いや
たくらみを
こっぱみじんにする
オフィスのばかでかい
ペンいっぽんも
だかないで
きょぜつのかおを
まうえにさらす
デスクがいすわっている
まよこにおかれた
くずばこには
しわだらけのもじがかさなっている
うえからのおもみにたえる
いわばしんりさくせんが
ようへいたちのにんむのように
おぞましくもかんこうされる
あるひ
ギィーっというおとをたてて
ドアがひらいても
デスクは
へいぜんと
うえをむいていた
むしろ
かがやきながら
ボレロ(*)
つまさきを
刃物のように
研いでとがらせて
時速1メートルで
まえに身を乗り出して
堅固な壁のような
なにか重いしきたりの配下にある
邪悪をおしのけてゆく
微妙なその速度
それ以上でも以下でも成り立たない
慎重なチカラの球が
手足と顔立ちを
夕日のなかで
燃えたたせながら
いくたびも耐えながら
次々とクラヤミを
ほうりなげながら
何処までもそのチカラ
リズムのチカラを
バルコンの蔭と夕日と
やきつくような視線の束と
いくつもの意志をしたがえて
希望や理想など問わないで
飛び立つ赤々とした
燃え立つ羽の痕をのこす
鳥影となって
灼熱の茜空へとけてゆく
(*)モーリス・ラヴェル作曲のバレーのための曲