クレモンティーヌ / スーダラ節
まじめな鳥のように
魔日!
枝がへしおれた
つかまっていた
足首と爪が虚空に泳ぐ
羽が開かないままで
関節の ぎぎぎぎ という
きしむ音だけが
永遠のように
きこえている
翌日になって
木々の世界や草原が
すっかり瓦礫の山だ
奇跡的に残った梢で
ただ あたりを きょろきょろ
そのうち 魔の雨もふりだしてきた
放射能 シーベルト
きいた事もない
意味 さっぱりわからない
方言のように
科学地方の言葉らしいが
辞書をもっていないから
わからないが
大変 むつかしい 言葉 らしい
テレビでは
時々 教授や評論家があつまって
眼の奥のほうで にやっと 笑いをこらえて
しゃべっている人もいるように思える
奇跡的に残った梢で
飛ぶ練習をはじめてみた
そう ばたばた と
あきちゃん
あきちゃんは
ほそいからだの子だった
おしゃべりする時は
すこし顔をうつむけて
かんがえながらしゃべった
結婚しておみせをやめるとき
はずかしそうにおわかれをいった
横浜からハガキがきた
ふたりではじまった生活のほうこくだった
それからよくねん
またハガキがきた
赤ちゃんできたと
それっきり
ハガキはこない
いまは
お婆ちゃんしてるのだろう
しゃべるとき
すこし顔をうつむけて
まだちいさいまごだろうから
ちょうどいい
ねえ あきちゃん
大樹
その大きな樹に
手を振れている人
少し離れてしげしげとみつめる人
狂ったようにクルクル回る人
名前は付けないでおこう
とにかく大樹とのみよぼう
もっと離れてどんどん離れて
遠くからながめよう
廻りの樹々をはるかにこえて
天空にはりついている
えゝ
天までとどいているようにみえる
でも、かすかに風にゆれている
あゝ
割合柔軟なのだ
おゝ
いま数百羽の雀がやってきた
びくともしない大樹
雀の合唱コンクール
その夜台風が通過していった
夜明けの茜色の空に
大きな影絵
それから
さわやかなコンサート
大樹がはじまる
デモっているひとも
デモられているひとも
聴きにおいでよ
この音楽を
方向を考えるには
もってこいのホールだのに
手紙
手紙をかきましょう
宛先未定のかんたんなもの
お元気ですか
と
一度お出でになりませんか
と
鸚鵡 インコ 翡翠 文鳥
みんなどうしていますか
と
それからもうかくことがない
手紙です
返事をかきましょう
宛先未定のかんたんなもの
かわりありません
と
一度お会いしたいです
と
みんなそれぞれのしごとに
いそしんでいますので
と
天もたかくなりましたね
返事です
手紙教室の今日の練習でした
夕闇の蝙蝠はすばやくとんでいました
手毬
あざやかな金糸や銀糸
赤と黒や黄と緑の糸
まきあげてながめるための
カタチとシキサイの毬
弾力性がないから
はねたり踊ったりしない
棚の上でちいさな座布団にすわって
ひとびとの視線の集中打にたえる
部屋の明るさで
幽かに頬をあからめたりする
少女
いつからそこにすわっているのか
だれがそこへおいたのか
記録も名前もないが
作った人は
女人だ
それが長い間
一人住まいの男の居間の片隅に
寄り添っているでもなく
さりとて
無視するでもなく
お互いが
日々顔をあわす
一瞥もない日や
睨めっこの日もあるが
ジャズではないが
琴線にくうきがふれて
かすかに糸が震える音がすることもある
糸は文字どおり一糸みだれず
球を生んだ
宇宙のしわざのように
意味があったりなかったりして
少女よ
あなたはいつまでそこにいる
曳航
毎日
ひとは
母港に繋留している
自分という舟にのり
強風注意報の海へこぎだす
転覆するほどの大波を
たくみにのりこえるのがベテラン
こわくてひきかえすのは負け犬とよばれる
波と風をてだまにとって
孤独を澪にしてゆく
航海術と荒海心
へこたれない強力なエンジン
これだけあれば征服できる
世 世 世
界 界 界
でも母港があぶないこともある
自然というリベラリストが
ある日ぶらっとやってきて
行く先もつげずに
母港を曳航して世界をかえる
それは過去の過誤を繰り返すこと
ドアーの開閉のように
キィーはみあたらないままにして
ゲーム
目と目をみつめ合い
未公開の自分のヒミツを
無音声でかたりあう
おたがいの眼のいろは
そのとき
何色にかがやくか
何色ににごるか
くちのカタチで
そのひらかれたヒミツをよみとり
メモをする
お互いのメモがあたっていたほうが
勝ったことになるゲーム
このゲームは
信じることがなりたつ人との間以外には
なりたたない信用ゲームだが
そんな純心なひとが
自分のなかにふたりいても
なりたつかどうか
わからないという
いたずらゲームだよ