前回の続きです。
暗殺教室「空間の時間」からの出題に唯一の難ありとすれば、数学の問題であるにもかかわらず体心立法格子の知識を持つ者が有利になることでしょうか。とはいえ問題文で解答に必要なだけの体心立法格子の説明はしていますから、知らなくて解けないという言い訳はできません。
「右の図のように、1辺aの立方体が周期的に並び、その各頂点と中心に原子が位置する結晶構造を体心立法格子構造という。」
体心立法格子という言葉を全く知らなくても、この文章で必要な情報はきちんと示されています。しかし体心立法格子を知らない多くの人は、この説明では各頂点の原子と中心の原子との2種類あると思ってしまうのではないでしょうか。するとそもそも、「A0がどちらに位置するかで場合分けして2つの答えを出す必要がある」と勘違いして泥沼に入りそうですね[*1]。
化学における結晶の理解としては、体心立法格子構造というのは無限に続く結晶の中の一部を切り出したものであり、描かれている原子は全て等価である、という理解は重要です。重要にもかかわらず、教科書や試験にあるような図だけ見ていても思いつくことさえ難しいことも事実です。中心と8頂点に原子を置いた単位格子1個だけの図だと、中心原子と頂点原子は数さえも異なると誤解することは多そうですし、今回の問題文のように8個の単位格子が示してあっても、格子線上に描かれた頂点原子と中空に浮いているかのように描かれた中心原子とでは種類が違うように見えてしまうものです。ここは一度教えてもらわないと、なかなか自力では思いつけないでしょう。
解答を見やすくするために以下の図を使います。左は単位格子8個の図で、これら8個の格子の共通点をA0と見なし、その点を赤で示しました。各格子の体心にある原子を薄青で示し、8個の体心原子とA0とを抜き出したのが右の図で、ご覧の通り、それが1個の単位格子になっています。さらに説明を書きやすくするためにxyz座標軸も入れました。なお左図は出題図の原子と線分をいくつか種類分けしたものになっています。
さて薄オレンジ色で示した6個の原子は、"A0から座標軸に平行な方向にある最もA0に近い原子"です。その距離はaです。一方、先に8個の体心原子と表現した薄青の原子は、"A0から単位格子立方体の対角線に平行な方向にある最もA0に近い原子"と言うこともできて、その距離は(1/2)(√3)aです。この問題では、これら14個の原子とA0との関係をすべて考える必要があります。
この図では、問題文の頂点原子を暖色系の赤・オレンジ・白で示し、中心原子を寒色系の薄青で示しましたが、右図の単位格子では薄青原子が頂点に位置し赤原子が中心に位置しています。この左右の図を見比べてみれば、この格子構造のすべての原子は等価であり1種類しかないことが納得できると思いますが、いかがでしょうか。
では準備ができたところで第1の解答です。浅野君の解答に近い線を目ざしていますが、実は高校レベルの試験と想定すると浅野君の解答にも減点要素があるのです。では以下、解答風の文章で。まあ、どこまでが「明らかに」として許されるかで採点は変わりますが。
第1の解答
問題図の中心の原子、すなわち8個の単位格子の共有点にある原子をA0とする。
A0から単位格子の辺に沿って距離aにある6個の原子をA1,~A6とする。
A0から単位格子の対角線に沿って一番近い8個の原子をB1,~B8とする。
線分A0-Ai(i=1~6)の垂直2等分面をLiとすれば、LiよりAi側の全ての点はA0よりAiに近いので領域D0には含まれない。すなわち領域D0はLiよりA0側の空間内に含まれる。
ゆえに領域D0は、6枚の平面Li(i=1~6)で囲まれたA0を中心とする6面体(立方体)の内部に含まれる。
また、原子Bi(i=1~8)は明らかにいずれかの線分A0-Aiの垂直2等分面上にあり、今考えた立方体の8個の頂点に位置する。すなわち、領域D0はA0を中心とした単位格子の内部に含まれる。
線分A0-Bi(i=1~8)の垂直2等分面8枚Mi(i=1~8)を考えると、Liの場合と同様に、領域D0は8枚の平面Mi(i=1~8)で囲まれた8面体の内部に含まれる。ゆえに、今考えた立方体と8面体の共通部分が領域D0であり、その形は・・・・。エーイ面倒なので省略(自爆)
図形はマンガやアニメに出ている通りで、漫画・暗殺教室第14巻・立方体の切断・正6角錐・3角錐(2015年5月2日)で書かれているように「正6角錐1つと合同な三角錐3つの和」になっています。しかしこうなっていることを証明文風に書こうとするとなかなかしんどいですね。各点に記号を付けて説明するのが一番やりやすそうですが、どこまでの省略表現なら入試等では許されるのでしょうか。
で、後は計算するだけというのが第1の解答です。
ご覧の通り、浅野君の解答では「領域D0が立方体の内部に含まれる」ということが何の証明もなく「明らかに」として使われています。高校レベルでここが減点対象になるかどうか、というころですね[*2]。
次回に続く。
-------------------------
*1) 浅野君も赤羽君も原子が1種類だけということはわかっている。むしろA0は1つ選べばいいことは、示すまでもない当たり前のことという感覚のようだ。2人とも化学だって十分に知っているだろうしね。
なお漫画・暗殺教室第14巻・立方体の切断・正6角錐・3角錐(2015年5月2日)の「数学の問題としては理解しにくいですね」という記述は、この点を指摘していると考えられる。
*2) 「出題図だけだと頂点原子と中心原子が等価とはわからない(自明ではない)ので、数学の問題としてはそのことを示さないと減点!」という厳しい採点も考えられる。化学の問題として出されたなら、むろんそれは知っておくべき知識であり、改めて証明する必要などない事実にすぎない。
暗殺教室「空間の時間」からの出題に唯一の難ありとすれば、数学の問題であるにもかかわらず体心立法格子の知識を持つ者が有利になることでしょうか。とはいえ問題文で解答に必要なだけの体心立法格子の説明はしていますから、知らなくて解けないという言い訳はできません。
「右の図のように、1辺aの立方体が周期的に並び、その各頂点と中心に原子が位置する結晶構造を体心立法格子構造という。」
体心立法格子という言葉を全く知らなくても、この文章で必要な情報はきちんと示されています。しかし体心立法格子を知らない多くの人は、この説明では各頂点の原子と中心の原子との2種類あると思ってしまうのではないでしょうか。するとそもそも、「A0がどちらに位置するかで場合分けして2つの答えを出す必要がある」と勘違いして泥沼に入りそうですね[*1]。
化学における結晶の理解としては、体心立法格子構造というのは無限に続く結晶の中の一部を切り出したものであり、描かれている原子は全て等価である、という理解は重要です。重要にもかかわらず、教科書や試験にあるような図だけ見ていても思いつくことさえ難しいことも事実です。中心と8頂点に原子を置いた単位格子1個だけの図だと、中心原子と頂点原子は数さえも異なると誤解することは多そうですし、今回の問題文のように8個の単位格子が示してあっても、格子線上に描かれた頂点原子と中空に浮いているかのように描かれた中心原子とでは種類が違うように見えてしまうものです。ここは一度教えてもらわないと、なかなか自力では思いつけないでしょう。
解答を見やすくするために以下の図を使います。左は単位格子8個の図で、これら8個の格子の共通点をA0と見なし、その点を赤で示しました。各格子の体心にある原子を薄青で示し、8個の体心原子とA0とを抜き出したのが右の図で、ご覧の通り、それが1個の単位格子になっています。さらに説明を書きやすくするためにxyz座標軸も入れました。なお左図は出題図の原子と線分をいくつか種類分けしたものになっています。
さて薄オレンジ色で示した6個の原子は、"A0から座標軸に平行な方向にある最もA0に近い原子"です。その距離はaです。一方、先に8個の体心原子と表現した薄青の原子は、"A0から単位格子立方体の対角線に平行な方向にある最もA0に近い原子"と言うこともできて、その距離は(1/2)(√3)aです。この問題では、これら14個の原子とA0との関係をすべて考える必要があります。
この図では、問題文の頂点原子を暖色系の赤・オレンジ・白で示し、中心原子を寒色系の薄青で示しましたが、右図の単位格子では薄青原子が頂点に位置し赤原子が中心に位置しています。この左右の図を見比べてみれば、この格子構造のすべての原子は等価であり1種類しかないことが納得できると思いますが、いかがでしょうか。
では準備ができたところで第1の解答です。浅野君の解答に近い線を目ざしていますが、実は高校レベルの試験と想定すると浅野君の解答にも減点要素があるのです。では以下、解答風の文章で。まあ、どこまでが「明らかに」として許されるかで採点は変わりますが。
第1の解答
問題図の中心の原子、すなわち8個の単位格子の共有点にある原子をA0とする。
A0から単位格子の辺に沿って距離aにある6個の原子をA1,~A6とする。
A0から単位格子の対角線に沿って一番近い8個の原子をB1,~B8とする。
線分A0-Ai(i=1~6)の垂直2等分面をLiとすれば、LiよりAi側の全ての点はA0よりAiに近いので領域D0には含まれない。すなわち領域D0はLiよりA0側の空間内に含まれる。
ゆえに領域D0は、6枚の平面Li(i=1~6)で囲まれたA0を中心とする6面体(立方体)の内部に含まれる。
また、原子Bi(i=1~8)は明らかにいずれかの線分A0-Aiの垂直2等分面上にあり、今考えた立方体の8個の頂点に位置する。すなわち、領域D0はA0を中心とした単位格子の内部に含まれる。
線分A0-Bi(i=1~8)の垂直2等分面8枚Mi(i=1~8)を考えると、Liの場合と同様に、領域D0は8枚の平面Mi(i=1~8)で囲まれた8面体の内部に含まれる。ゆえに、今考えた立方体と8面体の共通部分が領域D0であり、その形は・・・・。エーイ面倒なので省略(自爆)
図形はマンガやアニメに出ている通りで、漫画・暗殺教室第14巻・立方体の切断・正6角錐・3角錐(2015年5月2日)で書かれているように「正6角錐1つと合同な三角錐3つの和」になっています。しかしこうなっていることを証明文風に書こうとするとなかなかしんどいですね。各点に記号を付けて説明するのが一番やりやすそうですが、どこまでの省略表現なら入試等では許されるのでしょうか。
で、後は計算するだけというのが第1の解答です。
ご覧の通り、浅野君の解答では「領域D0が立方体の内部に含まれる」ということが何の証明もなく「明らかに」として使われています。高校レベルでここが減点対象になるかどうか、というころですね[*2]。
次回に続く。
-------------------------
*1) 浅野君も赤羽君も原子が1種類だけということはわかっている。むしろA0は1つ選べばいいことは、示すまでもない当たり前のことという感覚のようだ。2人とも化学だって十分に知っているだろうしね。
なお漫画・暗殺教室第14巻・立方体の切断・正6角錐・3角錐(2015年5月2日)の「数学の問題としては理解しにくいですね」という記述は、この点を指摘していると考えられる。
*2) 「出題図だけだと頂点原子と中心原子が等価とはわからない(自明ではない)ので、数学の問題としてはそのことを示さないと減点!」という厳しい採点も考えられる。化学の問題として出されたなら、むろんそれは知っておくべき知識であり、改めて証明する必要などない事実にすぎない。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます