知識は永遠の輝き

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世論という名の幽霊(1) されど調査なかりせば

2011-04-02 06:11:02 | 数学/数理科学
 世論という定義さえもとらえにくいものをなんとか科学的に測ろうとする試みが世論調査です。そこには様々な誤差が入り込み、現在多くのマスコミの世論調査で使われている方法にもいくつかの限界が指摘されています。それでも世論というものを語ろうとするならば、科学的に妥当と認められた方法で測定された結果に基づいて語るしか正当な方法はありません。

 政治の世界では「国民の声」とか「市民の声」とか称して自分の主張を述べることは茶飯事ですので、注意深い人ならもう騙されたりはしないでしょうが、政治家ではない言論人やジャーナリストの記事でも調査に基づかずに「国民の声」を断言する場合がありますので要注意です。これはもう世論調査が正しいか否かという以前の問題です。

 例えば、ダイヤモンド・オンライン(2011/03/18)の原英次郎の記事です。
http://diamond.jp/articles/-/11555
未曾有の難局に挑む
リーダーたちの言葉は
どうして心に響かないのか

 タイトルを見ると、多くの国民(それとも週刊ダイヤモンドの読者)が「(今回の震災での)リーダーたちの言葉は心に響かない」と考えていることが既定の事実のように見えます。しかし中を読めば、どこにもそれを示すデータはありません

>最後が、菅直人総理の国民のへの呼びかけである。主観的との非難はあえて覚悟の上で言うが、言葉が心に残らない、響かない。話の内容は、ほとんど政府が何をしたかの説明に終始している。

 はい主観的ですね。別に主観的なのが悪いのではなくて、「私の心に残らない、響かない」とはっきり言えばいいだけの話です。また一体どの「呼びかけ」を評価しているのかも不明確です。発言を特定せずに評価するなんて、まるでネット掲示板の誹謗中傷発言みたいではありませんか。

 とはいえ、私はこの記事の趣旨には賛同するところも多いのです*)。それだけに読者をミスリーディングしかねない表現が惜しまれます。

 前振りはこれくらいにして次回からいわゆるネット調査の性質について述べてみましょう。


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*) 例えば、「地域の人や国民に理解してもらうべきだったのは、最悪の事態とは何で、避難指示を含めた対応は、最悪の事態をも想定したものであるのかどうかということだった。結局、危機対応がムダに終わったとしても、その逆よりもはるかによい結果である。」などは同意します。しかしこれが「地域の人や国民が知りたい」ことだったか否かはデータがないでしょう。原氏はそう考えていたでしょうし、それが健全な判断であるとは思いますが。
 むろん、「最悪の事態とは何か?」という問いへの答えがひとつだけではないところに難しさがあるので、「その逆よりもはるかによい結果であった」と万人が評価するとも思えませんが。

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