暗殺教室というマンガ原作のアニメが人気らしいです。あの尾木ママが高く評価したのをちらりと聴いたので録画してから見ていたのですが、(第2期)の第12話「空間の時間」でなんと実際に数学問題が登場しました。学年1位を争う2人がこの問題の解答の差で決着がつくという設定ですが、こんなストーリーで実際の問題を描くというのは、将棋物や囲碁物で実際の棋譜を載せることと同じく難しいと思いますが、この話の問題はよくできていました。2つの対照的な解答の存在にも無理がありません。
問題自体は小説ドラマ映画漫画アニメの中の数学というブログの漫画・暗殺教室第14巻・立方体の切断・正6角錐・3角錐(2015年5月2日)に一番よくまとまっています。ストーリーの方は以下の2つがいいでしょう。
[http://konohana19.hatenablog.com/entry/2016/03/27/181541]
[http://ameblo.jp/177wind/entry-12144623937.html]
問題文の要点のみを抜き出せば次のようになります。
「体心立法格子構造において、ある原子A0に着目したとき、空間内のすべての点のうち、他のどの原子よりもA0に近い点の集合が作る領域をD0とする。このとき、D0の体積を求めよ。」
暗殺教室は中学という設定なんだけど、これは高校レベルですよね(苦笑)。でも高校数学の幾何問題としては、もしくは高校化学の問題としてもなかなかの難問であり、良問です。Z会が監修したとの話ですが[*1]、それだけのことはありますね。
で勝利したE組の赤羽業(カルマ)の解答は答えは早く出せますが、その過程すなわち証明を文章で説明するのはなかなか困難でしょう。まさかアニメで描かれた思考をそのまま解答文にしてもだめでしょうからねえ(^_^)。まあ浅野学秀の解答も式の成立を説明する文章はちと苦労するかも知れませんが、物語の中の採点基準はどうなっていたのでしょうね。どうも答があっていればよし、という風にも見えますが? 中学だしね。
さて赤羽君の解答の発想は実はものすごく高次元というか広いというか汎用的というか、興味深いものなので、それも含めて3段階の解答を何回かに分けて示していきたいと思います。
ただその前に、ネット上には「意味がわかりにくい」「悪文だ」「解釈が何通りもできる」などの声もあふれていましたので、その辺をはっきりさせておきましょう。この問題文には数学問題としてはあいまいなところは全くありません。高校数学で学ぶ概念がきちんと理解できていれば誤解の余地はありません。理解が不十分であれば早とちりするところはもちろんあって、それはまさに解答者の理解の程度を試しているのです。それをひっかけと呼ぶことも可能でしょうが、それは理解が十分かどうかを試すためのフィルターの役目を持つものであり、ひっかかる者は己の未熟を恥じるべきです。
とはいえあくまでも、高校生なら誤読するなよ、という話で中学生にはどうでしょうねえ。ま、そこはパワーインフレや精神年齢インフレが常のマンガの世界ですから(^_^)。
一番ひっかかりそうなのは「空間内のすべての点」を「格子点」と誤解することです。例えば暗殺教室の数学最終問題(2015-05-03)と題するブログ記事が代表的です。
まあこのブログについてはコメントで正しい指摘をしている何人かの声の方を参考にすべきでしょう。ただここでa^3という答は「単なる点を格子点と誤解した」というミスとは言えません。D0を「格子点が作る集合」と考えればその体積はゼロですから。もっとも高校レベルでは、「点がいくら集まっても体積はゼロ」という考え方自体を身に着けている生徒はあまり多くはないかも知れません。
a^3という答は単純には「図を読み誤って原子(格子点)の半数を見落とした」というミスの可能性があります。もう一つの可能性としては問題文を「他のどの原子よりもA0に近い原子の集合が作る図形をD0とする。」と読み間違えたことです。実はこの文章だと、"有限個の点が作る図形の体積"という部分が数学的には曖昧なんですが、詳しくは余裕があれば後ほど。
問題文に戻って「空間内のすべての点」の意味は数学では誤解の余地はありませんし、「点の集合が作る領域」およびその「体積」にも誤解の余地はありません。「他のどの原子よりもA0に近い点の集合」というのももってまわった言い方ではあるでしょうが、数学的意味は明確です。
なお小中学生向けには「A0が一番近い空間の体積」という表現を提案している人がいました。オタクな東大生のゲーム日記・暗殺教室 122話(ネタバレあり)(2015年05月19日)[*2]。高校以上の数学では厳密さに欠ける表現ですが、小中学生向けにはわかりやすいのかも知れませんね。
百歩ゆずって高校化学の問題として出題されたならば、用語が数学的過ぎて拙いという話は出るのか出ないのか[*3]? これは現在の高校課程について詳しく知らない私にはわかりません。ただ、理系だったら化学の問題を解くにしても数学の言葉は知らないとだめでしょ、とは言えると思います。
緊急日記 今週の暗殺教室の数学の最終問題について(体心立法格子構造)(2015/01/07)では、「例『そもそも、原子の体積引かないのか、ある原子Aゼロって頂点にも原子あるんじゃないの? 定義曖昧過ぎ、頂点と空間内のすべての点も曖昧』などなど。」との記載がありますが、化学の問題として出題されたなら、これらの難癖も一応の妥当性は認められるかも知れません。でも普通に化学と数学の概念が理解できている生徒なら、こういうひねくれ解釈はまずしないのではないでしょうか? まあ試験慣れしていれば、とも言えるかも知れないけれど(^_^)。
実のところ、「マンガのことだし、何か引掛け的なところがあるんじゃないか?」という先入観というか疑心暗鬼を持って読むと、上のような難癖も考えたくはなります。しかし素直な試験問題文として読めば、素直な大学受験生なら題意以外の読み方はしないでしょう。
さて次回から問題の解答に移ります。
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*1) 以下を参照。出題あり。
https://www.zkai.co.jp/home/ansatsu-anime/
http://www.ansatsu-anime.com/news/detail.php?id=1021868
http://www.ansatsu-anime.com/news/detail.php?id=1019333
http://www.ansatsu-anime.com/news/detail.php?id=1017905
*2) 展開しているゲーム論にも共感できる面がある。他にペルソナ5 四色定理問題の「本当の」正解は2色(2016年09月16日)も紹介しておこう。これはペルソナ作者の大ミスですね。
*3) ストーリーでは「数学の試験」となっているのに、ネット上には化学の出題と誤認しているかのような発言も多々ある。よく見ない人が多いのだなあ。
問題自体は小説ドラマ映画漫画アニメの中の数学というブログの漫画・暗殺教室第14巻・立方体の切断・正6角錐・3角錐(2015年5月2日)に一番よくまとまっています。ストーリーの方は以下の2つがいいでしょう。
[http://konohana19.hatenablog.com/entry/2016/03/27/181541]
[http://ameblo.jp/177wind/entry-12144623937.html]
問題文の要点のみを抜き出せば次のようになります。
「体心立法格子構造において、ある原子A0に着目したとき、空間内のすべての点のうち、他のどの原子よりもA0に近い点の集合が作る領域をD0とする。このとき、D0の体積を求めよ。」
暗殺教室は中学という設定なんだけど、これは高校レベルですよね(苦笑)。でも高校数学の幾何問題としては、もしくは高校化学の問題としてもなかなかの難問であり、良問です。Z会が監修したとの話ですが[*1]、それだけのことはありますね。
で勝利したE組の赤羽業(カルマ)の解答は答えは早く出せますが、その過程すなわち証明を文章で説明するのはなかなか困難でしょう。まさかアニメで描かれた思考をそのまま解答文にしてもだめでしょうからねえ(^_^)。まあ浅野学秀の解答も式の成立を説明する文章はちと苦労するかも知れませんが、物語の中の採点基準はどうなっていたのでしょうね。どうも答があっていればよし、という風にも見えますが? 中学だしね。
さて赤羽君の解答の発想は実はものすごく高次元というか広いというか汎用的というか、興味深いものなので、それも含めて3段階の解答を何回かに分けて示していきたいと思います。
ただその前に、ネット上には「意味がわかりにくい」「悪文だ」「解釈が何通りもできる」などの声もあふれていましたので、その辺をはっきりさせておきましょう。この問題文には数学問題としてはあいまいなところは全くありません。高校数学で学ぶ概念がきちんと理解できていれば誤解の余地はありません。理解が不十分であれば早とちりするところはもちろんあって、それはまさに解答者の理解の程度を試しているのです。それをひっかけと呼ぶことも可能でしょうが、それは理解が十分かどうかを試すためのフィルターの役目を持つものであり、ひっかかる者は己の未熟を恥じるべきです。
とはいえあくまでも、高校生なら誤読するなよ、という話で中学生にはどうでしょうねえ。ま、そこはパワーインフレや精神年齢インフレが常のマンガの世界ですから(^_^)。
一番ひっかかりそうなのは「空間内のすべての点」を「格子点」と誤解することです。例えば暗殺教室の数学最終問題(2015-05-03)と題するブログ記事が代表的です。
まあこのブログについてはコメントで正しい指摘をしている何人かの声の方を参考にすべきでしょう。ただここでa^3という答は「単なる点を格子点と誤解した」というミスとは言えません。D0を「格子点が作る集合」と考えればその体積はゼロですから。もっとも高校レベルでは、「点がいくら集まっても体積はゼロ」という考え方自体を身に着けている生徒はあまり多くはないかも知れません。
a^3という答は単純には「図を読み誤って原子(格子点)の半数を見落とした」というミスの可能性があります。もう一つの可能性としては問題文を「他のどの原子よりもA0に近い原子の集合が作る図形をD0とする。」と読み間違えたことです。実はこの文章だと、"有限個の点が作る図形の体積"という部分が数学的には曖昧なんですが、詳しくは余裕があれば後ほど。
問題文に戻って「空間内のすべての点」の意味は数学では誤解の余地はありませんし、「点の集合が作る領域」およびその「体積」にも誤解の余地はありません。「他のどの原子よりもA0に近い点の集合」というのももってまわった言い方ではあるでしょうが、数学的意味は明確です。
なお小中学生向けには「A0が一番近い空間の体積」という表現を提案している人がいました。オタクな東大生のゲーム日記・暗殺教室 122話(ネタバレあり)(2015年05月19日)[*2]。高校以上の数学では厳密さに欠ける表現ですが、小中学生向けにはわかりやすいのかも知れませんね。
百歩ゆずって高校化学の問題として出題されたならば、用語が数学的過ぎて拙いという話は出るのか出ないのか[*3]? これは現在の高校課程について詳しく知らない私にはわかりません。ただ、理系だったら化学の問題を解くにしても数学の言葉は知らないとだめでしょ、とは言えると思います。
緊急日記 今週の暗殺教室の数学の最終問題について(体心立法格子構造)(2015/01/07)では、「例『そもそも、原子の体積引かないのか、ある原子Aゼロって頂点にも原子あるんじゃないの? 定義曖昧過ぎ、頂点と空間内のすべての点も曖昧』などなど。」との記載がありますが、化学の問題として出題されたなら、これらの難癖も一応の妥当性は認められるかも知れません。でも普通に化学と数学の概念が理解できている生徒なら、こういうひねくれ解釈はまずしないのではないでしょうか? まあ試験慣れしていれば、とも言えるかも知れないけれど(^_^)。
実のところ、「マンガのことだし、何か引掛け的なところがあるんじゃないか?」という先入観というか疑心暗鬼を持って読むと、上のような難癖も考えたくはなります。しかし素直な試験問題文として読めば、素直な大学受験生なら題意以外の読み方はしないでしょう。
さて次回から問題の解答に移ります。
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*1) 以下を参照。出題あり。
https://www.zkai.co.jp/home/ansatsu-anime/
http://www.ansatsu-anime.com/news/detail.php?id=1021868
http://www.ansatsu-anime.com/news/detail.php?id=1019333
http://www.ansatsu-anime.com/news/detail.php?id=1017905
*2) 展開しているゲーム論にも共感できる面がある。他にペルソナ5 四色定理問題の「本当の」正解は2色(2016年09月16日)も紹介しておこう。これはペルソナ作者の大ミスですね。
*3) ストーリーでは「数学の試験」となっているのに、ネット上には化学の出題と誤認しているかのような発言も多々ある。よく見ない人が多いのだなあ。
いや、すごいですね……
広い分野での知識量と理解の深さに、己の浅学さ(非才はまだ認めたくないw)を思い知らされます。
この問題に関する論争を見ると、知識が足りない人、特に知識が足りないことに無自覚な人に誤解なく物事を伝えるというのは本当に難しいことだと実感しますね。
知識が足りないというのは僕も他人事ではないのであまり言えませんけど。
他にもすごい人はいますよ。例えば以下。(http:は省略)
[//d.hatena.ne.jp/NATROM/] NATROMの日記
[//transact.seesaa.net/] 忘却からの帰還
[//skinerrian.hatenablog.com/] Skinerrian's blog
[//www.asahi-net.or.jp/~dd6t-sg/] suchowan's blog
[//0-chromosome.hatenablog.jp/] 0番染色体
自分が知らないということを自覚したときに世界が広がるものなのだと思います。