知識は永遠の輝き

学問全般について語ります

空間図形問題・暗殺教室「空間の時間」から (3)

2016-09-30 06:02:37 | 数学/数理科学
 前回の続きです。

 さて第2の解答です。途中までは第1の解答と同じですが、最後の計算をもっとエレガントにします。

第2の解答

 領域D0が立方体と八面体の共通部分であることを求めるまでは第1の解答と同様なので省略。

 この立方体をA0と1個のBi(i=1~8)とを頂点とする立方体8個に分割し、その1個を考える。この小立方体の内部で領域D0に含まれるのは、線分A0-Biの垂直2等分面でこの小立方体を分割した図形でA0を含む部分である。この部分はこの小立方体を2等分したものなので体積は小立方体の1/2である。
 領域D0の体積はその8倍なので、(1/2)a^3になる。


 そう、複雑な図形の体積計算などする必要はなかったのです。
 で、漫画・暗殺教室第14巻・立方体の切断・正6角錐・3角錐(2015年5月2日)の記事や緊急日記 今週の暗殺教室の数学の最終問題について(体心立法格子構造)(2015年01月07日)の記事では、どうもカルマ君はこの第2の解答をしたと誤解しているふしがあるのですが、それは多分違います。


 では第3の最もエレガントかつ高度な解答です。

第3の解答

 A0の近傍の原子Ai(iは0以外)を考えると、領域D0は線分A0-Aiの垂直2等分面LiのA0側の半空間に含まれる。同様にして十分なだけの近傍の原子Aiについてでの垂直2等分面Liを考えれば、これらのLiで囲まれた多面体の内部が領域D0である。

 無限結晶格子内の全ての原子について同様に領域D0を考えれば、全ての原子は等価なので、各原子の領域D0は全て合同であり、その体積も全て等しい。
 空間内の任意の点は、いずれかにの領域D0の内部に属するか、または異なる2つ以上の領域D0の境界面・線・点に属するかのいずれかである。ゆえに空間内の任意の領域の体積はそこに含まれる領域D0すべての体積の和に等しい。

 ここで体心立方単位格子を考えると体積a^3の単位格子の中には2個分の原子が含まれる。したがってこの中には2個分の領域D0が含まれるはずであり、1個の領域D0の体積は(1/2)a^3になる。


第3の解答の解説

 最初の「多面体の内部が領域D0である」ことの証明部分(説明部分?)は色々の書き方があるでしょうが、カルマ君の発想の肝は2番目の「全ての原子は等価、その領域D0も全て等価」というところです。おわかりのように、ここまでは体心立方格子に限られた話ではありません。単位格子の繰り返しで構成された結晶構造ならばすべての構造に通用する話です。なぜなら、単位格子の等価性という、すべての結晶構造に共通な性質だけを使っているからです。

 この方法では具体的な数値を出す最後の段階で、単位格子に何個の原子が含まれるかという各構造固有の性質が必要になるだけなのです。しかも領域D0の具体的な形を知る必要さえないのです。

 ちなみに「単位格子の中にはn個分の原子が含まれる」といった考え方は高校化学では常識です。ただし数学の解答としては、もう少しきちんと説明する必要があるかも知れません。でもそこを言葉にするのは案外難しいので、「図より明らか」程度でも減点はされないかも知れませんが。

 ビデオを見直しましたが、やはりカルマ君の発想は解答2ではなく解答3と考えられます。「周期的」という言葉から無限の結晶格子をイメージし、その中で全ての原子が平等であることをイメージしていましたから。8個程度の単位格子の局所的なイメージで考えたのではありませんでした。

 このように個別の問題を越えた一段上の広い視点から考えると見通しが良くなって難問が解けるということは数学ではよくあります。数学史上の画期的な証明の多くは、このように今までよりも広い視野を開く発想によりなされたものでした。そうやって数学は進歩してきたのです。

 こんな観点から見ると、あの勝負は点差以上にカルマ君の圧勝です。カルマ君には一流の数学者にもなりうる才能があると言ってもよく、彼の刃(やいば)は多くの人の想像以上に切れ味鋭いものだったのです。ちょっとほめ過ぎだったかな(^_^)。

 より広い範囲から見るという考え方の一端を知りたければ、次の本なども良いでしょう。この2冊は出版社も違いますが同一内容ですね。そういえば会計の中の二つの顔(1)で紹介した2冊の本のそれぞれも、英語版では複数の出版社から同一内容で出されていました。

今井淳;中村博昭;寺尾宏明『不変量とはなにか―現代数学のこころ (ブルーバックス)』講談社 (2002/11)
今井淳;中村博昭;寺尾宏明『不変量と対称性―現代数学のこころ (ちくま学芸文庫) 』筑摩書房 (2013/03)


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4 コメント

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Unknown (神の使い)
2017-06-03 05:28:39
うえから目線でキモいけど凄いね
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コメントありがとうございます (diamonds8888x)
2017-06-08 05:25:42
神の使いさん

 コメントありがとうございます。お褒めにあずかり恐縮です。

 私は普通におもしろい話を紹介しただけのつもりでしたので、「キモい」と感じる人がいるとは思いもよりませんでした。御不快の点、申し訳ありません。残念ながら私の文章力ではこの程度の表現しかできませんので御容赦いただければ幸いです。

 そうなんです。対称性という鋭い刃を見出した過去の数学者達は本当に凄いのです。同じ人類として我々も誇らしく思ってよいのではないでしょうか。

 ところで「神の使い」というのも、ちょっと気取りが入っておもしろいハンドル名ですね。単に個人的な感想に過ぎませんが。


念のための追記:「キモい」と書いたのは一応、非難の意味が入ってますよね? いやー、最近「やばい」という言葉から「危ない」という意味を完全に抜かして使う使い方が広まっているらしいとの噂を聞いていて、あるフログで本当に何にも危険性のないことを「ヤバイ」と表現した文章に出会ってしまったのです。ひょっとして「キモい」の意味も知らない間に変わっていたりするかもと心配したもので。
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Unknown (こうしもどき)
2017-07-29 18:49:56
 以前、同じ問題を教え子に尋ねられ解いていました。漫画に出てきたということは知っていたのですが、なるほどそういうストーリーだったんですね。
 私は2番目の方法で解答していました。直感に反して、図に書くと案外わかりやすいもの(特に後半の立方体と八面体の共通部分など)ですので、教え子にも手を使って作業しながら解くように指導しました。
 3番目の考え方は絶妙ですね。経験的に、試験中のエウレカ的思い付きは大概失敗してきたので、私は絶対できません笑。教え子にも、定期試験ぐらいでれば、論証や計算を固めさせるためにも、発想で満点のカルマ君より、泥臭く部分点の浅野君であってほしいと思います(入試本番は結果論になってしまうので高得点最優先ですが笑)。
 やや蛇足ですが、やはり前提知識が無いと「構造が無限て何で言えるの?」「周期的ってどういう周期なの?」というそもそも的な(それはそれで的を射ているような)疑問が生徒に湧いてしまうので、リサイクルするなら思いっきり改題したいなと思いました。
 漫画というストーリーがあってこそ、こういう奇なる(見方によっては「かっこいいい」?)解答ができる問題が掲げられているのだと思いますが、大学入試でも定期試験でも、実際に出てきたら非難の嵐だろうなと笑。実際、たとえ無知的側面があるにしても、結構な人から「わかりにくい」「条件が曖昧」という意見が出てしまうようでは、試験問題としては失格なんでしょうな。…と、改めて問題作りの難しさに感じ入りながら、記事を拝見いたしました。
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思いつくのはやはり大変 (diamonds8888x)
2017-08-11 16:01:12
こうしもどきさん、

 この記事にもコメントをいただいていましたね。ありがとうございます。

 おっしゃる通り、私自身も含めて普通は2番目の解答止まりだと思います。3番目は見たことはあったとしても目の前の問題に使えるということを思いつけるかどうかはわかりません。もっと楽な方法がないかと突き詰めて考えて、つまりはそんな方法があるはずだと思って考えてみて、ようやく思いつけるかどうかというところだと思います。

 物理で言えば、速度や運動量でしこしこ計算して出すところをエネルギーを考えて一気に解答にたどりつくみたいなもので、物理ならエネルギーによる解法は高校レベルでも定跡として教えますが、数学ではそうではありませんから。

 ただ数学者レベルだと定跡でしょうね、きっと。使い慣れてさえいれば退屈な計算をしなくて済む分だけ楽ですし、なにより時間制限がない(^_^) 分野外からはどれほど珍しく見える発想でも使い慣れていればいつでも的確に使えるものだと思います。数学問題でも、囲碁将棋でも、推理小説の犯人当てでも。


 「構造が無限て何で言えるの?」「周期的ってどういう周期なの?」という疑問が生まれるというのは、まさに一種の天才のような気もしますね。「1+1はどうして2なの?」みたいな。そんな疑問を連発する子供に大人が振り回されるというドラマを昔見たような覚えがあります。


>たとえ無知的側面があるにしても、結構な人から「わかりにくい」「条件が曖昧」という意見が出てしまうようでは、試験問題としては失格なんでしょうな。…と

 この問題に関してはそこまでのこともないかと思います。広く何かを伝えたければ、知識の少ない人のことも考慮した伝え方にすべきですが、文章題というのは、その分野の普通の文章を普通に解釈できる力をも合わせて問うているはずですから。
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