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学問全般について語ります

量とは-2- 負の量

2010-03-28 06:42:05 | 数学/数理科学
 前回の続きです。

 「負の数かける負の数が正の数になるのはなぜだ?」とか「小学生にどう説明する?」とかいう話がよくあって、これに解答を記載している本などもあります。昔だと、負の数の積が正となることには大人でも本気で納得しない人もいたそうで、スタンダールが「借金×借金がどうして財産になるのか?」と述べたというエピソードが有名です。*1)

 負の数の積の説明には演算規則から誘導する説明がよくありますが*2)、これではたぶん小学生への説明としては落第でしょう。ここではまず私流の説明を紹介し、演算規則からの説明との違いを述べていきます。私流と言っても別にオリジナルでもありませんが*3)

例1. 左から右へ一直線の道があるとして、右への距離を正、左への距離を負とします。同様に、右へ向かう場合の速度を正とし、左へ向かう場合の速度を負とします。すると、速度Vで時間Tだけ移動した場合の距離Lは、 L=V*T です。このとき、時間Tは正なので、
  速度Vが正なら、距離Lは正
  速度Vが負なら、距離Lは負

 さて、今まで速度Vで進んできたとして、T時間前の現在地点からの距離Lを求めることを考えます。それには、T時間前という時間を負の時間"-T"と定義すればよいのです。すると、
  左へ4km/hrの速度で進んでいた場合の5時間前の距離Lは、
   L=(-4)(km/hr)×(-5)hr=+20km
  で、右へ20kmです。

 ということで、「負×負=正」が成立していることがわかりました。

例2. それぞれに点数の書かれているプラス点のカードとマイナス点のカードを使い、各人が持っているカードの点数の合計を各人の持ち点とします。そして、カードを手放して他人に渡すことと、逆にカードをもらって自分の手に加えることを、正負の数で同時に表します。
  N枚のカードを受け取ること +N枚の入手
  N枚のカードを手放すこと -Nの入手
 すると、点数PのカードN枚を入手した時に増えた点数は P×N になり、
  Pが正でN が正ならば、持ち点は正の増加
  Pが負でN が正ならば、持ち点は負の増加、つまり正の減少
  Pが正でN が負ならば、持ち点は負の増加、つまり正の減少
  Pが負でN が負ならば、持ち点は正の増加

 ということで、「負×負=正」が成立していることがわかりました。

例3. 物体の持つ電荷は正電荷粒子(例えば陽子)の総電荷と負電荷粒子(例えば電子)の総電荷の和になり、大抵は両者の総電荷の絶対値が等しくて、全体でゼロになっています。ここで、N個の粒子(正電荷粒子でも負電荷粒子でもいい)が物体に加わることを+N、物体から出ていくことを-Nと表します。すると、例2と同様に「負×負=正」が成立します。

例4. ある人の金融資産が債権と借金(負債)から成るとすれば、債権は正の財産で借金は負の財産と定義できます。債権でも負債でも受け取ることを正、手放すことを負と定義します。つまり、
  債権を受け取る 正×正 財産の増加は正
  債権を手放す 正×負 財産の増加は負
  負債を受け取る(借りる) 負×正 財産の増加は負
  負債を手放す(返す) 負×負 財産の増加は正

 ということで、「負×負=正」が成立していることがわかりました。債権をプラス点のカード、負債をマイナス点のカードとすれば例2と同様です。で、スタンダールも納得できたかな(^_^)

 ここで(前回のべた、「量同士の積の結果は異なる種類の量になる」という原則を使うと「借金×借金=財産」の誤解の由来がわかります。借金同士の積は金額にはならないのです。結果が金額であるためには例4のように、借金にかける量はやり取りの回数とか、何かしら金額とは別の量でなくてはならなかったのです。

   続く
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*1) 遠山啓『数学入門(上)(岩波新書)』岩波書店(1959/11)p67
 以下のサイト(本の落書き)からの伝聞です。
http://mermaid-tavern.com/book/bk3/k1/bk3_0038.html

*2) a) 桜井進『感動する!数学』海竜社(2006/09)p126
b) 八起数学塾(負の数と虚数)
c) 青空学園数学科(計算法則から導く)

*3) a) 江藤邦彦『算数と数学素朴な疑問―なぜそうなるの?なぜこう解くの?』日本実業出版社(1998/09) p32
b) 校長室(2008.10.17)
c) 39歳からの数学者(2009/06/18)
d) 青空学園数学科(昔の授業;負数の積)

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