沈黙のある朝
快い沈黙のある朝。「雑誌届いてるわよ」とイチ子さんの声。
リゾート
夏の夕方、海遊びの帰りに、普段から親しい隣家の植え込みからヤツデの葉を数枚...
イワタバコの切り通し
梅雨のさ中、明月院の人いきれを避け、 禅宗の古刹浄智寺の土壁に沿って進むと...
ゼロがひとつ足りないわよ
偶然の一致か、日本の一般的な古書店と英国のそれとはほとんど同じ形態の店作りで小商いの域を出ない。 ところが米国の古書店となると日本では極めて特殊な部類に入る稀覯本...
古いアメリカン・ポップスが聞こえていたせいか
「葉書くらいの大きさのスケッチブックを上着のポケットから出して、立ち止まって鉛筆デッサンしている絵描きのオジサンって、昔は、いっぱいいたよね」とイチ子がデッキのベン...
曲名が思い出せない
由比ヶ浜にあるこの古い家はエアコンがない時代の作りなので、夏の日中は家中の窓を開け放てば対流で自然に風が通る工夫が随所に施されている。大昔の木造小学校などと同じく...
コンバースを洗っているのが見えた
水口イチ子は幼稚園の頃からウチの母によくなついていて、夏休みなど、自分の家...
終業式の帰りだったかもしれない
写真をアルバムに整理する習慣が希薄だったせいで、古い写真は、二、三年ごとに小箱に乾燥剤と共に放り込んでおくだけだった。そんな小箱も一箇所にまとめて置かれることはな...
人は、人のものになんてならない
去年の夏、あるカジュアルなパーティーにイチ子とふたりで出かけたとき、グラス半分ほどのシャンペンで気分の良くなったきみが ...
ふたり共いち日中水着のまま過ごすこともあった
八月の海。太陽は南中を過ぎたようだ。砂混じりの風が強い。 カー・ラジオを点けると、AORやシティポップがいつでも聞こえていた頃のことだ。 防波堤下のモータ...