最終回
~前回までのあらすじ~
「自分が理想の世界に行きたい・・・」という欲望に負けて、キララと取り交わした約束を守るために、少年は自分が普段から好意をい抱いている女の子の家に、彼女が一番大事にしているウォルドルフ人形を盗みに入ります。
しかし、人形を見つけることは出来なくて部屋の中でウロウロしているうちに、女の子が外出から帰ってきてしまい、彼女の家に人形を盗みに入った少年は、彼女に顔を見られてしまいます。
その瞬間、少年はもう顔を見られた以上、この場で女の子を殺害し殺人犯になるか、それともこの場から今すぐ逃げ出してしまって、どこか誰も顔見知りがいない土地でひっそりと暮らすか、その二者選択に思い悩みます。
その結果、少年が選んだ答えは、まだ人間としての純真な心が残っていたこともあり、この場で女の子を殺害して殺人犯になるより、一刻も早くその場から逃げ出し、どこか誰も顔見知りがいない土地でひっそりと暮らすことでした、
少年が、女の子の部屋の中から夢中で飛び出し、町の大通りに向かって走って行ったそのときでした。
―キ、キ、キ、キ、キーッ!―
―ドッスーン!―
少年は大通りに向かう角を曲がった瞬間、町の道路を猛スピードで走って来た白いワゴン車に、撥ねられてしまったのです。
「あ、あれ?」
「もう一人の僕が、白いワゴン車の前に血まみれになって倒れている・・・」
「た、大変だ!若い男の子が車にひかれたぞ!」
「は、早く救急車に連絡しろ!」
―ウゥウウー、ウゥウウー、ウゥウウー・・・―
―ピーポー、ピーポー、ピーポー・・・―
そのうち、少年が血まみれになって倒れている白いワゴン車の前には、すごい人垣が出来パトカーや救急車がやって来ました。
「どうして、僕はここにいるのに、もう一人の僕が血まみれになって倒れているんだろう?」
その時、まだ少年は自分が白いワゴン車に撥ねらて死んでしまい、人間としての肉体を失ってしまった幽体離脱者であることに、まったく気付いていませんでした。
そこへ、再び星の天子キララがやって来ました。
そしてキララは、白いワゴン車に撥ねられてしんでしまい、二度と人間界へ戻れないことと、今の少年の体は一種の人間の目には見えない魂であることを教えました。
「ぼ、僕が死んだ?!」
それを聞いた少年は、気を失いそうになるほど驚きました。
「それより、早く君と約束の契約を交わした3つ目の守りに行きましょう・・・」
なんと、キララが少年に伝えた3つ目の約束の条件とは、いつも少年が「あの空の向こうに、僕が夢見る幸せの世界があるんじゃないかと・・・」と、思い描き続けていた理想の世界に行くことでした。
ところが、実際に少年が夢に描いていた理想の世界とは、500年後の地球の未来でした。
500年後の地球は、ある一部の悪の指導者たちの人間の権力争いと醜い欲望のせいで、世界中のあちこちで核戦争が勃発し、すべての都市という都市が廃墟化(ゴーストタウン)していました。
それでも、なんとか世界全体で数百人の人間たちが生き残っていましたが、もうその姿は核兵器の放射能を浴びて、どう見ても人間とは呼びがたいまるでゾンビのような姿をしていました。
ただ、そんな姿になってまでも、未だに人間たちは食料や縄張り争いなどを巡って、人を殺したり物を奪い合ったりして醜い争いを続けていました。
そんな、人間のあさましい姿を見て、少年は「自分がこれまで思い描き続けていた理想の世界が、こんなところだったなんて・・・」当然のことだとはいえ、さすがにその答えが分かるとあまりにもショックが大きすぎて、いつまでも悔しくて涙が止まることがありませんでした。
キララは、少年にこれまでの体験を通じて、今少年たち人間が住んでいる地球が宇宙の中のどの星よりも美しく、我々人間たちが生きて行くのにとって、地球という星がどんなに大切なものであり、何億年にも渡ってすべての生物たちに、どんなに幸せを与え続けているかを教えたかったのです。
一度死んだ人間は二度と人間界に戻ることは出来ませんが、キララの粋な計らいで少年は白鳥座のひとつの星として加えてもらうことになりました。
星になった少年が空の上から地上を見ていると、あの好意をい抱いていた女の子が少年が交通事故に遭って死亡した場所に、白いバラの花束と一緒に自分があんなに可愛がっていたウォルドルフ人形を供えている姿が見えました。
君はその汚れを知らない瞳で 何を見ているの?
君はその両手に 何を感じているの?
君が生まれた僕らの住む この地球(ほし)は
とても悲しいことが 多すぎるから
真実の涙を 流す暇がない
とても苦しいことが ありすぎるから
真実の自分に 戻る時間(とき)がない
それでも君が 人間(ひと)としてこの世に生まれた以上は
それが君の運命だから それが僕らに与えられた生命だから
生きることが一番 どんなことがあっても生きることが一番
※このウォルドルフ人形の画像は、「絵本の店・星の子」のご好意で使用させていただいています。
「絵本の店・星の子」ホームページ
http://homepage2.nifty.com/hoshinoko/
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明けましておめでとうございます。
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