好きなもの

好きなもの。

取り壊された家の、その向こう側の家の窓。

古家が取り壊されて、はじめて見える、向こう隣の家の窓。
今まで日が当たらなかった窓に、急に日が入るようになって、
すんでいる人はきっと喜んでいるだろうと想像する。
そんで「このままずっと隣が空き地だったらいいのに」とか思ってるんだろうなと想像する。

世の中そんなにうまい話はないが、たまに、まれに、ずっと空き地のこともあったり、
次に建つ家の位置などの関係で、窓の前に遮るものがなかったりすることもあり、
そうすると、破れ障子がきれいになったり、カーテンが変わったりして、住人の喜びが手に取るようにわかる。

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好きなもの。

自転車のサドルを、ビニール袋で包んでいる人。

大抵、年配の人で、たぶん、サドルに傷がついて雨がしみ出てくるようになってしまったのを、一番てっとり早い解決方法で解決しているのだと思う。東急ハンズに行けば、もっとカッコいい「サドルカバー」というものが売られているのだが、それを知ってか知らずか、スーパーのビニール袋をかぶせている。

あれは、じんわりと、いい。

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好きなもの。

ビルの屋上の小屋。

地上の小屋も大好きだが、ビルの屋上にある小屋はもっといい。
スペインで、1ヶ月の短期滞在の時に屋上の小屋を借りて住んでいたことがあるが、毎日ウキウキだった。
それを思い出すのだ。

年をとって、子供もいなくなって「さてマンションにでも引っ越しましょうか」なんて話に万が一にもなったら、私は血眼になって、広いルーフバルコニー付きの物件を探すと思う。そんで小屋をたてて春と秋はそこに住むのだ。
実はすでに、スタジオ周辺のどのマンションにルーフバルコニーがあるか、だいたい把握している。
ビル上小屋付きの空きビルや、屋上小屋付きの空き家なども、把握している。

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好きなもの。

そんな好きなものたちを、毎日自転車に乗りながら観察することが、好き。