建長寺
厳しい入山試験を経験する二人。その中で再びあの狂気の叫びをあげる千代能。だが二人は修練の行く末を左右する「時間」という存在に直面する。千代能は自らの過去を乗り越えられるのだろうか?
宋という国は、すでになかった。蒙古から来た異なる民族に、もはや滅ぼされていたのだ。
戦に次ぐ戦であったと聞き及ぶ。その風雲乱れる間隙を突いて、禅という新しい教えが、必死にこの日本国に伝えられたのかも知れぬ。そう、千代能が道々語った。
建長寺の山門をくぐるのに、遮る者はいない。見渡すと、伽藍を守るように低い里山が新緑を連ねている。
掃き清められた参道を歩き、静けさの中で玉砂利が軋んだ。千代能の足音は軽く、顕日のは重く。
仏殿の手前を右手に折れてしばらく回廊を行くと、小さな門を再びくぐる。
僧堂らしき藁葺きの伽藍が正面に見え、その手前左には知客寮と書かれた建物があった。千代能がためらうことなくその玄関に足を入れる。
式台の一隅に腰を掛け、体をひねって一段高い床に両掌をそろえ、頭を下げて「頼みましょう」と、涼しい声をかけた。
顕日もその姿勢を習う。
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