出し抜けに、千代能が辺りの静けさを切り裂く大声を轟かせた。それは浪々とした解であった。千代能が抱く水桶の底が脱ければ水も溜まらず月も宿らじ。(大紀元)
水桶に月は宿らじ
月光菩薩になってしまう千代能。懸日にはもう、手が届かなくなってしまう。あの、指切りはどうなるのであろうか?
やってきた海蔵寺は、切り通しの奥まった所に、三方を山肌に守られるように囲まれた、清楚な寺である。小振りな山門の手前に、岩肌からわき出る清水を溜めた岩井戸があり、そこで喉を潤していると、谷風が山門へ二人の背を押した。
境内は涼しく、緩やかな丘を模したようなふくらみが、玉砂利の道の両側にあり、それぞれ桜と松が枝を広げ、その奥に見え隠れする質素な僧堂があった。
檀家の集まりが終わるのは夜半になるらしい。薪を割ったりお膳を並べたりしてしまうと、力仕事は終わり、顕日は暇になった。
いつの間にか風向きが変わって、山奥からの吹き下ろしになっている。しばらくして寄り合いが始まったが、無学老師が遅れて着き、千代能は檀家への接待でまだ忙しく働いている。
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