胃生検の小部屋 Cottage for Gastric Biopsy

胃生検からはじまる消化管病理の美しい世界

colon GVHD, crypt dropout 陰窩のドロップアウト

2023-08-06 | 大腸炎症
”ドロップアウト”とは何か嫌な響きですね(見出し写真クリック!)。
写真の右端の除いて、陰窩上皮が脱落し、粘膜固有層(間質成分)だけになっています。

大腸GVHDの組織学的評価にLerner Systemというのがよく用いられてきました。
Grade I: crypt apoptosis without crypt dropout
Grade II: single crypt dropout
Grade III: contiguous crypt dropout
Grade IV: diffuse crypt dropout with ulceration

最近の論文では同じグループからの論文で
1) Mod Pathol. 2022 Sep;35(9):1254-1261. doi: 10.1038/s41379-022-01065-z. Epub 2022 Apr 1.
PMID: 35365769
2) Mod Pathol. 2018 Oct;31(10):1619-1626. doi: 10.1038/s41379-018-0078-7. Epub 2018 Jun 13.
PMID: 29899549
が参考になるでしょう。

見出し写真は上記文献2)のFig. 2Dに類似しており、”Diffuse crypt dropout with ulceration (grade 4)”に相当するようですが、私の眼ではulcerationではなく、陰窩が抜けたあとのlamina propria mucosaeだと思うのですが。

遺残する陰窩にはアポトーシスがいっぱい(写真クリック)



見出しとは別の切片です。


街路樹のドロップアウト(琵琶湖の近く)(写真クリック!)

Contiguous and focal dropout of roadside trees with ulceration due to herbicide ( in Kusatsu City, Shiga ).
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Volcano shaped, pseudomembranous colitis, 偽膜性腸炎と噴火様所見

2023-05-28 | 大腸炎症
 大腸粘膜の表層部から炎症性滲出物があたかも火山の噴火のようにみえる組織像です(写真クリック!)。Volcano shapedとかvolcano likeとか言われています。特異的とまでは言えませんが、clostridium difficileによる偽膜性腸炎の教科書的写真として知られています。このような美しい噴火像を久しぶりにみつけました。
 Clostridium difficile腸炎の場合、菌のもつtoxinが毛細血管と大腸上皮の両方を傷害し、蛋白が噴出すると説明されています。

*読者からのご指摘:最近Clostridium difficileとは言わなくなったようで,クロストリジオイデス・ディフィシル Clostridioides difficileと名前が変更になった様です。


木曽の御嶽山です。

富士山と製紙工場です。
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irAE colitis, lymphocytic colitis, microscopic colitis, IEL

2020-11-30 | 大腸炎症
 免疫チェックポイント阻害薬によるirAE( immune-related adverse events)腸炎と考えられた大腸生検組織です(写真クリック!)。
"Histolopathologic features of colitis due to immunotherapy with anti-PD-1 antibodies"というタイトルの論文(Greg先生チームによるAJSP, 2017)を読むと、irAE腸炎は
1) Active colitis with apoptosis
2) Lymphocytic colitis
に二大別されています。
 1)はIBD(特にUC)に類似した組織像を示しますが、微妙に異なる点がいくつか指摘されています(ここでは省略)。
 本例は2)相当です。陰窩の歪みや腺管密度低下はありませんが、粘膜固有層全層性に中等度のリンパ球・形質細胞浸潤がみられ好酸球・好中球が混じます。表層部上皮内リンパ球(IEL)が増多しています。うっすらとcollagen bandらしきものも形成されつつあります。

免疫染色を追加しますと(クリック!)、上皮内リンパ球はもっぱらCD8+Tリンパ球で、上皮細胞100個あたり20個は軽く越えています。
 Microscopic colitisの組織像については、海外自主研修の学生がいつもお世話になっているグラーツ(墺太利)の先生方による"Histology of microscopic colitis"というタイトルのレビュー(Histopathology, 2015)がわかりやすいです。
 
This is a colon biopsy tissue considered to be IrAE (immune-related adverse events) colitis (click the photo!), due to an immune checkpoint inhibitor
According to "Histolopathologic features of colitis due to immunotherapy with anti-PD-1 antibodies" (AJSP, 2017 by Dr. Greg's team), irAE colitis is categorized into
1) Active colitis with apoptosis
2) Lymphocytic colitis
1) shows histopathological findings similar to those of IBD (especially UC), but some subtle differences have been pointed out.
This example is equivalent to 2). There is neither distortion of the crypts nor decrease in duct density, but moderate lympho-plasmocytic infiltration is observed in the lamina propria, and eosinophils/neutrophils are mixed. Intraepithelial lymphocytes (IELs) are increasing, positive for CD8. Mild thickening of collagen band is also seen.
Regarding the histopathological image of microscopic colitis, I recommend a review article (Histopathology, 2015) entitled "Histology of microscopic colitis" by a team of Graz , who kindly takes care of our medical students every summer.

大阪モノレール沢良宜駅
Osaka Monorail, Sawaragi Station
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collagenous colitis

2016-06-29 | 大腸炎症
2008年10月以来のcollagenous colitisの投稿です.
2008年当時はcollagenous colitisがブームになっていました.
その後,炎症をあまり扱わないところで働いていましたが,今の施設ではちょくちょく経験します.

その時のコピペ(一部改変)です.

いきなり、collagen bandに目を奪われることなく、バンドを見る前に、まずは慢性の「腸炎」であることを認識しましょう。
1) IBD (UC)ほどではありませんが、形質細胞浸潤が深部まで認められます。消化管粘膜では形質細胞は生理的には固有層上部にみられるのです。
2) 表層被蓋上皮が変性し、剥がれそうです。
3) 好酸球もそこそこ認められます。
4) さてcollagen bandですが、「collagen bandが肥厚する」と表現される方が多いのですが、この表現では「基底膜が肥厚する」ものだと誤解されてしまいます。肥厚するのではなく「collagen bandが形成される」のです。collagenous gastritisではしばしば、被蓋上皮直下ではなく、少し下の腺頚部あたりにバンドができることがあります。バンドの中には毛細血管がトラップされています。
2,4)の所見で、水分が吸収されず難治性下痢になるというイメージに結びつきます。
5) IBDではありませんから、陰窩上皮の直線性は保たれています。

最新知見こちらへ:胃と腸51巻4号 pp.450-462(2016年4月)


桃太郎が全速力で近所の駅を通過します.
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IBD, crypt-associated granuloma, crypt abscess

2015-10-16 | 大腸炎症
 IBDの大腸生検です.まだ治療が始まっていなかった初期の頃の組織像です.写真の真ん中くらいに陰窩膿瘍と類上皮細胞肉芽腫が認められます(クリック!).少しだけ病理を勉強したひとなら
・陰窩膿瘍→Ulcerative colitis
・類上皮細胞肉芽腫→Crohn病
が結びついてしまいます.実臨床でもこのキーワードが一人歩きしてしまうことがあります.
 
 陰窩膿瘍はあくまで活動性の指標です(UCに特異的なものではありません.色んな腸炎で出現します).肉芽腫も存在様式に注意したいです.最近の医師国家試験でもUCで陰窩膿瘍を答えさせる出題がありましたが,あまり感心しません.
 
 この肉芽腫は業界用語でいう'crypt-associated granuloma'です.Crypt-associated granulomaは文献的にCrohn病よりもUCで出現する頻度が高いと報告されています.

 本例はCrohn病と確定されています.
 無心にHE切片をみると,陰窩上皮の捻れ・歪みと異常分岐がみられ,慢性活動性炎症を伴いますが,炎症細胞浸潤に濃淡があり(不連続炎症パターン),炎症が強いわりには粘液産生が保たれており(mucous preservation),Crohn的な組織像といえます.
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IBD, 若年者と高齢者

2012-06-18 | 大腸炎症
 IBDの研究会が日本経済の中枢でありました。いつものように大盛況で,大変勉強になる症例が呈示されていました。IBD病理の師匠からも色々教えていただきました。
 IBDに関連して発生する,bronchial fistula, Budd-Chiari syndrome, fulminant colitis, post-colectomy enteritisなど,色々な難しい病態について学びました。また,若年者IBDの企画があり,neonatal, infantileからIBDあるいはIBDに酷似した病態があることを知りました。次回の特別企画はこれと対照的に高齢者のIBDだそうです。
 写真はIBDを示唆する大腸生検です(favor CD)。陰窩は歪んだり,拡張したりしています(形だけみるとSSAPみたいです)。慢性炎症細胞浸潤は不連続的で,mucous preservationの状態です。
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腸管気腫性嚢胞症、pneumatosis cystoides intestinalis

2011-01-30 | 大腸炎症
腸管気腫性嚢胞症(嚢腫様気腫症)の生検像です。pneumatosis cystoides intestinalisには膠原病や呼吸器疾患を有するsecondaryなものと、有さないprimaryなものがあり、発生機序としてはmechanical theoryとbacterial theoryが唱えられています。粘膜~粘膜下にガスが貯留した場合、生検すると平坦化したりします。病理専門医の過去問にもあるようです。
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Intestinal spirochetosis

2009-02-17 | 大腸炎症
 Intestinal spirochetosisも「稀な疾患」ではなくなってきましたね。あるクリニックの大腸生検では10日で3例もありました。見逃していることも多いと思いますが、比較的若い方で下痢と書かれていたので、いつもよりじっくり見たためかもしれません。
 10年以上前、大腸生検の診断で独逸流アルゴリズムを叩き込まれ、その中で
・付着物質をみる(アメーバなどを見落とさない)
・spirochetosisを見落とさない。(アメーバとの組み合わせ、というのもよくあります)
・上皮内リンパ球をみる(lymphocytic colitisやsprueに注意:これは日本にあまりなさそうですね。)
・被蓋上皮の変性所見は?
・上皮下のcollagen bandは?
・・・・・・
という所見をいつも気にして、順序だてて見るようにと若い先生方にも教えているので、私の周りにはぎょうさんあります。
 病原性、治療法などは議論のあるところです。
 最近はT. pallidumの抗体(UKのメーカーから出ている)と交叉反応を起こして、きれいな免疫染色ができることが報告されていますが、濃い目のヘマトキシリンで十分わかると思います。
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collagenous colitis (バンドに目を奪われないで)

2008-10-02 | 大腸炎症
 もう一枚collagenous colitisの写真をアップします。先ほどと同じ方の違う部位です。所見はだいたい一緒です。研究会仲間の先生のクリニックから海を越えてやってきた標本です。内視鏡的には異常がなかったそうです。このクリニックではちょっと前にもcollagenous colitisがありました。収集例が22例になったのですが、どうやってアプローチしようか思案中です。
 8月号の病理と臨床を是非ご覧下さい。先の話になりますが、2009年12月にIとCho誌でcollagenous colitisの特集号が組まれる予定になっているそうですよ。
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collagenous colitis (バンドにとらわれないで)

2008-10-02 | 大腸炎症
 またもcollagenous colitisがありました。もはや稀な腸疾患ではありません。胃薬を飲んで下痢をされている方です。collagenous colitisの病理診断基準について最近よく質問されますので、私なりのポイントを提示します。写真をクリックしてください。いきなり、collagen bandに目を奪われることなく、バンドを見る前に、まずは慢性の「腸炎」であることを認識しましょう。
1) IBD (UC)ほどではありませんが、形質細胞浸潤が目立ち、深部(陰窩底部と筋板の間)まで認められます。消化管粘膜で、形質細胞は生理的には固有層上部にあります。
2) 表層被蓋上皮が変性し、剥がれそうです。
3) 好酸球もそこそこ認められます。
4) さてcollagen bandですが、「collagen bandが肥厚する」と表現される方が多いのですが、この表現では「基底膜が肥厚する」ものだと誤解されてしまいます。肥厚するのではなく「collagen bandが形成される」のです。collagenous gastritisではしばしば、被蓋上皮直下ではなく、少し下の腺頚部あたりにバンドができることがあります。バンドの中には毛細血管がトラップされています。
2,4)の所見で、水分が吸収されず難治性下痢になるというイメージに結びつきます。
5) IBDではありませんから、陰窩上皮の直線性は保たれています。
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