<全国人民代表大会(全人代)は共産党の方針を追認するだけの「ゴム印会議」か>
<「法律は中国共産党の統治の道具になっているのが実態だ」>
<香港国家安全法法案全文の発表は成立から半日経過した30日深夜か>
<香港国家安全法の成立翌日は7月1日の香港返還記念日だった。習指導部は民主派が大規模デモを起こすのを防ぐために法案審議を急いだとの見方が多い。>
2020/7/10 5:00
中国、例外だらけの「法治」 統制正当化の道具に
中国で香港への統制を強める「香港国家安全維持法」が成立した。法案の審議入りから12日という異例のスピード採決だった。共産党の一党体制で法整備のルールには抜け穴となる例外規定が多い。習近平(シー・ジンピン)指導部は社会統制を正当化する道具として「法治」を使う。
中国の立法は全国人民代表大会(全人代)が担う。
地方政府や軍など党が指導する各組織が選んだ約3000人の代表で構成する。
普通選挙で代表を選ぶ西側諸国の議会とは異質の機関である。
かねて党の方針を追認するだけの「ゴム印会議」と揶揄(やゆ)されてきた。
毎年1回、通常は3月に北京で約2週間開会し、政府活動報告や法案などを審議する。それ以外の期間は百数十人の全人代常務委員による会議を2カ月に1回のペースで開く。
権威主義体制の中国にも立法ルールはある。
立法法29条は「3回の会議で審議した後に採決しなければならない」と明記する。まず提案者の説明を聞き、2回目で法案修正を確認し、3回目で最終審議を経て採決するのが原則となる。通常は法案審議に少なくとも半年かかる。
同法37条は法案は常務委員会後に公表して30日以上のパブリックコメント(意見募集)期間を置くと定める。
法案提出の段階で公表する民主主義国の水準には遠いものの、一定の予見可能性を与える仕組みではある。年度ごとの立法計画を立てて意見公募するとの規定もある。
立法法を制定したのは世界貿易機関(WTO)への加盟を翌年に控える2000年だった。中国現代政治が専門の慶応大・加茂具樹教授は「改革開放によって経済活動に関する法整備を進める必要が高まり立法のルールを定めることになった」と解説する。
問題はこうした法規定が抜け穴だらけであることだ。
3回審議の原則は30条に「例外規定」があり、常務委の意見の隔たりが大きくない法案は1~2度の会議で可決できると定める。意見公募に関するルールは全人代委員長らの判断で実施しないことも可能とのただし書きが37条にある。
香港国家安全法は全人代常務委の2回の会議で成立した。
法案審議の段階では意見公募はおろか条文の公表もなかった。法案全文の発表は成立から半日経過した30日深夜だった。年度立法計画にも掲載しておらず、法案審議は唐突に始まった。
香港国家安全法の成立翌日は7月1日の香港返還記念日だった。習指導部は民主派が大規模デモを起こすのを防ぐために法案審議を急いだとの見方が多い。
11月の米大統領選で民主党が勝利すればトランプ政権よりも香港への関与が強まる可能性を考慮したとの分析もある。
早期成立を目指す理由は多く、立法法にはそれを可能にする例外規定が備わっていた。
中国は党に都合の良い法整備を立法法というルールに沿って進めることができ、習指導部はそれを「法治」と呼ぶ。加茂氏は「法律は中国共産党の統治の道具になっているのが実態だ」と指摘する。