世界標準技術開発フォローアップ市場展開

ガラパゴス化から飛躍:小電力無線IEEE802規格開発会議・・・への寄与活動拡充

原油と天然ガス:禁輸に伴う代替可能性と異なる深刻度2022/04/21 原田 大輔

2022-05-18 16:54:48 | 連絡

7. 原油と天然ガス:禁輸に伴う代替可能性と異なる深刻度
そもそも天然ガス価格は昨年秋から、ロシア要因だけではなく、欧州や南米における再生可能エネルギーの出力不足やアジア諸国の積極的なLNG購入による欧州へのLNG流入減少に伴う欧州の天然ガス在庫の低迷、天然ガス需給の引き締まり、石炭価格の高騰といった複合的な要因で高値を付けてきた。
北東アジアの指標JKMは2021年初にも30ドルを越え史上最高値を更新したばかりだったが、同年9月にはその2倍に近い56.3ドルを付けた。欧州でも同9月に34.4ドル、そして、年末にはJKMを越え、60.7ドル史上最高値を更新した。そこに発生したロシアのウクライナ侵攻とこれまで述べてきた禁輸措置によって、今年3月には一時JKMは84.8ドル、欧州ガス価格は72.3ドルという高価格を付け、現在は30ドル前後で推移している
現時点の価格がまるで安いように見えるが、2020年5月にはコロナ禍とはいえ欧州ガス価格最安値である1.2ドルを付けたことを考えると異常な価格であり、他エネルギー源に対して価格競争力のない天然ガスに対する人気を貶める危機的な価格帯が続いているのが現下の状況である。 
(1) 供給余力と柔軟な輸送方法のある原油、そうでない天然ガス
ロシア産エネルギーの禁輸という側面で見た場合、原油と天然ガスでは事情が全く異なるということにも留意が必要である。
それは1. 供給余力、2. 輸送インフラ、3. ロシアの生産地域の特徴という3つの違いに起因している。
1. 供給余力
原油はスイングプロデューサーとしての地位を有するサウジアラビアを筆頭に中東産油国を中心に、供給余力(スペアキャパシティ)が世界に日量300万バレル程あると言われている。ロシアの輸出量が同533万バレル(2021年)であることを考えれば、十分な量とは言えないが、OECD諸国の在庫や戦略石油備蓄(SPR)と併せ、市場にも本格的な供給途絶の際に一定の安心感を与えているのも事実である。
他方、天然ガスには現時点ではサウジアラビアのようなスイングプロデューサーが存在しない。供給側にスペアキャパシティと呼べるものはなく(ロシアだけが欧州に対してパイプライン供給余力を有するが、その欧州がロシア産ガス離れを加速しようとしている)、欧州の在庫は低迷しており、その他の消費国におけるガス貯蔵・在庫の整備も十分とは言えない。 
2. 輸送インフラ
天然ガスは輸送において気体でのパイプライン輸送(国と国を結ぶ国際パイプライン)か、液化しなければならない特殊な海上輸送という硬直的なインフラを使うことが特徴である。
常温常圧で大量輸送が可能である原油とは異なる。
ガス供給余力を有するロシアもそのガスを、パイプラインを有している場所にしか運べない。
液化するのには巨額の投資が必要であり、その長期間に及ぶコスト回収の必要性からマーケット(買い手)が付く見通し数量での設計生産(液化)容量とならざるを得ない。
供給余力=設計余裕という概念は経済性を棄損するため、そもそも存在しないのがLNGプロジェクトの特徴=欠陥と言えるだろう。
3. ロシアの生産地域の特徴
端的に言えば、ロシアは原油については東西がパイプラインで接続されている一方、天然ガスは東西がパイプラインで結ばれておらず
欧州向けの天然ガスは西シベリア・ガス田から、
中国向けの天然ガスは東シベリア・ガス田と、異なる生産地域から輸送されている
欧州の代替市場と考えられるのが成長著しい中国であるが、
まず天然ガスについては欧州向け西シベリア・ガス田と中国を結ぶパイプラインの建設(後述の「シベリアの力2」)が必要である。
現時点で露中が速やかに合意に至った場合2024年建設を開始し、2029年頃の完成という可能性があるものの、一朝一夕に欧州の失われた天然ガス市場を中国で代替することにはならない。
また、原油については、確かに東西は結ばれており、西シベリア産原油の輸出がアジア太平洋にも始まっているが、油種が異なるという点も指摘しなければならない。
欧州向けはウラルブレンドと呼ばれる比較的重い原油(API比重:29.8~30.4/硫黄分:1.5~1.7%)であり、アジア太平洋向けはESPOブレンドという軽質・低硫黄原油(API比重:35/硫黄分:0.5~0.6%)である(表3)。
但し、ESPOブレンドは既に西シベリア産原油を受け入れた実績があり、その際にはESPOブレンドの定義を緩和することでロシア政府が対応した実績がある。つまり、技術的には欧州が買わなくなった西シベリア原油を東シベリアへ輸送し、中国やアジア太平洋市場に販売することは可能と言えるだろう。
2) EU制裁第5パッケージがもたらす天然ガス・ショート(供給途絶
石炭禁輸が注目され、余り大きく報道されていないが、4月8日に発動されたEU制裁第5パッケージにはLNG関連6製品(液化技術を含む資機材)が含まれている。このLNG製品の対露禁輸措置は世界の天然ガス市場に大きな影響を及ぼす可能性がある。
欧米がパテントを有し、ロシアではまだ黎明期の天然ガス液化技術が制裁対象となれば、ロシア政府が目指す2035年に向けたLNG拡張計画が大きく狂うことは確実となる。それは将来の話だけでなく、ドイツLindeの技術を採用しているアルクチク(Arctic)LNG-2及びバルト海ウスチ・ルーガLNG(バルチックLNG)プロジェクトにも影響を及ぼす。
4月12日付けのコメルサント紙は「同制裁がロシアのLNG拡張計画の棺桶の蓋に最後の釘を打つことになる」と述べている。
年間約2,600万トンの拡張(上記両プロジェクト)の稼働時期が不透明となるためである。ロシアは2019年に中規模・大規模LNGプラントで使用する極低温熱交換器の100%、極低温ポンプの95%を輸入に依存していた。
政府の輸入代替プログラムの下では依存シェアは2024年までにそれぞれ80%と40%に減少する計画だった。
EUの制裁では2022年2月26日より前に締結された契約はこの5月27日までにWindfall(猶予)期間が設けられており、この対象がアルクチクLNG-2(1,980万トン/年)、ウスチ・ルーガLNG(1,300万トン/年)である。
同紙ではこれまで主要な機器は8割以上完成しているアルクチクLNG-2の第一トレインには供給された模様であると報じている。
欧州政府がなぜ今回、ドイツ企業が技術供与し、フランスTOTALを中心に中国及び日本も参画するプロジェクトに影響を与えるLNG製品禁輸措置を盛り込んだのかは現時点では不明である。
先立って、米国と共同で発表した3月25日の「欧州のエネルギー安全保障に関する共同声明」(6.(1)参照)で謳われたように、ロシア産天然ガス依存度を低減するための米国からの追加LNG供給に関する協議が何らかの影響を与えた可能性があるかもしれないが真相は分からない。
アルクチクLNG-2については全3トレインの内、第1トレインについて、欧州制裁を回避して全ての資機材調達が5月27日に完了し、2023年内の稼働開始が実現する可能性もある。
しかしながら、世界のLNG需要の今後の上昇と、現在計画されているLNGプロジェクトの供給見通しを見ると楽観はできない。
図9世界のLNG供給余力の見通し
出典:JOGMEC 
<下記URL

参照
の通り、今回のEU制裁によって、アルクチクLNG-2について、第一トレインのみが稼働するという前提では2025年から2026年にかけて、世界のLNG需給は逼迫することが見通され、第一トレインが稼働しなければショート(供給途絶)を起こすことが確実となっている。
現下のガス価格の高止まりも2025年に向かって供給が縮小することにより、継続していく可能性が見込まれる。


ロシアの誤算:欧州がロシア産エネルギー依存からの脱却へ舵を切り出した2022/04/21 原田 大輔

2022-05-18 16:42:19 | 連絡

6. ロシアの誤算:欧州がロシア産エネルギー依存からの脱却へ舵を切り出した
(1) EUの施策「REPowerEU」
(2) 石炭火力・原子力発電への回帰、代替エネルギーへの注目
ロシア産エネルギーからの脱却というベクトルは4.(2)で述べた代替供給源への秋風に加え、現実的な選択肢として代替エネルギーとしての在来型エネルギーへの回帰も促しつつある。
ドイツ発電最大手RWEは停止した発電所の再稼働や停止が決まっている発電所の運転延長の検討を開始することを明らかにしている。
同社クレッバー社長は石炭火力への回帰について「実施するかの判断は政府。数週間以内に決断を下すことになる。
その上でどの発電所が再稼働できるか、計画より長く使い続けられるかを検証し準備している」と述べている。
日本では、萩生田経済産業大臣が「LNGを含むロシアのエネルギー資源の輸入への依存を減らそうとしている。日本はLNGへの投資を含め、ロシア以外の代替供給源を確保しようとしている。
また、再生可能エネルギー源に取り組み、原子力エネルギーを開発し、その政策がロシアへのエネルギー依存を徐々に減らすというG7諸国の共同声明の要件に準拠するようにする予定である」と述べた。
これに続き、経済産業省は戦略物資やエネルギーの安定的な確保を検討する会合を初めて開き、緊急対策を決定した。
ロシアやウクライナへの依存度が高く、早急に対策を講じる必要がある重要物資として石油、石炭、LNG、パラジウム、半導体製造プロセス用ガス、合金鉄を特定。他の生産国に対する増産の働き掛けや、権益の確保に向けた取り組みを強化することを表明した。
4月8日には、ジョンソン英首相とショルツ独首相がロンドンで会談し、ウクライナに侵攻したロシアへのエネルギー依存から脱却するため、再生可能エネルギーの推進などで協力することで合意している。
ショルツ首相は会談後の共同記者会見で、ドイツが年内にロシアからの石油輸入を停止できるとの見解を示し、「ロシア産石油への依存からの脱却に向けて積極的に活動しており、年内に実現可能だと考えている」と改めて表明している。




 ロシア産原油の産地偽装問題2022/04/21 原田 大輔

2022-05-18 16:36:36 | 連絡
(3) ロシア産原油の産地偽装問題
3.ではロシア産原油を輸送するタンカーは、第三者に船舶の位置情報が分かるトランスポンダー(船舶自動識別装置)をオフにし、ロシア産原油輸送を隠す石油タンカーも増加していることに触れた。実際、制裁措置が海運及び関連産業に向けられることによって、貿易制裁に違反して取引される貨物は増加傾向にあると言われている(繰り返しになるが、現時点でロシア産石油禁輸は一次制裁であり、対象は制裁を発動している米英加豪の各自然人のみである)。
イランやベネズエラ制裁の発動後もこれら国々産の原油が制裁を回避して、輸出されていることが明らかになっている。制裁回避に利用される手法には船舶、貨物、地理的位置や航行活動を特定する情報を混乱させたり、隠蔽したりすることで、監視や摘発から逃れようとするものである。それらは次の4つの方法と言われている。
  1. 船舶の位置を偽装し、船舶のデジタル識別情報を変更するために、船舶の自動船舶識別装置(AIS)を操作する。
  2. 実際の船舶の外観を変更する。
  3. 船舶や貨物に関する書類を改ざんする。
  4. 貨物が制裁対象国原産であることを隠蔽するために、船から船への積み替え(STS)を何度も行う。
また、船舶の安全と危機管理のためにAISを停止することは依然として合法であり、その船長に判断が委ねられている。
ロシア産原油についても、その産地を偽装するべく、次のような方法が行われているとの指摘が為されている。例えば、取引の基本条件を「売り手が販売する商品がロシア産ではなく、ロシアで積み込まれたりロシア連邦から輸送されたりしたものではないこと」とした上で、ロシア産の定義を「ロシア連邦で生産された場合、あるいは体積の50%以上がロシアで生産された材料で構成されている場合」と変更していると言う。つまり、荷となる原油の49.99%がロシア産であったとしても50.01%が他の国や地域から産出されたものであれば、ロシア産ではないという扱いになる。これは、石油トレーダーの間では「ラトビア・ブレンド」と呼ばれているもので、具体的にはバルト海プリモルスク港からラトビアのベンツピルス港へ原油を輸送し、そこでブレンドを行っていると噂されている。
ブレンド作業はラトビアやオランダ、公海上で瀬取り・洋上積替えを行い、安く仕入れたロシア産原油と他原油をブレンドすることで産地を偽装するというものである


ウクライナ情勢:ウクライナ侵攻と制裁によって変わるロシア産石油天然ガスフロー2022/04/21 原田 大輔

2022-05-18 15:25:34 | 連絡
〇概要

  • しかし、4月に入り、3月のロシア産原油輸出量の結果は減少想定を裏切るものだった。下旬から急速に買いが入った結果、月間全体では2月より3.5%増加したと考えられている。増加は西欧に向かう5%増加に支えられており、ウクライナ侵攻による敬遠や欧米諸国の禁輸とは真逆の様相を呈している。
  • ウクライナ侵攻から3月下旬まで市場で買い控えられてきたロシア原油が、3月下旬から盛り返してきた最も大きな理由はロシア石油会社による大幅な値下げにあると考えられる
  • 欧州市場の原油指標価格である北海ブレント原油に歴史的にリンクしてきたロシア産ウラル原油(ウラルブレンド)は、ロシアによるウクライナ侵攻を起点に、ブレント価格と乖離を始め、その差は日を追うごとに拡大し、現在40ドルまで広がっている。
  • 世界の需要者が100ドルを超える高油価に苦しむ中、ディスカウントされたロシア産原油を調達する一部のバイヤーに濡れ手で粟の状況が生まれている。

  • インド向けウラル原油の輸出は3月に急速に伸びている(原油約600万バレルが5回に分けて出荷)。東方向けの原油価格指標であるESPOブレンドもドバイ原油に対して20ドル程度ディスカウントされており、今後太平洋市場でもバイヤーが調達に向かう可能性もある。
  • SinopecやPetroChinaはロシアからの追加のLNG購入を慎重に検討しており、スポット取引で大幅に値引きされた水準での購入に向け供給側と協議している模様。

  • ロシア産エネルギーの禁輸という側面で見た場合、原油と天然ガスでは事情が全く異なるということにも留意が必要である。それは(1)供給余力、(2)輸送インフラ、(3)ロシアの生産地域の特徴という3つの違いに起因している。特に生産地域の特徴として、ロシアは原油については東西がパイプラインで接続されている一方、天然ガスは東西がパイプラインで結ばれておらず、欧州向けの天然ガスは西シベリア・ガス田から、中国向けの天然ガスは東シベリア・ガス田と異なる生産地域から輸送されている。欧州市場代替を中国に見出すには、ロシアにとって東西シベリアを結ぶパイプラインの建設が喫緊の課題となる。
  • 東方シフトをさらに加速するロシアはその帰結として「シベリアの力2」建設等に向けて動き出そうとしている。プーチン大統領は政府に対し6月1日までに新規原油パイプライン及び天然ガスパイプラインの建設計画提出を指示している。
  • 問題はこれらプロジェクトに多大な建設コストがかかることはもちろんのこと、供給源多様化に成功している中国が「シベリアの力」同様に新規ガス供給を買い叩く可能性、そして、最大の問題は中国にそれだけの市場があるのかどうかということである。
  • 現在の欧州の年間需要である155BCM(パイプライン+LNG)を今後天然ガス需要増加が見込まれる中国及びインドについて、既存分はそのままに、追加需要分を対象として検討すると、欧州制裁によってLNG輸送が前提となるインドは除外されることになる。それでもインドのLNG輸入見込みは全量で43BCM(2030年)に過ぎない。パイプラインで輸出できる中国は2030年時点で外国から輸入するパイプラインガス契約(35BCM)を全て確保したとしても、現在の欧州への輸出量の23%程度にしかならない
  • ー略ー
3. ロシア産原油・天然ガスを敬遠する動き
-略ー
しかし、4月に入り、3月のロシア産原油輸出量の結果は想定を裏切るものだった。下旬から急速に買いが入った結果、月間全体では2月より3.5%増加したと考えられている。
増加は西欧に向かう5%増加に支えられており、ウクライナ侵攻による敬遠や欧米諸国の禁輸とは真逆の様相を呈していることが判明した。
特にバルト海経由の海上輸出は平均9%増加(日量137万バレル)で、黒海は8%増(同43.8万バレル)、ドルージュバパイプライン経由は2.3%減少(日量80.8万バレル。
ポーランドとスロヴァキア向けがそれぞれ22.2%、17.6%減少。
中国向けは平均1%増加した(コジミノ港が4.6%増加、大慶支線は1%増加したが、カザフ経由が11%減少)という結果だった。 
ー略ー
ウクライナ侵攻から3月24日までは各港の輸出量に減少が見られるが、その後は戻り始めている傾向を見ることができる(赤矢印)。
下記図3 ロシア産原油の海上輸送の推移(港別) 
URL
参照

Rystad Energyはこの動きについて、3月にロシア産原油輸出は重大な問題に直面するという一般的な見方にもかかわらず、実際の積載データは、最初の3週間には当てはまったが、その後、中国とインドからの注文が増えたことに支えられ、3月24日より後に積載量が回復(第三者に船舶の位置情報が分かるトランスポンダーをオフにし、ロシア産原油輸送を隠す石油タンカーも増加)したと分析している。
他方、ロシア産原油を敬遠する動きは依然強まっており、4月に原油輸出は日量100万バレル減少し、年末まで150万バレル減少すると予測している。また、原油生産量は4月に日量140万バレル減少し、5月以降、200万バレルに達する可能性があると指摘している。下旬の増加は5.で後述するロシア石油会社による値引きが功を奏した動きであるが、3月初旬の制裁発動を受けた買い控えの影響が顕在化する4月以降の見通しでは、輸出量が大きく抑制される可能性が高いと考えられている。
インド向けウラル原油の輸出は3月に急速に伸びたことも様々な意味で象徴的である。原油約600万バレルが5回に分けて出荷されたとされているが、インドの年間輸入量が日量410万バレルであり、その内、ロシア産は同10万バレル程度であることを考えると、3月だけで年間の2倍に当たる日量19万バレルものロシア産原油を買い増したということになる。
IEAも4月13日にロシア産原油について、制裁と購入見送りの影響が本格化するのは5月以降との見方を示している。4月のロシア産原油の供給減少は平均で日量150万バレル(通常の輸出量の32%減少)と想定しており、5月以降は消費国主導の自主的なロシア産原油禁輸の影響が本格化し、日量300万バレル(同64%)近くの供給が減る可能性があるとしている。
但し、中国の新型コロナウイルス流行に伴う需要減少、OPECプラスによる増産、米国等IEA加盟国の戦略石油備蓄放出により、原油市場が急激に供給不足に陥ることはないとの見通しも示している。
4. 始まりつつあるロシア産エネルギーシェアの争奪戦
ロシア産原油がレピュテーション・リスク及び制裁回避策によって敬遠される中、ロシア石油会社は値引き攻勢で対応しており、現下の高油価もその値引きの余地を提供している模様だ。他方、現下の状況は、実は他産油国にとっては、世界供給で12%余りを占めるロシア産原油の牙城を切り崩し、供給途絶を阻止する世界協調という大義の下、高油価の恩恵を享受できる絶好のタイミングでもある。 
(1) 高油価下、世界協調の名の下に市場シェア拡大を目指すか否か
-略ー
(2) ポテンシャルのある代替供給先への秋風
日本からはメガバンク三行(みずほ銀行、三井住友銀行及び三菱UFJ銀行)が米欧の金融大手と組み、クウェート石油公社に10億ドル規模を融資する方向で調整に入ったことが報じられている。
 また、バイデン米政権はロシア産原油の代替調達先として、2019年に制裁を科したベネズエラからの原油輸入再開を模索している模様である。
5. ロシア産原油敬遠に対するロシアの苦肉の策:大幅な値下げ
(1) 広がるブレント原油とウラル原油の価格差
(2) 安価なエネルギー購入を模索・優先するインド
-略ー
また、中国政府もウクライナ情勢が緊迫する中で、国際協調の和を乱さないよう国営企業等へロシアとの協業や新規出資をサスペンドするよう通達が出されているという噂もある。現時点ではインドのようにディスカウントされたロシア産原油購入の動きは余り見られないが、東方向けの原油価格指標であるESPOブレンドもドバイ原油に対して20ドル程度ディスカウントされており、山東省等に位置する地方製油所が一部調達に動いている模様である。また、SinopecやPetroChinaはロシアからの追加のLNG購入を慎重に検討しており、スポット取引で大幅に値引きされた水準での購入に向け供給側と協議しているとの報道もある。





中国にとって本当は迷惑な「ロシアのウクライナ侵攻」4月1日神保謙

2022-05-18 14:09:57 | 連絡
By - NEWS ONLINE 編集部 公開:2022-04-01 更新:2022-04-01
国際政治学者・慶應義塾大学教授の神保謙氏が4月1日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。4月1日に行われるEUと中国の首脳会談について解説した。
〇中国とEUがオンラインで首脳会談を開催へ 
中国政府は欧州連合(EU)との首脳会談を4月1日にオンライン形式で行うと発表した。会談ではウクライナ情勢についても意見が交わされると見られている。
飯田)中国外務省の汪文斌(おう・ぶんひん)報道官が、3月30日の記者会見で明らかにしました。EUと中国の間合いはウクライナを挟むと、利害が対立することもあるのですか?
神保)中国はいま外交を活発化させていて、インドとも会談を行いましたが、3月30日にはロシアのラブロフ外相が中国を訪問し、外相会議を行いました。今回はEUとの首脳会議ということなので、外交的な調整と事態の打開に向けて、各方面に動いているということだと思います。
〇世界に支持を広げなくてはならない中国 ~ロシアを全面的に支持することはできない
神保)中国にとって重要なのは、ロシアとの立ち位置をどうするかということです。
パートナーシップ関係は依然として重要だとされているのですが、ロシアがウクライナ戦争で完全に敗北することも阻止したいし、結果として北大西洋条約機構(NATO)の影響力が拡大するということも、よくないと思っているのではないでしょうか。
飯田)NATOの影響力が大きくなることも。



神保)とはいえ、中国はグローバルなパワーとして、「一帯一路」などで世界に支持を広げなければいけないという立場です。ロシアを全面的に支持することはできないですし、侵略は中国にとっても大迷惑なわけです。
飯田)「何をしてくれているのか?」という感じですね。
〇納得のいく形で停戦するために中国が果たせる役割があるかも知れない ~そのためにはEU諸国と調整して進めることが大事
神保)ですので、完全に支持はできないという事情を汲み取ることが大事なポイントです。中露が完全に一致していると捉えると、中国が持っている潜在的な役割を見逃しかねません。EUやインドに働きかけたということは、そういう目線で見ることが大事です。
飯田)EUやインドに働きかけたということは。
神保)中国にとって打開可能であるとするならば、現在行われている停戦協議や、ロシアが模索している落としどころについて、中国なりのサポートができるかどうかだと思います
飯田)中国が
神保)中国がロシアから石油やガスなどのエネルギーを買い取ることによって、経済制裁を骨抜きにすると捉えられるかも知れませんし、逆にロシアがこれほど侵略行為をしているのに、免罪符を与えているとも捉えられかねない。ですから、中国の動きは要注意なのですが、納得のいく形で停戦するために、中国が果たせる役割があるのではないかと思うのです。
だとすれば事前にEU諸国と調整して、中国がしようとしていることを、了解のもとに進めていくことが大事だと思います。
〇中国に「簡単に武力による現状変更はできない」という教訓を学んでもらわなくてはならない
飯田)ロシアがウクライナに対して行っている、既存の国際秩序のルールを破壊しようとする動きですが、それを中国もやろうとしているのではないかと見る人もいます。そこまで中国は思い切るものですか?
神保)これは分けて考える必要があると思います。
中国は、領土の一体性や国際機構の役割を注視して世界秩序を見たいと思っています。
逆に言うと、アメリカの一方的な力の拡大を、そのような視点から牽制したいということです。
そう考えると、ロシアの侵略はやはり相容れない行為と捉えられるのだと思います。
飯田)ロシアの侵略は。

神保)他方で、中国が自ら国内問題と位置付けている「台湾に対する武力統一」について、選択肢から排除していないという問題があります。
ウクライナ情勢と対比して考えると、もしロシアがウクライナを電撃作戦でコストなく制圧できてしまったとすれば、中国にとっては「台湾にも同じことができるかも知れない」という教訓になりかねなかったわけです。
飯田)早期に制圧できてしまっていたら。
神保)逆に言うと、ウクライナが抵抗しているので、「簡単に武力による現状変更はできないのだな」という教訓を、中国に学んでもらわなければいけません。いまはそういうフェーズにあると思います。
〇日本にとっても遠い国の出来事ではない





飯田)その全体構造を考えると、我々日本にとって、ウクライナ侵攻は遠い国の出来事ではないということですね。
神保)そうですね。力による現状変更がどういう結果をもたらすのかを示すためには、ロシアの今回の侵略が完全に戦略的失敗だったという結論をつくらなければいけません。
仮に停戦が成立したとしても、ロシアが「最終的に失敗だった」という形に持っていかなければ、「この程度の経済的損失で現状変更できるのだ」と思われてしまうわけです。だから、それは貫徹しなければなりません。
飯田)最後まで。

神保)あとはやはりアメリカと同盟国が、今回のような問題に対する抑止体制と、何かがあったときに介入できる体制をつくることが必要です。
中国にそこを過小評価させないことが重要です。
飯田)そのための抑止の枠組みづくりとして、今回、国連が機能しなかったのではないかという問題がありました。
核を持っている常任理事国に対して、何もできないということになってしまうのですが、この辺りの改革にも、日本はコミットしていくべきですか?
神保)大事なポイントだと思います。
アメリカが介入したら第三次世界大戦になる、ロシアが核を使うなどと言われているのですが、エスカレーションしていきなり核の使用まで行くというよりは、それまでにいろいろな階段があるわけです。
その階段を全否定するような介入論は、抑止を危うくすると思います。しっかりと守るべき価値に対して、コミットする姿勢を継続することが大事だと思います。