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牧野 愛博
朝日新聞外交専門記者。
広島大学客員教授。
1965年生まれ。
大阪商船三井船舶(現商船三井)を経て91年、朝日新聞入社。
瀬戸通信局長、政治部員、全米民主主義基金(NED)客員研究員、ソウル支局長、編集委員(朝鮮半島、米朝・日米関係担当)などを経て、21年4月から現職。
著書に『絶望の韓国』(文春新書)、『金正恩の核が北朝鮮を滅ぼす日』(講談社+α新書)、『ルポ金正恩とトランプ』(朝日新聞出版)、『ルポ「断絶」の日韓』(朝日新書)など。
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米国防総省のパット・ライダー報道官は2日の記者会見で、ロシアに派遣された約1万1千人の北朝鮮兵士
について、最前線での戦闘に参加している事実を確認できないとする一方、ある時点から戦闘作戦に参加する可能性が非常に高いとの見方を示した。
韓国政府は、北朝鮮兵士が戦闘に参加すれば多数の死傷者を出すと予測。
金龍顕国防相(当時)は11月28日の国会国防委員会での答弁で、「北朝鮮兵はロシア軍の弾除け」との見方を示した。
SNSなどで公開された映像からは、北朝鮮兵士は10代後半あるいは20代前半のようにも見える。
また、韓国の情報機関・国家情報院は、派遣された北朝鮮兵士は、北朝鮮特殊作戦軍を構成する「暴風軍団」と呼ばれる第11軍団だとした。
韓国国防白書によれば北朝鮮軍の兵力は128万人だが、40~60万人程度は農作業や建設支援などに駆り出される「労働兵」とされる。
ロシアに派遣された北朝鮮兵士は、労働兵ではなく、軍事訓練も受けている戦闘能力を持った部隊だという。
では、死地に赴くも同然の状態に置かれた北朝鮮兵士は、具体的にどのような人々から選ばれたのか。
脱北した元北朝鮮軍兵士や専門家らの証言を総合すると、3つの顔が浮かび上がる。
それは、「忠誠心があり」、「貧しく」、「純粋な」人々という特性だ。
2012年8月、南北軍事境界線を越えて脱北した元北朝鮮軍兵士で、今は韓国の映画俳優として活躍しているチョン・ハヌル氏は1994年11月、日本海側の咸鏡南道咸興で生まれた。
高級中学校(高校)を卒業した2011年春、軍に入隊した。
本当は地域の体育団や体育系大学に進学したかったが、家庭が貧しかったので諦めた。
当時、男子の同級生は35人ぐらいいたが、25人ほどが軍隊に入り、残りが就職するか大学に進学した。
チョン氏は最前線の非武装地帯勤務を命じられた。
チョン氏は「党や政府の幹部の子弟は、軍隊に入らない」とも語る。
チョン氏の両親は朝鮮労働党員だったため、忠誠心があると判断されて最前線に送り込まれたようだ。
北朝鮮を何度も訪れた専門家によれば、北朝鮮軍兵士はエリートの子弟を除く人々のなかから選ばれる。
両親は子供が厳しい任務に就くことを心配し、軍の採用担当者らに賄賂を贈り、「最前線」や「食料供給が厳しい山間地」などの勤務から外してもらうよう工作する。
富裕層の子どもであれば、徴兵自体を逃れることも可能になる。
一方、北朝鮮当局も、忠誠心に疑いがある家庭の子どもは基本的に「労働兵」として扱い、兵器などを扱わせないようにする。
北朝鮮には独特の身分制度「出身成分」がある。
北朝鮮政治を研究してきた韓国統一研究院の崔鎮旭・元院長によれば、
①2割が体制を支持する核心層、
➁3割が忠誠心の比較的薄い動揺層、
➂残る5割は体制側が信用していない敵対層だという。
敵対層の子どもの場合、徴兵しても「労働兵」として扱われることが一般的だという。
また、前述の専門家は「戦闘力を持たせる兵士」に不可欠な条件は、軍上層部の命令や指示を絶対視する「純粋性」だという。
この専門家は20年ほど前、南北軍事境界線近くの非武装地帯を訪れた。
北朝鮮軍将校が専門家に「兵士の写真を1枚1枚撮ってやってほしい」と頼んだ。
兵士のほとんどが、中朝国境地帯の慈江道や両江道など貧しい地域の出身者だった。
徴兵期間は10年だが、遠方のため、兵役の途中で故郷に帰ることもできず、心配する家族を安心させるためだという。
専門家が兵士一人一人を立たせて写真を撮影した。
ある兵士は体を硬直させ、ある兵士はカメラを初めて見たと言って撮影されるのを嫌がった。
この専門家は「上官の言うことに絶対に逆らわない、純粋で純朴な人たち」という印象を持ったという。
別の脱北者の一人によれば、北朝鮮兵士たちはロシア派遣について、「党中央軍事委員会の決定」だとして戦闘行為に参加する事実を事前に知らされていたという。
この脱北者は、北朝鮮の内通者から聞いた話として「貧困から逃れるためには、戦争でも起きた方がマシだと普段から考えていた兵士たちだ。特段、嫌がる兵士はいなかったと聞いている」と語る。
ただ、ライダー報道官が予測したように、本格的な戦闘に突入すればどうなるかわからない。
死傷者が相次ぐ戦場で、忠誠心を持ち続けることは至難の業だろう。
20年前は「純粋な兵士」だったとしても、その後に携帯電話が広まり、韓国や米国の音楽やドラマの流入も続いている。
1990年代に起きた大規模な食糧難「苦難の行軍」以降に生まれた世代は、国家の恩恵を受けたこともない。
そもそも、忠誠心を期待する方が難しい。
ウクライナ軍も情報戦を展開している。
恐怖と貧しさから逃れるため、脱走する兵士が相次ぐ可能性は極めて高いだろう。
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