外出制限1ヵ月、ドイツに迫る「コロナ不況」と「EU崩壊」の足音
4/10(金) 6:46配信
現代ビジネス
外出制限1ヵ月、ドイツに迫る「コロナ不況」と「EU崩壊」の足音
写真:現代ビジネス
コロナより貧困に怯える人々
ドイツのコロナ感染予防対策の根幹は、人と人との接触を極力抑えること。だから、家族以外の人間と会ってはいけない。祖父母を訪ねることも、友達と家で会うことも禁止されている。破れば罰金もある。しかし、ドイツ国民は、現在の規制を必要だと納得し、粛々と遂行していると、主要メディアの報道。
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規則は一応、全国統一で決められたが、詳細は州ごとに若干違う。最初は、散歩に出ることも、子供が公園で遊ぶことも禁止していた州もあったが、今ではどこでも、散歩やジョギング、あるいは、公園でベンチに座ることは認められている。ただし、3人以上が固まってはいけないし、他の人との間隔は最低2mは開けなくてはならない。
北ドイツは、北海、もしくはバルト海に面している。ここのところ春爛漫なので、風光明媚につられて州外からサイクリングやドライブに来られては大変と、北部の2州は県境で検査まで始めた。もちろん州にそんな権限はないのだが、誰も文句は言わない。
おかげで感染拡大のスピードは急激に落ちた。3月初旬には、感染者数は2日ごとに倍になっていたが、1ヵ月後の今、それが14日にまで伸びた。ドイツ政府は前々から、感染者が倍増するスピードが14日になれば、規制の緩和を考えると言っていたので、いよいよそこまで到達したわけだ。ただ、感染が再び急増してはならないので、緩和は仕方は難しい。
現在、ドイツでは、スーパーマーケットと薬局ぐらいしか営業できなくなって、そろそろ1ヵ月。町からは人の姿が消え、経済はほぼ止まっている。このまま不況に突入するだろうことは、もう誰も疑わない。しかも、経済が止まっているのは全世界だ。
当然、巷には、ウイルスよりも貧困に怯えている人たちがどんどん増えている。しかも、収入が突然ゼロになってしまった人と、以前とそれほど変わらない人が、いわば隣り合わせに住んでいるため、これが長引けば、社会不安に繋がる可能性もある。
政府は巨大な財政出動でさまざまな対策をとっているが、そのザルからこぼれ落ちてしまう人たちも多い。実際、失業者はうなぎ上りに増えており、とくに観光業、飲食業などは壊滅的だ。
フラッグキャリアも破綻の危機
4月8日、ARD(国営第1テレビ)のオンラインニュースが、ルフトハンザドイツ航空の流動資産が、目下のところ、毎時ほぼ100万ユーロ(約1.3億円)の速さで失われていると報道した。
ルフトハンザはその前日、子会社であるジャーマンウィングスも葬った。ジャーマンウィングスは、主にヨーロッパ内で70~80機の飛行機を展開していた航空会社だ。
現在、ルフトハンザの所有する760機の飛行機のうち、700機が地上に止まったままだ。このうちの何機が再び空に舞い上がるのか、見当もつかない。
一時、巨大マシーンとして脚光を浴びたエアバスA380は、まもなく飛ばなくなるという。その他、ボーイング747-400や、エアバスA340-600も、ルフトハンザの飛行カタログから消える予定だ。大型旅客機が1機減れば、220人の雇用が失われるという。
現在、フランクフルト空港の旅客数は95%減。これまでも旅客数は、9.11の同時テロや、リーマンショックの影響などで、著しく減ることはあった。ルフトハンザはそれらを生き延びてきたのだが、しかし、今回の対応は、過去とは明らかに違う。コロナ危機が去った後も顧客が戻るとは考えていないらしい。
ルフトハンザのCEOいわく、「これ以上危機が長引けば、国の援助なしには生き延びられない」。
ルフトハンザが救済を必要としているのが事実だとすると、その救済はどういう形で行われるのか。国の融資という形か、それとも一部国有化されるのか。
それなのに、ドイツの著名な経済研究所が4月8日に共同で発表した経済予測では、ドイツの今年の経済成長はマイナス4.2%で、今年の後半にはV字回復、来年はプラス5.8%になるという。それを聞いた経済大臣は「明るいニュースにホッとしている」そうである。
外出制限1ヵ月、ドイツに迫る「コロナ不況」と「EU崩壊」の足音
〔PHOTO〕gettyimages
ユーロ債問題でもめるEU
ドイツの経済状況もさることながら、もっと深刻なのはイタリア、フランス、スペインなどだ。とくにイタリア、スペインは、コロナが去っても経済復興はもう自力ではできないだろう。だから、EUが何らかの援助対策を立てなければならず、3月27日、ユーロ国の首脳たちがテレビ会議で話し合ったが、なかなか決まらない。
一番の争点は、ユーロ債の発行。ユーロ債というのは、ユーロを使っている国が共同で発行する債券で、前々からフランスやイタリアなど南欧の国が提唱していた。しかし、ドイツ、オランダ、スウェーデン、オーストリアなどが、絶対に首を縦に振らない。共同債となれば保証も共同になるため、北の健全国にしてみれば、南欧の破綻国の借金の尻拭いなどまっぴらごめんというわけだ。
しかし、今は未曾有の緊急事態。ユーロ債をコロナ債という名で発行しようという声が高くなっている。
4月7日には、再度、財務大臣が仕切り直し、16時間もテレビ会議で粘ったものの、またもやドイツとオランダの強硬な反対で、同意にはこぎつけられなかった。しかし、あまり揉めていると、イタリアが中国に歩み寄り、主要産業が乗っ取られる危険もある。
EUの国々の連帯は、互いの利害が一致した時だけで、あとは、たいして心がこもっているとは言い難い。ドイツ人は草の根レベルでは助け合いの精神が旺盛だが、なぜか、国家レベルとなると自己中心的な行動が目立つ。ドイツの政治家は、常々、一番大声で連帯を叫んでいるだけに、矛盾が大きすぎる。
今回もそれが顕著で、デフォルト寸前のイタリアに対して、事実上の「債権者」となるドイツの理屈は、1)借金が共有されると財政規律を緩くしていた国が得をすることになる、2) その後始末を、倹約してきた国民に強いることはできない。だから、イタリアには、ギリシャ援助の時と同じく融資しようというものだ。融資には、しかし、厳しい条件が付く。
ドイツの主張はもちろん正論でもあるが、それでもドイツ経済研究所のミヒャエル・ヒューター所長はこの主張に腹を立て、批判の声をあげていた。
「船が沈没して溺れている人を助ける時に、それまでの人生を正しく生きてきたかどうかと訊くか?」
ドイツのスタンドプレー
1993年に誕生した新生EUの主な目的は、グローバル化する世界において、アメリカやアジアに対抗できる強い経済圏を作るということだった。この通り、経済的な目的に特化していれば、EUももう少しうまくいったかもしれないが、あまりにも美しい理念をくっつけすぎて機能不全になりつつある。
ドイツをはじめ、いくつかのEU国は、現在、ギリシャのレスボス島の収容所で悲惨な生活を強いられている難民のうち、保護者のいない未成年者だけでも引き取ろうと言っていたが、先日、ようやく少し引き取ったのはルクセンブルクだけ。ドイツは、「スタンドプレーになることはよくないから、皆と歩調を合わせたい」などと言って引き取らなかった。
そもそも、2015年にスタンドプレーでEUの国境を開き、シェンゲン協定を無効にし、100万人近い難民を入れたのはドイツだったのに、今さら何をか言わんやだ。ルクセンブルクが真っ先に引き取ったのは、ドイツに対する当てつけだったかもしれない。
引き取りたくないなら最初から言わなければいいと、私は腹を立てている。
川口 マーン 惠美(作家)
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