余命3か月宣告された35歳女性 死を覚悟し家族とピース写真
6/29(木) 16:00配信 NEWS ポストセブン
余命3か月宣告された35歳女性 死を覚悟し家族とピース写真
日本在宅ホスピス協会会長の小笠原文雄医師
住み慣れた我が家から旅立ちたい──そう願う人は5割に上る(内閣府調査)が、現実には亡くなる人の8割が病院や診療所などで死を迎えている(厚労省調べ)。在宅死は贅沢な望みなのか。
「決してそんなことはありません。一人暮らしでも、認知症であっても、家で最期を迎えることはできます」
そう話すのは、1000人以上の在宅看取りをしてきた小笠原文雄医師(日本在宅ホスピス協会会長)だ。小笠原医師が上梓した書籍『なんとめでたいご臨終』には、死を迎える人や見送った家族、そして在宅医療チームが集まってピースする“記念写真”が多数掲載されている。
35歳という若さで胃がんと卵巣、肺への転移が見つかり、主治医から余命3か月と宣告された堀純子さん(仮名)。2人の幼子を残して逝く無念さを内に秘めつつも、まっすぐ前を見て笑顔でピースしている。
そんな堀さんも、小笠原医師が最初に往診したときは、何を聞いても「死にたい」と繰り返すばかりだった。意を決して、小笠原医師はこう語りかけた。
「『死にたい』っていうけど、この中で一番最初に死ぬのは誰だと思う?」
一瞬で空気が張りつめた。
「わ……私でしょ」
「そうだねぇ。ここにいるみんながそう思っているよ。だけど、死にたいといっていると、免疫力が下がって本当に早く死んでしまうよ。よく寝て、心と身体を暖めて笑うと、3割の人は長生きできる。お盆に子供と旅行できるかもしれないよ」
それ以来、堀さんは「死にたい」といわなくなった。がんが見つかってから避けていた友人とも積極的に会い、子供のサッカーの試合も応援に行った。子供たちと温泉にも出かけた。そうしたことは入院治療ではなかなか許されなかっただろう。
6か月後、野球観戦中の小笠原医師に訪問看護師から「堀さんの脈が触れません」と連絡が入った。血圧が落ち、脈が触れなくなると、穏やかにすーっと亡くなるのが普通だという。
そこで小笠原医師は「じゃあ、そろそろお別れだね」と答えたが、何か胸騒ぎがして観戦を切り上げた。すると、堀さんの夫から「妻がゼイゼイ苦しんでいます」という電話があった。
慌てて緊急往診に向かうと、堀さんはまだ苦しそうに呼吸している。常識では考えられない状況だった。
小笠原医師はハッと思い出した。以前、堀さんに早く寝るよう勧めたら、「夫より先には寝ない」と話していたことを。
そこで、小笠原医師は急いで帰り、夫と子供たちが堀さんと布団を並べて一緒に寝た。2時間後、目を覚ました夫が、妻が穏やかな顔で亡くなっているのに気づいたという。
「在宅看取りの現場ではこういう不思議なことが起きる。遠くの孫の到着を待って旅立つとか、『一人で死にたい』といっていた人が、誰もいないときを見計らったかのように亡くなるとか。意識がなくても、死ぬ間際に人は何かを感じ取っているのかもしれません」