シニアの悲哀、定年再雇用「終わった人扱い」 畑違いの仕事で給料4分の1
1/31(日) 9:01配信
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中国新聞デジタル
「年下上司」との関係も微妙
定年後に不慣れな仕事
人生100年時代、中国地方でも働く高齢者が増えているが悩みも少なくない。定年後の再雇用で冷遇されたり、年金を補うための職探しで門前払いされたり。想像していたのとは違うセカンドキャリアへの戸惑いがあるようだ。高齢ワーカーたちの悲哀の声に耳を傾ける。
【グラフ】定年後に働く理由1位は?
この頃、出社の足取りが重いのは加齢のせいだけではない。中国地方の中堅企業で再雇用の嘱託社員として働く男性(62)は、居心地の悪さを嘆く。慣れない仕事で給料は4分の1。後輩もよそよそしい。「完全に蚊帳の外。40年近く会社に尽くしても、年を取ると『終わった人』扱いです」
営業畑が長いのに定年後の配属先は経験のない総務系。男性の会社では希望の職場を選べず、行き先は人事が決める。
新しく覚えることは多いが記憶力がついて行かず、老眼でパソコン画面がかすむ。凡ミスをして娘くらいの若い子から注意されるのが何とも切ない。「使えない中古人材と思われているんですかね」とため息をつく。
40代の「年下上司」との関係も微妙だ。相手はビジネスライクな態度で、雑談もない。よかれと思って自分の体験談を話すと面倒くさそうに流される。
会議や職場のメーリングリストには入れず、社内情報の共有もできない。飲み会の誘いもなくなった。定年前は同僚とランチを楽しんでいたのに、今は1人。公園のベンチで食べるコンビニ弁当は味気ない。「フルタイムだけに1日が長くて…」と苦笑いする。しかも給料は新入社員以下。最低賃金レベルの時給制でボーナスも出ない。
それでも会社に残ったのは妻の強い希望だ。住宅ローンの返済は終わったが、3人の子の教育費にお金を費やし、老後資金は心もとない。現実は厳しい。
会社はシニアを積極的に再雇用する方針だが「国の要請だから仕方なく、が本音ですよ」。聞けば人件費をひねり出すために若者の給与水準を下げるらしい。当然、彼らの不満の矛先は自分たちに向かう。針のむしろの中で、65歳まで我慢できるだろうか―。最近はパートでもいいから、社外で職探ししたいと思い始めた。
「いっそ、しがらみない職場へ」
定年後の選択肢
企業の側も、再雇用社員の活用に悩んでいる。広島市の大手企業の人事担当者は「ベテランの経験や人脈を生かしてほしいのですが、活躍のモデルはまだ構築できていない」と打ち明ける。キャリア形成のために「登山」をしてきたシニアたちが、定年後にどう「下山」するのか―。戸惑いや不満を打ち消す支援策を見つけられずにいるという。
そんな中、定年を機に転職の道を選ぶ人もいる。地場大手の管理職だった広島市の男性(63)は、65歳まで働ける再雇用の制度があるのに、どうしても踏み切れなかった。
仕事は、若手を補助する事務にとどまる。やはり給与もがた落ちする。「会社もシニアに期待していないんですよ」。冷たい空気を察してか、社内を見渡しても、制度を利用するのは年に数人しかいない。
「いっそ、しがらみのない職場でゼロから働く方がいい」。3年前に飛び込んだのはフルタイムの営業マン。現役の頃の社外交渉の仕事とは随分違う。1年更新の契約社員で、給与も再雇用とほぼ同じ。それでも自分の殻を破れた気がして、意欲が湧いた。
それは、リセットできたからかもしれない。これまでの肩書も経験も。新鮮な気持ちで営業に役立つ法令を学び、研修にも積極的に参加する。年下の同僚も転職者が多く、「仲間」として受け入れてくれる。「チャレンジしないといい結果はつかめない。思い切って転職して、あらためて実感できたことです」
働きぶりを評価されたのか先日、契約延長を告げられた。妻と2人暮らしで頼れる子どももいない。老老介護などの先行きを考えると「収入ゼロ」にはなりたくない。65歳を超えたら就活がさらに厳しくなるのも理解している。キャリアにしがみつかず、えり好みもしない―。この3年間、新天地で働き、「私もかなり変わったなあ」と感じている。
中国新聞社
1/31(日) 9:01配信
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「年下上司」との関係も微妙
定年後に不慣れな仕事
人生100年時代、中国地方でも働く高齢者が増えているが悩みも少なくない。定年後の再雇用で冷遇されたり、年金を補うための職探しで門前払いされたり。想像していたのとは違うセカンドキャリアへの戸惑いがあるようだ。高齢ワーカーたちの悲哀の声に耳を傾ける。
【グラフ】定年後に働く理由1位は?
この頃、出社の足取りが重いのは加齢のせいだけではない。中国地方の中堅企業で再雇用の嘱託社員として働く男性(62)は、居心地の悪さを嘆く。慣れない仕事で給料は4分の1。後輩もよそよそしい。「完全に蚊帳の外。40年近く会社に尽くしても、年を取ると『終わった人』扱いです」
営業畑が長いのに定年後の配属先は経験のない総務系。男性の会社では希望の職場を選べず、行き先は人事が決める。
新しく覚えることは多いが記憶力がついて行かず、老眼でパソコン画面がかすむ。凡ミスをして娘くらいの若い子から注意されるのが何とも切ない。「使えない中古人材と思われているんですかね」とため息をつく。
40代の「年下上司」との関係も微妙だ。相手はビジネスライクな態度で、雑談もない。よかれと思って自分の体験談を話すと面倒くさそうに流される。
会議や職場のメーリングリストには入れず、社内情報の共有もできない。飲み会の誘いもなくなった。定年前は同僚とランチを楽しんでいたのに、今は1人。公園のベンチで食べるコンビニ弁当は味気ない。「フルタイムだけに1日が長くて…」と苦笑いする。しかも給料は新入社員以下。最低賃金レベルの時給制でボーナスも出ない。
それでも会社に残ったのは妻の強い希望だ。住宅ローンの返済は終わったが、3人の子の教育費にお金を費やし、老後資金は心もとない。現実は厳しい。
会社はシニアを積極的に再雇用する方針だが「国の要請だから仕方なく、が本音ですよ」。聞けば人件費をひねり出すために若者の給与水準を下げるらしい。当然、彼らの不満の矛先は自分たちに向かう。針のむしろの中で、65歳まで我慢できるだろうか―。最近はパートでもいいから、社外で職探ししたいと思い始めた。
「いっそ、しがらみない職場へ」
定年後の選択肢
企業の側も、再雇用社員の活用に悩んでいる。広島市の大手企業の人事担当者は「ベテランの経験や人脈を生かしてほしいのですが、活躍のモデルはまだ構築できていない」と打ち明ける。キャリア形成のために「登山」をしてきたシニアたちが、定年後にどう「下山」するのか―。戸惑いや不満を打ち消す支援策を見つけられずにいるという。
そんな中、定年を機に転職の道を選ぶ人もいる。地場大手の管理職だった広島市の男性(63)は、65歳まで働ける再雇用の制度があるのに、どうしても踏み切れなかった。
仕事は、若手を補助する事務にとどまる。やはり給与もがた落ちする。「会社もシニアに期待していないんですよ」。冷たい空気を察してか、社内を見渡しても、制度を利用するのは年に数人しかいない。
「いっそ、しがらみのない職場でゼロから働く方がいい」。3年前に飛び込んだのはフルタイムの営業マン。現役の頃の社外交渉の仕事とは随分違う。1年更新の契約社員で、給与も再雇用とほぼ同じ。それでも自分の殻を破れた気がして、意欲が湧いた。
それは、リセットできたからかもしれない。これまでの肩書も経験も。新鮮な気持ちで営業に役立つ法令を学び、研修にも積極的に参加する。年下の同僚も転職者が多く、「仲間」として受け入れてくれる。「チャレンジしないといい結果はつかめない。思い切って転職して、あらためて実感できたことです」
働きぶりを評価されたのか先日、契約延長を告げられた。妻と2人暮らしで頼れる子どももいない。老老介護などの先行きを考えると「収入ゼロ」にはなりたくない。65歳を超えたら就活がさらに厳しくなるのも理解している。キャリアにしがみつかず、えり好みもしない―。この3年間、新天地で働き、「私もかなり変わったなあ」と感じている。
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