韓国人も頭を抱える「日本製品不買」の過熱……売り上げ9割減が“慢性化”【現地取材】
10/11(金) 5:30配信文春オンライン
「今回の事態は、もはや自然災害の一種のようなものだと思って耐え忍んでいます。感情のもつれだけに、いつまで続くかわかりません。正直なところ、改善されるのをただ待つばかりです」
【写真】韓国の書店入り口正面に置かれる嫌韓本紹介本
そう語るのは、売り上げが7割も減少したという、日本行きパッケージツアーを扱うソウル市内の旅行代理店の男性従業員だ。
日本政府が韓国向けの輸出管理の強化を打ち出したのは、7月1日。すでに3カ月あまりが経過しても関係が好転する兆しすら見えないが、韓国国内の不買運動の現場も同じようだ。「週刊文春デジタル」では現地取材を敢行し、その実態に迫った。
韓国人も頭を抱える「日本製品不買」の過熱……売り上げ9割減が“慢性化”【現地取材】
観光客でにぎわう弘大入口駅前 ©文藝春秋
日本人女性「暴行」現場では
まず取材班が向かったのは、今年8月に日本人観光客の女性が韓国人男性に髪を掴まれる暴行事件の現場となった弘大入口駅周辺の繁華街。訪れた夕暮れ時には、メインストリートで大道芸が行われ、若者や観光客で溢れかえっていた。
そんな賑わいをよそに、カタカナで「ラーメン」と看板を掲げた店に入ると、お客が少ない。30代の男性店員に声を掛けると、言葉を選びながらこう打ち明ける。
「売り上げはこれまでの半分。特に学生の売り上げが落ちた。ラーメンは若者に人気があるだけに業績に響きます」
表通りには、丸亀製麺など日本生まれのチェーン店も連なっているが、店員に声を掛けても警戒感からか言葉を濁される。取材に応じてくれた数少ないお店の一つ、個人経営の日本式のうどん屋でも客は見当たらない。テレビに映る「反・文在寅」デモの映像が、閑散とした店内に響いていた。
「売り上げは30%くらい落ちています。いま中国人観光客は増えていますが、焼け石に水という状態です」(40代の女性店員)
さらに厳しい状況にあったのが、冒頭で紹介した旅行業界だ。旅行代理店の若い男性スタッフが「店外で、写真撮影なし」という条件で、インタビューに応じた。
「7月の時点では、売り上げが前年比30~35%のダウンでしたが、8月、9月はもっとひどくて昨年比70~75%減。目も当てられません。うちは日本行きのパッケージツアーが主力商品なので、開店休業状態です。でも、これでもマシな方で、同業者では昨年比90%減の壊滅的なところもあります」
どうしてそこまで急激な落ち込みになったのか。その見解を尋ねると、男性は遠くを見るような目で続けた。
「うちの日本行きのパッケージツアーの客層は40代以上で、ちょうど歴史問題に関心がある層。韓日関係がその顧客層を直撃しているのです。日本の代わりに観光先として選ばれるのは、フィリピン、台湾、ウラジオストク(ロシア)。本来なら香港も挙がるところですが、デモの影響でいまは日本と同じくらい避けられています」(同前)
韓国では、福島原発事故の放射能問題が、実態とかけ離れた形で盛んに報じられている。この旅行代理店にも、風評被害は押し寄せていた。
「東日本大震災の直後よりはマシですが、いまでも放射能問題を心配するお客さんが一部いますね。不安があったとしても、私たちにできるのは確かなデータに基づいてお話しすることだけ。それでも納得してもらえない人は確かにいますが、それは仕方ないですよ」(同前)
「私たちの商売は平和なときが一番ビジネスをしやすい」とため息をつく男性。繰り返される反日政策で業績の回復の兆しがみえない現状に、男性は声のトーンを抑えて、どこか諦めたように記者を見つめた。
止められたアサヒのビールサーバー
不買運動の集会で、バケツに流して捨てるパフォーマンスでやり玉に挙げられたのが、韓国でも人気のあるビールやスポーツ飲料など日本企業の飲料品だった。
不買運動当初は、店頭から消えたと報じられたが、今回、ソウル市内を歩きながらいくつかのコンビニに立ち寄ってみると、アサヒ、エビスなどのビールや、ポカリスエットなど清涼飲料水が目に入ってくる。排除されているわけではなさそうだ。コンビニの冷蔵庫には、ポカリの500mlと1.5Lが揃うなど充実の品揃えだった。
ただ、売り上げが伴っているわけではない。市内のターミナル駅である龍山駅近くのコンビニを訪ねると、店外にビール専用の冷蔵庫が置かれ、アサヒ、キリン、サッポロ、エビスと日本製品がずらりと並んでいた。売り上げについて女性店員に聞くと、気だるげに語った。
「日本のビールを並べてはいますが、売れても1日1本くらいですかね。前に比べたら? もちろん売れていませんよ」
同駅近くにある、カウンターとテーブル席が一つの小さなビアバーを覗くと、開店準備中の女性店主が掃除をしながら対応してくれた。
「アサヒビールが以前は売れていたんですが、お客さんが飲みたがらないんですよ。サントリーの角ハイボールなんて、このところ一番人気のメニューだったのに、7月からは全く売れない。それでも最近は本当にひどかったころよりは良くなったんですが……」
店先には「アサヒビール」の突き出し看板、客席からよく見える壁には「角ハイボール」を勧めるポスターも。店内に入れてもらうと、奥にはアサヒビールの生ビールを注ぐサーバーがあった。
「お客さんが飲まないので、アサヒのサーバーは止まっています。1週間に1杯や2杯では、タンクの生ビールがダメになっちゃいますから。いまは韓国のビール(Max)の生だけ出してます」
日本酒も扱っていると語る女性は、冷蔵庫に入った「月桂冠」の瓶を持ちだして語った。
「昔はこれもよく出たんだけどねぇ。秋になると温かい酒が売れるから、売れてくれるといいんだけど……。日本との関係が良くなればいいと思いますよ。円満に。それは上の人がやることですけどね」
品揃えとして日本製品が置かれてはいても、わざわざ選ばれない。同じジャンルの韓国製品があるなら、そちらを選ぶ――という実態があるようだ。
その傾向は、ソウル市郊外にあるヤマハのバイク販売店でも聞かれた。男性店員が打ち明ける。
「日韓関係の影響は多少ありますね。売り上げは5%くらいの減少でしょうか。先月はヤマハのニューモデルが発売になったので、売り上げ増を期待していたのですが、むしろ下がってしまった。それでも、日系の自動車ディーラーの中には売り上げが9割減ったという店もあるといいますから……。やはり自動車の場合は、日本車じゃなくても、ヒュンダイはじめ国産車という選択肢がある。でも、バイクはヤマハと同じ水準で国産バイクがないから、まだ売れています」
ユニクロは意外にも……
不買運動の当初から目の敵にされていたユニクロは、意外にも復活の兆しをみせていた。
ソウル中心部から電車で20分ほどの永登浦地区にある、駅からほど近い店舗。広い店内には秋冬モノのコートやセーターが並び、試着を繰り返す若い女性が鏡の前でポーズを取っていた。
売り上げについて店員に確認してみると、「本部に聞いてください、私たちからは何も言えません」。本部から指示があるのか、どの店員に聞いても「私からは何も言えません」の一点張りだった。
ただ、店内は、平日の日中にもかかわらず、20代、30代を中心に老若男女が行き交うにぎやかな状態。子連れの夫婦が歩き、レジの前に会計を待つ人が並ぶ様子は、日本と変わらない光景だった。ソウル駐在のジャーナリストは解説する。
「ユニクロは、韓国で駅前などの一等地に多くの店舗を展開していて、すでに韓国人の生活に浸透しています。さらに同じレベルのファション性や機能性を持った商品を扱う韓国企業も見当たらないため、一時は盛り上がりを見せていた不買運動も、いまは底を打ったようです。在庫を豊富にもっている大型のお店以外は、いまや品薄な状態が続いているほど。日韓関係が悪化した後にリニューアルして、売り上げが伸びたという店舗もあったようです」
ベストセラーランキングには「日韓本」がズラリ
取材班が最後に訪れたのは、大規模なデモの会場となる光化門広場近くにある、韓国有数の大型書店だ。ここでは、日韓関係にまつわる書籍は、“人気商品”となっていた。
ベストセラーがランキング順に並ぶ棚を見ると、国際部門のトップ10のうち、日本に関係する本が4冊を占めた。国民的な関心を裏付けた格好だ。
2冊ランクイン(3位、9位)したのが、ソウルの世宗大学教授を務める保坂祐二氏の著作。東アジアの近代史を専門とする保坂氏は、2003年に韓国に帰化。韓国人では知らない人がいないとも言われる現地の有名人で、竹島問題や慰安婦問題などでも“韓国寄り”ともいえる発言を繰り返している学者だ。さらに、日本で大学教員経験のある韓国人学者が書いた日本批判本が10位に入っていた。
そして、国際部門で1位だったのは、徴用工問題など歴史認識問題を取り上げ、韓国の「通説」を真っ向から批判した話題作『反日種族主義』だった。
韓国の人々は、どのような気持ちでこの本を購入しているのか。『反日種族主義』を手に取っていた男子大学生(20)に話を聞いた。
「高校までは『日本は悪いことをしてきた』と習ってきましたが、この本は全く違って興味深い。新聞などで話題になっていることも知っています。大学に入って研究の世界に触れ、高校まで習ってきたものとは違う学説があると知りました。この本のすべてに同意できるわけではありませんが、学会の成果として出している研究ですから、通説と違うからといって拒絶する必要はないと思います」
さらに男子大学生は、混み合う店先でこう話した。
「韓日ともに両国関係を政治的に利用しすぎです。韓国が政権支持層へのアピールのために国際条約を無視して、あの徴用工判決を引っ張り出したのも問題。日本が歴史の領域だった話を経済の分野に持ち込んでしまったのも問題です。これでは収拾がつきませんよ」
想像以上に根深く、不買運動が続いていた韓国。街を歩いて気付くのは、韓国の人々が日本について語るときの周りの目を気にする視線、日本についての意見を口にすることさえ憚られる独特の空気感だった。
この20歳の男子大学生が言うように、堂々と正論が言い合える日韓関係が築かれる日が待ち遠しい。
「週刊文春デジタル」編集部/週刊文春デジタル
李栄薫「反日種族主義」と私は闘う〈慰安婦問題を放置すれば韓国は崩壊する〉/聞き手・黒田勝弘――文藝春秋特選記事
10/11(金) 5:30配信 有料文春オンライン
ソウル大学元教授の李栄薫氏(68)は、韓国を代表する経済史学者だ。専門領域は李氏朝鮮時代から現代までの経済史で、とりわけ日本統治(植民地)時代の経済に詳しい。かねてから「日本は植民地時代に朝鮮を搾取した」として韓国社会に浸透し通説になっている収奪論は「間違っている」と主張してきた。
今年7月、自身が所長を務めるシンクタンク・落星台経済研究所の研究員ら5名と共同で『反日種族主義』を出版した。慰安婦問題、徴用工問題、独島(竹島)問題、日本統治時代の評価などに関する韓国の反日は“嘘の歴史”に基づくものだと実証的に詳述した本書は、大きな反響を呼び、学術研究書としては異例となる10万部を超えるベストセラーになっている(邦訳版は、近日、小社から刊行予定)。
歴史対立に終わりが見えない日韓関係はこの先どこへ向かうのか。李氏に見解を聞いた。
韓国人による“壮大な自己批判”の試み『反日種族主義』は一読の価値あり!
10/11(金) 5:30配信文春オンライン
韓国人による“壮大な自己批判”の試み『反日種族主義』は一読の価値あり!
ベストセラーになった『反日種族主義』 ©文藝春秋
日本の朝鮮半島統治をめぐる日韓間の歴史認識の違いで、もっとも象徴的なポイントは「日本はいいこともした」という“事実”を韓国が決して認めようとしないことだ。日本統治時代を経験した人など私的、個別的にはそう語る人はいた。しかし歴史教科書を含む学校教育やメディアなど公式の歴史観においては絶対認められなかった。いや、私的な場でもその主張はダメで、時には暴力沙汰にまでなる。韓国ではタブーになって久しい。
【写真】日本メディアに初登場! 『反日種族主義』の著者である李栄薫氏
その結果、韓国では日本統治時代に関する歴史は今も「抑圧と収奪と抵抗」だけで語られ、教えられてきた。異論は一切不可である。
それでも学問的には“真実”を求め、それを公論化しようという動きは以前からあった。日本による統治時代が朝鮮(韓国)の近代化の時期にあたっていたため、日本の統治が彼の地に近代化をもたらしたことは事実だったからだ。結果的に「日本はいいこともした」を認めようという主張であり、これは「植民地近代化論」といわれてきた。
「虚偽の反日公式史観」と戦ってきた元ソウル大教授
学界的には少数派ながら、この「植民地近代化論」者の代表格としてこれまで、研究を通じ「虚偽の反日公式史観」と長らく戦ってきたのが今回、 「文藝春秋」11月号 でインタビューした李栄薫・元ソウル大教授(68)だ。この夏、自らの編著で出版された『反日種族主義』(ソウル・未来社刊)はすでに10万部を超えるベストセラーになっており、韓国社会に衝撃を与えている(編集部注:本書の邦訳版『 反日種族主義 日韓危機の根源 』は、11月14日に文藝春秋から刊行予定)。
李栄薫教授自身は実証主義的な経済史研究が専門。これまで日本統治時代については統計を基に人口増加の事実や、土地・食糧収奪のウソなどを究明している。しかし本書では慰安婦問題を精力的に取り上げ、今や定説化、公式化している「20万人の素朴な少女たちが日本軍に強制連行され性的奴隷にされた」説を虚偽と断じている。慰安婦問題こそが韓国社会を覆う「反日種族主義」による歴史的ウソの典型だというのだ。
“慰安婦シンドローム”の背景にある心理とは?
このウソの慰安婦ストーリーによって慰安婦少女像が全国各地に立てられ、映画や演劇、イラスト、絵本が大量に作られ、政府制定の記念日まで生まれ、元慰安婦たちはまるで国家的・民族的ヒーローのようにもてはやされ、トランプ大統領歓迎の公式晩餐会にまで出席させられている……。
こうした韓国における“慰安婦シンドローム”の背景について李教授は、民族主義以前の前近代的な、いわば部族社会にみられるようなシャーマニズム(呪術)的な心理を指摘する。それに伝統的な“華夷文化思想”に起因する“日本への敵意”が加わり、迷信のような「反日種族主義」が生まれた。「そうした集団においては個人は集団に没我し、近代社会にあるべき“自由な個人”は存在しえない」という。
虚偽だった「吉田清治証言」のことも紹介
李教授にインタビューした9月下旬、ソウルの名門・延世大学では保守派の論客で社会学者(!)の柳錫春教授が大学の講義の際、「慰安婦は売春婦のようなもの」と語ったとして問題になっていた。受講の学生が外部に“通報”し、それにメディアが飛びつき非難殺到となった。大学は担当講義を中断させ処分を検討中とか。一流大学でも「反日種族主義」から自由でないということである。
本書では「日本軍による強制連行説」の唯一の“証拠”として内外でもてはやされ、その後、日本では虚偽と判明した「吉田清治証言」のことが紹介されている。虚偽だったという“事実”を韓国に伝えたのはこれが初めてではないかと思うが、信じたくないことは知らなかったことにするのも「種族主義」かもしれない。今や宗教化し異論(異端)排除には手段・方法を選ばない慰安婦問題だけに、タブーに挑戦する李教授の覚悟のほどが分かる。
「日本の“良識的知識人”にも責任がある」
本書には、いわゆる徴用工問題に関する韓国における「奴隷労働」説に対する実証的否定や、竹島問題について「韓国固有の領土」主張への実証的批判、さらには日本統治時代に朝鮮総督府が「韓民族の精気」を断つため各地の山に鉄杭を打ち込んだという、いわゆる“風水迷信”の実態など多くの「種族主義現象」が紹介されている。
韓国における日本がらみの公式化された多様な「反日ウソ」が、韓国人の研究者によって厳しく暴かれているのだが、李教授はインタビューの最後に「反日種族主義には日本のいわゆる“良識的知識人”にも責任がある。彼らには贖罪感という善意はあったかもしれないが、それが韓国社会で反日ウソが維持・強化される原因にもなった」と語っていた。
本書は韓国人にとっては壮大な「自己批判の作業」である。それがベストセラーになっていることを韓国社会のある種の変化の兆しとして期待したい。それ以上に李栄薫教授の安寧と「自由な個人」としてのさらなる健筆を心から祈りたい。
黒田 勝弘/文藝春秋 2019年11月号
慰安婦と売春婦は「似たようなもの」発言の韓国名門大教授がついに告訴された!
“聖域”に触れて社会的抹殺の危機
名村隆寛(産経新聞ソウル支局長)2019/10/08
source : 週刊文春デジタル
genre : ニュース, 社会, 政治, 国際
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韓国の名門大学、延世大学(ソウル市)の柳錫春・社会学科教授(64)が、大学の講義で「慰安婦を売春婦と同一視し、元慰安婦の名誉を毀損した」として、猛烈な非難にさらされている。
柳氏はこの問題で、ソウル・日本大使館前に「慰安婦像」を設置したことでも知られる韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)を前身とする「日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯」(正義連)から名誉毀損で告訴されて、ついに法廷に立つことになりそうだ。
現地テレビでも柳錫春教授(左)の発言は大きく取り上げられた(KBSテレビHPより、9月23日)
現地テレビでも柳錫春教授(左)の発言は大きく取り上げられた(KBSテレビHPより、9月23日)
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「知りたいなら、一度やってみますか」
柳氏は9月19日の講義で、慰安婦について「(売春婦と)似たようなものだ」と発言。さらに、韓国メディアによれば、慰安婦について、次のような“問題発言”をしたという。
「売春の理由は貧しさのためだ。昔もそうだった」
「日本が強制連行したという記録はなかった」
「(慰安婦問題の)直接的な加害者は日本ではない」
「日本がとんでもない国として扱われるのは韓国だけだ。日本は世界的な大国だ」
これらの発言に、講義を受けていた学生らは反論。
「日本がいい仕事をあげる、教育を受けられるとだまして、ハルモニ(元慰安婦の女性)たちを連れて行ったのではないか」「慰安婦の被害者が自発的に行ったということか」
と教授を問いただした。
柳氏はこれら学生の質問に「今も売春に足を踏み入れる過程はそんなものだ。知りたいなら、一度やってみますか」と答えたという。
この講義での柳氏の発言の一部は、何者かによって録音されており、ネット上で拡散された。
批判殺到で大学授業は中止に
韓国メディアの報道が本格化したのは、発言から4日が経った9月23日ごろからだった。まず、延世大学の学生自治会や同窓会などが柳氏の発言に猛反発して、「人類史上、最も醜悪な国家暴力の被害者(元慰安婦)を『自発的売春』などと罵倒し、あざ笑った」として、大学に柳氏の罷免を要求。さらに、市民団体「庶民民生対策委員会」が、名誉毀損や虚偽事実流布、セクハラの疑いで柳氏を告発した。
今回の柳氏の発言は、左派系紙の「ハンギョレ」だけでなく、保守系の「中央日報」なども紙面やネット上で報道。さらにテレビもほぼ全局が報じたが、特に非難が集中しているのは、柳氏の「知りたいなら、一度やってみますか」という発言だ。
柳氏は「一度調べてみればどうか」という研究を勧める意図だったと釈明したのだが、この発言は当然ながら「女子学生へのセクハラ」と受け取られた。「売春を勧める発言だとの指摘は言語道断だ」と柳氏は反論したものの後の祭りだった。
特に、慰安婦報道に熱心なハンギョレ紙などは、社説でも「事実歪曲で、糾弾されるのは当然」「基本的礼儀さえ知らない。教授を即刻、辞任すべきだ」(9月23日付)と柳氏批判に熱を上げている。
延世大学側は、学生や世論の批判や要求を受けて、「遺憾の意」を表明。柳氏の授業を中止とし、この発言の詳細についての調査を進めている。また、市民団体の告発を受け、ソウル西部地検は、警察を通じての捜査に入っている。
これまでも左派の“標的”
渦中の人物となった柳氏とは、どんな人物なのだろうか。
柳氏は、1955年生まれで、韓国中部の慶尚北道安東出身。米イリノイ大学大学院で博士号を取得。延世大学大学院で地域学の主任教授を務めるほか、同大学サイバー教育支援センター所長、社会学科長、朴正熙記念財団理事、李承晩研究院院長、アジア研究基金の事務総長などを歴任している。
2017年には、韓国の最大野党で保守系の自由韓国党において「革新委員長」に就任しているが、政治家ではない。純然たる社会学者だ。朴槿恵前大統領の弾劾を「(左派による)政治的な報復だ」と批判しており、思想・信条的には保守派に属する。
そもそも柳氏の保守性は左派から毛嫌いされている。その上で、韓国で議論することすら許されない“聖域”と化している慰安婦問題に真っ向から持論を展開したことで、左派としては格好の標的となった。
柳氏はかつて、京郷新聞主催の座談会で「左派、進歩陣営はわれわれに『極右、守旧』と言うが、極右とはテロを犯した安重根(伊藤博文の暗殺犯)のような者のことであり、私は鉛筆1本も投げられない」と発言し批判された。また、歴史教科書の国定化に賛同する「正しい歴史教科書を支持する教授の集い」のメンバーとして活動したことも「代表的な右派人物」と評される理由だ。
さらには、2004~10年に事務総長を務めたアジア研究基金が「(韓国で右翼の大物とされる)笹川良一が設立した日本財団の資金で作られた財団である」(ハンギョレ紙)とされ、柳氏は「歴史歪曲」「破廉恥な妄言」をする人物と決めつけられている。2年前に「革新委員長」として柳氏を招いた自由韓国党でさえ、今回の発言は「不適切だ」として遺憾の意を表明している。
1億ウォンの損害賠償請求
柳氏は「売春が貧しさゆえの、やむを得ぬ事情による選択だったと説明したが、一部の学生が受け入れず同じ質問を繰り返した」と真意を説明し、「売春を(女子学生に)勧める発言でもない。非がないのに謝罪はできない」と主張し、信念を曲げていない。講義での発言が録音されていたことなど、不可解な点もいくつかうかがえるのだが、状況は日々、柳氏に不利な方向に向かっている。
柳氏は講義で、元慰安婦を支援する正義連を「北朝鮮と関連した団体」「元慰安婦を教育して、新たな記憶を作った。元慰安婦を利用した」「問題に介入して国家的被害者という考えを持たせた」などと批判した。
正義連に対する柳氏の認識はあながち外れているとは言えないと筆者は考えている。正義連は毎週水曜日にソウルの日本大使館前で、時には高齢の元慰安婦を動員し、慰安婦問題をめぐる日本への抗議集会を続けている。
「法的措置」を公言していた正義連は、ついに10月1日、柳氏を名誉毀損でソウル西部地検に告訴。1億ウォン(約900万円)の損害賠償請求訴訟も合わせて起こした。正義連はさらに、「その家族の意向に沿い、今後さらなる法的措置対応もとる」「名誉毀損行為が処罰されるように法的制度を設ける必要がある」と訴えている。大使館前の集会でも、柳氏の発言報道があった直後の9月25日、翌週の10月2日に、柳氏を痛烈に非難した。
ソウルの日本大使館前の慰安婦像横で安倍政権を批判するプラカードを持つ抗議集会参加者(8月14日) ©NNA/共同通信イメージズ
ソウルの日本大使館前の慰安婦像横で安倍政権を批判するプラカードを持つ抗議集会参加者(8月14日) ©NNA/共同通信イメージズ
「慰安婦は生き神様なのか」
韓国では慰安婦の存在は絶対的で、神聖視されもしている。慰安婦やいわゆる徴用工などの強制性を否定し、韓国でこの夏、ベストセラーとなった『反日種族主義』の共同著者である李宇衍・落星台経済研究所研究委員は、フェイスブックへの投稿文で、柳氏の発言は「現在の状況を念頭に置き展開されたあり得る推論だ」と指摘。「慰安婦は生き神様なのか」と疑問を呈した。
すでに左派から批判の標的にされ、物理的な攻撃も受けていた李氏。今回、柳氏を擁護したことで、「暴言を吐いた」と再度批判に晒されている。李氏は以前から、慰安婦問題をめぐって正義連に公開討論を求めているが、正義連はその要求を無視している。
柳氏や李氏のような発言をすれば、韓国では必ず正義連などの市民団体を中心とした“社会的制裁”を受ける。慰安婦問題についての学術書『帝国の慰安婦』の著者である朴裕河・世宗大学教授が代表例だ。朴氏は元慰安婦の名誉を毀損したとして、民事裁判で敗訴が確定し、刑事裁判は1審無罪、2審は逆転有罪となっている。
韓国では、慰安婦問題をめぐり元慰安婦はともかく、支援団体の意に沿わない主張をした学者ら専門家は、間違いなく吊し上げられる。学生らから非難を受けた末に、大学を追われた学者もいる。被告人とされた朴氏の裁判は本人が法廷で訴えていたように「魔女狩り」も同然だった。
状況は違っても、主義、主張がどうであれ、韓国では慰安婦問題への「異論」は許されず、即刻、敵視され、非難の的となる。
社会的に抹殺されることを覚悟の上で、柳氏は研究者として、それでも主張を翻さない構えのようだ。
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