英誌が分析「なぜ日本で“風変わりなポピュリストたち”が躍進しているのか」
1/11(水) 10:30配信
クーリエ・ジャポン
NHK党党首の立花孝志 Photo: David Mareuil / Getty Images
2022年7月の参院選では、暴露系ユーチューバーの「ガーシー」こと東谷義和が当選し、大きな話題となった。日本では、過去にもこうした一風変わった政治家や政党が誕生してきた歴史がある。英誌「エコノミスト」が、その背景にある日本の状況を分析する。
【動画】自民党より登録者が多いと英誌に報じられた立花孝志のYouTubeチャンネル
「奇妙な候補者たち」の大手柄
白いガラケーから震えた声が漏れ聞こえる。
「お父さんが亡くなったんですけど、NHKの受信料を払ってなかったんです。どうしたらいいんでしょうか」
取り立ての厳しさで知られる日本の公共放送の集金に関する相談に、政治家の立花孝志は「どんな請求も無視しなさい」と助言する。
電話による相談後、立花は自身のYouTubeチャンネル用に、NHKをこき下ろす動画を撮影し始めた。動画の締めで、彼はいつものように拳を握りしめ、自身の政党のスローガンを叫ぶ。「NHKをぶっ壊す!」
かつては「NHKから国民を守る党」の名で知られ、現在は「NHK党」と名乗る立花の政党は、近年、日本の政治に参入し続ける特異な政策方針を掲げる泡沫政党の一つである。
立花は2013年に党を立ち上げ、2019年に参議院議員に当選した。この7月には、さらに2名の奇妙な候補者が、彼に続き大手柄をあげている。
一人は「ガーシー」こと、芸能界暴露ユーチューバーの東谷義和。もう一人は右翼政党、参政党の代表を務める神谷宗幣だ。同党は反ワクチン、反移民、有機野菜栽培の支持を掲げている。
「日本の泡沫政党の歴史」が示すもの
公共放送局をバッシングすることは、あるいは日本のポピュリズムの縮図なのかもしれない。「私はずっとNHKが嫌いでした」と語るNHK党員の久保田学は、人々の受信料支払い回避を応援している。幸運にも日本は、かくもお騒がせな民衆扇動家たちを得たわけだ。
しかし、彼らの登場により、日本における国家的な議論が進展したわけではない。6月に放送された討論番組内では、各政党のリーダーたちが経済・防衛の重要問題について議論を交わすなか、NHK党の黒川敦彦が歌を歌い続けた。
NHK党を取材するジャーナリストの石渡智大は、立花の一派を「話題作りの日和見主義者たちの群れ」と評する。「彼らはお山の大将になりたいだけなのです」
日本には、こうした泡沫政党の歴史がある。最終的には衰退したものの、かつてはサラリーマン新党や、カルト的な幸福実現党といった泡沫政党も、国会で議席を獲得した。彼らの成功が束の間のものであったにしても、こうした事態は日本の主流派政党に対し警告を発している。
つまり、主流派政党のほとんどが、国民にとっていかに馴染みがなく、不透明で、うんざりするほど退屈かを告発しているのだ。ダラダラと続く国会答弁の最中、議員たちはしょっちゅう居眠りをする。これでは反乱のハードルも低くなるというものだ。
ドイツのデュースブルグ・エッセン大学の政治学者アクセル・クラインは、「人気者になるために必要なのは、少しばかり退屈でない人間になること」と語る。
ターゲットは「最も深く失望している世代」
選挙遊説において、この差はいよいよ顕著だ。旧態依然になりがちな主流派政治家たちは、ここ何十年間、戦略をほとんど変えていない。だいたいが選挙カーから拡声器で演説し、パンフレットを配るだけだ。
泡沫政党のほうがソーシャルメディアをうまく活用している。驚くべきことに、NHK党の立花孝志党首のYouTubeチャンネル登録者数は(1955年以来ほぼ途切れることなく日本の政治を主導してきた)自民党の4倍である。
これはより憂慮すべき潮流を示してもいる。日本の有権者たちは、政治に深く失望している。最近の全国規模の選挙では、投票率は約50%。そして泡沫政党がターゲットとする若い世代の有権者が、最も深い失望を抱えているのだ。18~29歳の投票者における自民党支持の割合は、2017年の46%から、2022年の参議院議員選挙では32%にまで下落した。
主流派政党がこの潮流をひっくり返すことができなければ、NHK党のごときサーカス集団が、単なる娯楽ではなく、より深刻なポピュリズムの兆しであることが明らかになるかもしれない。
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