資本欠損「LINE」も傘下に… さらに火の車「ソフトバンク」

2020年01月03日 | ドウでも良い話題


資本欠損「LINE」も傘下に… さらに火の車「ソフトバンク」のヤバい節税術

1/3(金) 11:02配信

デイリー新潮
資本欠損「LINE」も傘下に… さらに火の車「ソフトバンク」のヤバい節税術

孫正義会長

 2018年12月のソフトバンク株式会社上場に始まって、19年9月、傘下のヤフー(現ZHD)によるZOZOへのTOB、11月に発表されたソフトバンクグループ(SBG)「真っ赤っか」決算、そして、同月のZHDとLINEの経営統合と、ここ1年に亘って、SBGは世間の耳目を集め続けた。新年を迎え、会計界のレジェンド・細野祐二氏がそのヤバい節税術を解説。ちょっと難しけれど絶対に為になる論考である。

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資本欠損「LINE」も傘下に… さらに火の車「ソフトバンク」のヤバい節税術

LINE 主要経営指標

1.SBGという本丸に立ち入る前に、2019年にSBGが傘下に収めたLINEとZOZOの知られざる内情についての分析から始めてみたい。

(1)実態は連結資本欠損会社だった「LINE」

 ヤフー(現ZHD)とLINEの経営統合は、ZHDの親会社であるソフトバンク側がかねてより持ち掛けていたものの、LINEの親会社であるNAVERが断り続けてきたという経緯がある。それが今年の夏ころからNAVERの風向きが変わり、今回一転、合意に至った。LINEの懐具合が大きく変わったからである。

 LINEは対話アプリの利用者が8千万人を超える国内最大のスマホ向けメッセンジャーアプリ運営会社である。LINEは、東証1部上場企業ではあるものの、韓国のNAVERが株式の72.64%を所有するNAVERの完全支配子会社でもある。ここで、NAVERは韓国内最大のインターネット検索ポータルサイトを運営しており、韓国KOSDAQ上場企業である。
資本欠損「LINE」も傘下に… さらに火の車「ソフトバンク」のヤバい節税術

SBGの連結業績推移

 LINEの売上高はここ数年順調に伸びているものの、その損益状況は芳しくない。LINEの当期純損益は、株式が上場された2016年12月期こそ71億円の当期純利益を上げたものの、その後、2017年12月期は82億円の当期純損失、2018年12月期が58億円の当期純損失と続き、2019年9月第3四半期に至ってはなんと339億円の当期純損失を出してしまった。会社の2019年9月第3四半期末の連結利益剰余金はマイナス394億円となっており、LINEは連結資本欠損会社なのである。

 この会社が営業キャッシュフローをそれなりに上げていながらも当期純損益が悪いのは、主として、損失がキャッシュアウトしない(=関連会社の営業キャッシュフローは連結されない)関連会社の業績が悪いからである。ところが、2019年9月第3四半期には、頼みの綱の営業キャッシュフロー自体がマイナス91億円と赤字転落した。悪いのは関連会社だけではなく、本体の業績そのものが立ち行かなくなってきたのである。

 LINEの業績不振の原因は、一般的には、会社が鋭意育成中のスマホ決済の利用者と加盟店の開拓費用が先行したためということになっている。会社は、2018年にユーロ円建社債を1421億円発行して、これら開発費用の資金手当てをしたが、2019年には、わずか9カ月で340億円もの損失を出してしまった。いくら金をつぎ込んでも一向に好転しないスマホ市場を前にして、LINEは、茫然と、乏しくなった金庫の底を見つめていたに違いないのである。

 追い詰められたLINEに対して、ソフトバンク側より破格の経営統合案が出された。この経営統合案は、LINE株式の公開買付と株式交換を骨子としている。ここで、NAVERはLINEの発行済株式の72.64%を所有しており、LINEは本件経営統合後非公開会社化することになっている。統合会社は、LINE株式の残り27.36%(=100%-LINE持株72.64%)を、公開買付の方法により、1株5380円で日米の証券市場で買い取る。1株5380円で計算するとLINEの時価総額は約1兆3000億円となり、NAVERの持株評価は約9400億円となる。

 経営統合案によれば、統合会社に対する持分はソフトバンク側とNAVER側で均等とするため、NAVERが持つLINE株の内50%を超過する部分(22.64%=72.64%-50%)は、LINEの新株発行により、ZHD株式と交換される。株式交換比率は、LINE株1株に対してZHD株11.75株とされている。ここで、LINEはTOB価格で1株5380円と評価されているので、ZHD株の評価は1株458円(=@5380円÷11.75)で固定され、これにZHDの発行済株式数を乗じると、ZHDの時価総額は2兆2000億円と計算される。NAVERはLINE株の22.64%と交換にZHD株2900億円相当を手にいれることができる。

 LINEは資本欠損の赤字垂れ流し企業で、しかも、生き残りのためにはスマホ決済拡販のために巨額の資金を要する。あのまま(=ヤフーとの統合計画がないまま)事態が推移していれば、LINEの株価は、決算の大幅赤字と資金繰りの逼迫により、統合計画発表前の4000円台から暴落していたに違いないのである。ソフトバンク側はそのLINEに1兆3000億円もの時価評価を付けてくれた。まともな事業評価をする限り、とてもではないがLINEに1兆円を超える時価評価など出せるわけがない。ヤフーとLINEの統合計画は、ソフトバンク側が窮地のNAVER側に破格の大判振る舞いをした形になっている。

(2)実際の資金繰りは火の車だった「ZOZO」

 ZOZOはかねてより無借金経営で、資金繰りの問題など全くない財務優良会社であったところ、2018年におけるZOZOスーツの販売開始と前澤友作・前代表取締役社長の自社株売却を契機として、あれよあれよという間に資金破綻を起こし、2019年9月、ヤフーに身売りすることになった。ヤフーは、2019年9月30日から11月13日までの期間、ZOZO株をTOB(株式公開買付)により買付け、ZOZOの発行済株式の50.1%を総額4千億円で買収した。公開買付価格は1株2620円である。ヤフーは、2019年11月19日、買収資金4千億円を銀行借入により調達した。

 ZOZOの前澤前社長は、2018年5月23日、所有するZOZO株の内6百万株をZOZOに230億円で売却した。ZOZOの取得単価は1株3843円である。ZOZOは、前澤前社長から自社株を取得するために、同年5月、三井住友銀行より240億円の短期銀行借入を行い、長く続けた無借金経営から脱落することになった。ヤフーによる買収計画発表前のZOZOの株価は2000円台にまで暴落していたので、ZOZOは、前澤前社長から買わされた自社株に110億円程度の含み損を抱えていたのである。当然のことながら、ZOZOがここで借りた240億円の銀行借入は、1年後の2019年5月に返済期日がやってくる。

 一方、ZOZOの資金構造は、2018年3月期の決算期末直前、それ以前の資金余剰から資金不足に大転換することとなった。ZOZOは「つけ払いサービス」と「自社ブランド製品」の製造により入金サイトが長期化し、売り上げが増えるほど運転資金が売掛金と在庫に滞留してしまい、資金構造がキャッシュアウト先行(サイト負け)に変わってしまったのである。ZOZOは、2018年3月期以降、月額十億円単位の高速で資金が流出していた。

 すなわち、ヤフーによる買収以前のZOZOは、前澤前社長ともども資金繰りが火の車だったわけで、前澤前社長とZOZOが同タイミングで巨額の資金不足に陥った点がZOZOの資金問題を難しくしていた。その絶体絶命のZOZOを、ヤフーが、1株あたり2620円という高値で引き取ってくれた。前澤氏はZOZOの株式の36.76%を持つ筆頭株主で、今回のTOBでその大半をヤフーに売却し、売却額は2500億円近くに上るといわれる。前澤氏はTOB発表日の9月12日付けでZOZOの社長を退任した。

 ヤフーはTOBによりZOZOの発行済株式の過半数を4000億円で買収した。ということは、ヤフーはビジネスモデルと資金繰りが破綻しているZOZOに8千億円もの時価総額を付けてくれたことになる。あのまま(=ヤフーによる買収がないまま)事態が推移すれば、ZOZOの株価は、ビジネスモデルの崩壊と資金繰りの逼迫により、買収発表前の2200円台から暴落していたに違いないのである。ヤフーは窮地のZOZOを救済して、高い買い物をしたことになる。

(3)「孫正義」の狙い

 ZOZOの買収とLINEの経営統合は、統合前のZOZOとLINEが共にビジネスモデルの行き詰まりと資金繰りの逼迫状態にあったものを、SBGが、共に高値で買収したものであることを論証した。両社とも、もう少し時期を後にずらせば、はるかに安い金額で買収できたことと思う。

 では、なぜSBGはあえて9月にZOZOの買収を公表し、なぜ11月18日にLINEの統合を急遽公表して、高値掴みをしたのかということになるが、それは、これらの買収や経営統合の実質的意思決定者は孫正義SBG会長であるところ、買収や経営統合にかかる金はSBGから一切出ていかないからだと思う。孫会長とすれば、自分の懐を一切傷めずに、ZOZOとLINEが手に入るのである。ならば、たかが数千億円程度の高値買付など意に介する必要などないのだろう。

 孫正義SBG会長は、世界のIT産業の覇権に強いこだわりがあり、その中で、ヤフーに対して、

「いつになったら楽天やアマゾンを追い越して世界のEコマースの覇権が握れるのか?」
などと、強い圧力をかけていたことが報道されている。孫会長はソフトバンク帝国の帝王であり、世界有数の絶対的カリスマ経営者でもある。孫正義会長の圧力は、今年の春先より夏にかけて頂点に達し、ヤフーは、

「何をいつまでも眠たいことをやっているのだ。」

 とばかり、孫会長に怒られたというのである。

 そこで、2019年9月、窮地の前澤前ZOZO社長の相談に乗る形で孫会長自らがZOZOの買収を決めた。一方、子会社のソフトバンク(株)が、孫会長の叱咤に応える形で出してきたのがヤフーとLINEの経営統合ということであろう。だから、帝国内の下部組織体であるヤフーやソフトバンク(株)とすれば、帝王の逆鱗に応えてZOZOとLINEが買収できればそれで良いわけで、買収価額は二の次とならざるを得ない。

 ZOZOの買収価格は4000億円である。しかし、この4000億円は、ヤフーが銀行借入で賄うわけで、SBGの懐は一切痛むことがない。LINEの経営統合に要する資金は総額6480億円であるが、このうち、2935億円はZHDの新株発行で賄われる。残りの3545億円は、LINE株の公開買付資金なので現金がいるが、それとて実際に資金を出すのはソフトバンク(株)とNAVERが半々ずつ出すので、結局SBGは一銭の金も出さなくて良い。孫会長は、独立採算子会社に帝王としての圧力をかけ、独立採算子会社の金を使って、帝王自らの懐を傷めることなく、SBGの株主価値なるものを上げることに成功したということになる。

 そうすると、本件では、孫正義会長、SBG,ZOZO,前澤前ZOZO社長、NAVER、LINEの全てが経済的利益を得て満足をすることになるが、この中で、唯一巨額の損失を抱える可能性があるのはZHDだけである。ZHDは、ZOZOの買収により、推定3000憶円超の「のれん」の計上を余儀なくされる。LINEの統合では、推定1兆円の「のれん」が計上される。ZHDの連結資産は、1兆3千億円の「のれん」で“てんこ盛り”となってしまうのである。

 ZOZOの「のれん」とLINEの「のれん」の投下資本利益率は、それぞれ1.97%と0%であり、これらの「のれん」には超過収益性が認められない。ヤフーはZOZOの買収以前は財務内容に全く問題のない超優良会社であった。ZOZOの買収とLINEの経営統合は、ZHDの財政状態計算書に1兆3千億円の不良資産を計上させ、その財務内容を壊滅的に毀損することになると思う。


マスコミ向け強弁

2.買収や経営統合にかかる金はSBGから一切出ていかないとはいえ、苦境に直面するのは他ならぬSBGである。それを具体的に見ていこう。

 現在のSBGは投資会社であり、その生殺与奪の権を握るのはソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)という10兆円の投資ファンドである。SBGは2019年9月第2四半期決算において、SVFの主力投資先ウィーカンパニーへの投資で9千億円もの評価損を出した。SVFには、他にも、経営不振に陥り株価低迷中のウーバーテクノロジーへの巨額投資もある。SBG株は、SBGが出す兆円単位の巨額利益が「非上場株式の金融工学的時価評価」で出した紙の上の利益に過ぎないことを嫌気されて、2019年6月の6000円台から同年10月の4000円台割れまで下落してきた。

 孫正義会長は、2019年11月6日、2019年9月第2四半期における巨額損失の決算発表を見事なプレゼンテーションで乗り切った。そうしたところ、翌週の11月13日、SBG傘下のヤフーとLINEの経営統合という衝撃的なニュースが公表された。この結果、SBGの株価は回復軌道をたどり始めている。SBGは、SVFの巨額損失問題を乗り切ったと思う。

 2019年9月第2四半期決算後、現在のSBGの苦境は、巨額の資金調達にある。SBGが苦しむ資金調達には3つの領域がある。まず第1番目に資金調達が必要なのは本業の運転資金である。
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配当と現物出資による税務欠損の創造、SBG租税回避会計処理

 SBGの会計利益先行率(=当期純利益÷営業キャッシュフロー)は、2016年3月期以前は一般的な50%台であったものが、2017年3月期から90%台へと急激に悪化し始め、2019年3月期からは100%を超過するようになった。会計利益先行率が100%を超過するということは、計上された利益の内営業キャッシュフローの100%を超過する部分は現金の裏付けがないということを意味し、その超過部分は運転資金の増加として貸借対照表に残留しているはずである。すなわち、現在SBGは、少なくとも会計利益先行率が100%を超過する部分の2393億円(1兆4112億円-1兆1719億円)の運転資金を借入れなくてはならない。

 一方、SBGは2019年3月期末現在15兆6851億円の有利子負債を抱えており、毎期2兆円前後の返済期日が今後5年間にわたりやってくる。会計利益先行率が100%を超過しているのだから、SBGは、その返済原資を営業キャッシュフローで賄うことができない。要するに、SBGは、新規と更新を合わせグループ全体で、今後5年間、毎年のように2兆数千億円の資金調達を迫られているのである。

 これに対してSBGは、15.6兆円の連結有利子負債の内10.1兆円は独立採算子会社等のものであり、SBGは「独立採算子会社の借入金を返済する義務は法的にも道義的にも存在しない」などとして、残りの5.5兆円だけがSBGに返済義務のある借入金であると主張する。また、SBG本体は投資管理会社に過ぎないので、運転資金の調達も独立採算子会社がやることで、SBGはその資金繰りに関知しないと言う。

 これはSBG広報のマスコミ向け強弁だと思う。独立採算子会社の時価総額に重要性があるのであれば、親会社であるSBGは、これに救済融資せざるを得ない。現に、SBGは、独立採算子会社であるウィーワークに対して1兆円もの追加ファイナンスを打っている。SBG広報の強弁にかかわらず、SBGが、連結グループ全体として、毎年2兆円規模の資金調達に苦しんでいるという事実は変わらない。

 資金調達が必要な2番目の領域は、ソフトバンク・ビジョン・ファンド第2号である。SBGは2019年8月にSVF第2号を立ち上げることを発表し、同年11月の第2四半期決算発表の場でも、再度、第2号が第1号と同規模で粛々と立ち上がる旨を公言している。ところが、あれから半年近くたった2019年の年末現在、SVF第2号への出資者は、サウジアラビア政府を含め、何も確定していない。

 投資家は、第1号ファンドにおけるウィーカンパニーやウーバーテクノロジーの失敗に怖気づいているはずで、ならば、まず何と言っても第1号同様に、SBG自身が第2号に3兆円程度の出資をしておかなくてはならないが、そんな金はどこにもない。SBGは公言したSVF第2号を組成するため、少なくとも2兆円程度の見せ金を調達しなければならない。

 資金調達が必要な3番目の領域は、SVF第1号自体である。SBGの有価証券報告書には、SVFとデルタファンドの借入金が次の通り開示されている。



もとより、SVFに対する出資者にはプレミアム出資者と一般出資者があり、プレミアム出資者には7%での固定利回りが保証されている。また、SBGによる決算説明によれば、SVFは、利益が1兆8千億円に対して損が6千億円で、正味1兆2千億円儲かっていることになっている。ならば外部投資家に対して配当を支払わなければならない。その配当原資は、投資した非上場株の上場による資金回収しかないが、ユニコーンバブルが崩壊した現状において、資金回収は難しくなっている。だから、SVFは配当支払いのために2019年3月期末現在9千億円もの借金をしているのである。この借金のほとんどは、SBGあるいはその連結子会社が貸しているが、だからと言って、これが、独立採算子会社としてのSVFの借入金であることには変わりない。SVFは、投資非上場株が上場して9千億円の資金が回収できない限り、今ある9千億円の借入金を返済しなければならない。
4千億円を追徴すべき

 私は、2019年が、非上場ユニコーンバブルと国際M&Aによる巨額「のれん」バブルの崩壊が始まった年として、歴史に記憶されるように思う。来る2020年はそのバブルの崩壊が本格化する年になるであろう。その中で、SBGは、グループ会社の運転資金で2兆円、SVF2号の見せ金で2兆円、SVF1号の配当原資で1兆円、合計5兆円の資金調達をしなくてはならない。この資金調達にはアリババ株を使うしかないが、持分時価相当額13兆円のアリババ株と雖も、それでこれだけの規模の資金調達ができるかどうかは疑問である。SBGはまことに多難な2020年の年明けを迎えることになると思う。

3.SBGは常に最新の節税スキームの研究(=タックス・プランニング)により毎期巨額の節税を行っているが、それにつけても、SBGが携帯子会社であるソフトバンク(SB)の上場時の株式売却益を圧縮するために採った節税スキームは“ポンカス篭脱けスキーム”としか言いようのない、あざとい代物である。

 SBGの2019年3月期の有価証券報告書167頁によれば、SBGは、ソフトバンクグループジャパン(SBGJ)がソフトバンク株式の上場売出で得た手取金2,349,832百万円に対する法人所得税相当額750,804百万円を、未認識の税効果資産を認識して、合計405,577百万円も減額させることに成功したと開示されている。4千億円もの節税を可能ならしめたスキームの概要は次のとおりである。


この節税の舞台はSBG株式会社である。SBGは、2016年9月英国のアームHDを3兆3千億円で買収した(仕訳番号1)。ここで、アームHDは持株会社でアームLtd.の株を100%所有している。さて、2019年3月期に、SBGはアームHDよりアームLtd.の持ち株の4分の3を配当として受け取った(仕訳番号2)。この結果、アームHDは、唯一の資産であるアームLtd.の持ち株が4分の1に減少したので、税務上の企業価値は4分の1、すなわち8千億円(=2.5兆円÷4)となる。そこで、SBGは所有するアームHD株式の全てをソフトバンク・ビジョン・ファンドに現物出資した(仕訳番号3)。現物出資価格は税務上の簿価8千億円なので、SBGには2.5兆円(=3.3兆円-0.8兆円)の株式譲渡損失が出る。つまり、3.3兆円で買った企業の価値を、子会社配当を使って8000億円まで下げ、8000億円となった企業の株を現物出資することによって、SBGにあたかも2.5兆円の損失が出たかのごとき外観をつくりあげたのだ。

 さて、この結果、SBGには2兆5千億円の受取配当と2兆5千億円の株式譲渡損が発生した。ここで子会社からの受取配当は税務上の益金とはならないところ、現行税務上、子会社株式の譲渡損は損金となる。このようにしてSBGは2兆5千億円の税務欠損金を創造した。ところで、SBGJはSBGの完全子会社なので、連結納税制度により、SBGJで出た2兆3千億円の課税所得はSBGで出た2兆5千億円の税務欠損金と相殺することができる。

 SBGは、国税局の指摘により2019年3月期の法人税の修正申告を行い、一部税務欠損金を否認したものの、既実行の本件節税スキームはそのまま受け入れられたと報道されている。この報道はにわかには信じがたいが、私は、本件節税スキームは法人税法132条の2で規制する租税回避行為、すなわち脱税だと思う。

 組織再編税制を悪用した租税回避行為については、日本IBM事件とヤフー・IDCS事件を受けた最高裁の2016年2月29日付判例がある。この判例の中で、最高裁は、「税法の濫用は租税回避行為である」と明言し、税法濫用の判断にあたって考慮する事情として次の2点を挙げている。

(1)当該法人の行為又は計算が、通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づいたり、実態とは乖離した形式を作出したりするなど、不自然なものであるかどうか
(2)税負担の減少以外にそのような行為又は計算を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか等

 私には、SBGによる本件節税スキームは、最高裁の挙げる2つの税法濫用判断基準にズバリ該当するように見える。2020年度の税制改正大綱では、簿価の1割超の配当は税務上の簿価引下げとし、これを過去10年以内に買収した子会社に限定して適用するという。ならば、SBGが行った本件脱税スキームは追認されてしまうことになる。これは税務当局と租税回避企業のイタチごっこで、それを税制改正で規制するというのでは、やったもの勝ちということになりかねない。SBGが行う脱税スキームに対する国民の怒りは強い。私は、今からでも遅くないので、国税当局は法人税法132条の2を適用して、SBGから本来の法人税4千億円を追徴すべきだと思う。

――SBGはどう答えるか。まずは、本稿で論じた節税スキームについて尋ねると、広報担当者はこう回答した。

「個別の取引についてはコメントを控えます。当社グループの海外事業における最適な資本関係を実現するため、2018年3月期、アームグループにおいて資本関係の再編が行われました。当社としても、今後の海外事業の発展に寄与する合理的な再編であると判断し、承認いたしました。当社の税務申告にあたっては、税法に従って適正な処理を行いました」

――更にこの節税スキームは、最高裁の2016年2月29日付判例が示す税法濫用の判断基準に該当し、法人税法132条の2で規制する租税回避行為に該当する、脱税行為であると言えるのではないか、このようなSBGの脱税行為に対する国民の怒りが拡大している中で、税務係争事件化する前に、修正申告を行い、約4千億円あるいは約8千億円の納税を自主的に行うべきではないかと見解を聞くと、

「先の回答の通り、税法に従って適切な処理を行いました」

――次に、節税額は8千億円になるのではないか、2018年度の有価証券報告書に記載されている約4千億円の節税額とは約4千億円の差額が出てしまっており、この差額4千億円は、ソフトバンク株の売却益以外の他の益金(例えば、アリババ株の先渡し契約預り金の益金参入約1.2兆円)との相殺分が含まれるのではないかと訊ねると、

「回答は控えます」

 また、有限監査法人トーマツに支払っている、監査証明業務に対する約18億円、被監査業務に基づく約3億円、DTTに対する約39億円の内、税務報酬がいくらであったのかの質問に対しても、

「回答は控えます」とのことだった。

――この回答を受け、細野氏の見解は以下の通りである。

 SBGは、自社に不利な内容の記事がマスコミに出ることに対し異様に反応し、その場合には、広報を通じて強烈なクレームをかけてくるのを常としている。このクレームは、著者に対しては名誉棄損の損害賠償訴訟、メディアに対しては広告出稿の停止を言外に強く匂わせるもので、従って、SBGの財務上の問題指摘をまともにする人はほとんどいないし、その論考を取り上げてくるメディアは限られる。このようにSBGに対して腫物に触るような社会環境の中で、私は、長くSBGの財務諸表分析を行ってきており、この間、あまたの論考をメディアに発表してきた。その中で、SBGが「回答を控える」と反応したのは、今回を含めて過去2回しかない。

 前回は、2019年10月に、SVFに内在するウィー・カンパニーとウーバー・テクノロジーの損失が1兆円規模に上ることを指摘し、SBGはこれに対して回答を控えると反応した。翌11月、SBGは私の指摘通りの巨額損失を第2四半期決算で計上した。

 SBGの2019年3月期におけるSBGの節税額は4千億円と開示されているところ、私は、これは節税の域をはるかに逸脱した脱税で、その規模も4千億円ではなく8千億円ではないかという疑問を持っていた。

 国際会計基準が認める非上場株式の評価益は税務上の益金とはならないので、私は、SBGが国際会計基準と税務の差を利用した節税を行うこと非難するものではない。しかし、SBGが2018年12月に行った携帯子会社SBの上場で得た手取金2兆3千億円に対する法人所得税は会計基準差ではない。今回の質問の主眼はこの点を確認するものであったが、これに対してSBGは、「税法に従って適正な処理」、「回答を控える」というばかりである。

 この難しい論考が一人でも多くの人の目に触れ、その結果、SBGに退蔵されている我が国の逋脱税8千億円の回収につながることを祈るものである。

細野祐二(ほそのゆうじ) 会計評論家
1953年生まれ。「会計士界のレジェンド」と許される会計評論家。財務諸表危険度分析プログラム「フロードシューター」を開発した。フロードシューターの分析通り、ライザップは業績見通し下方修正を行ない、ソフトバンクグループの携帯子会社ソフトバンクの新規上場も、初値公募価格割れとなる事態が出現した。複式簿記研究会を主宰。年会費は1万円。http://yuji-hosono.com/

2020年1月3日 掲載





ユニクロ柳井氏、ソフトバンクG社外取を「退任」する理由

2019/12/27(金) 18:17配信

BUSINESS INSIDER JAPAN
ユニクロ柳井氏、ソフトバンクG社外取を「退任」する理由

ソフトバンクグループの社外取締役を退任する、ファーストリテイリング会長兼社長の柳井正氏。

ソフトバンクグループ(ソフトバンクG)は12月28日、社外取締役の柳井正氏=ファーストリテイリング会長兼社長=が、社外取締役を退任すると発表した。退任日は12月31日付け。柳井氏側から、退任したいと申し出があり、受け入れた。ソフトバンクG広報によると、「本業に専念したい」との説明があったという。柳井氏は2001年から18年間に渡り、ソフトバンクグループの社外取締役を務めたことになる。

【全画像をみる】ユニクロ柳井氏、ソフトバンクG社外取を「退任」する理由

ソフトバンクGの孫正義会長兼社長は、早くから社外取締役を導入。柳井氏をはじめ、かつては日本電産の永守重信会長や日本マクドナルドの藤田田元社長ら、経済界の大物が社外取締役を務めてきたことで知られる。柳井氏の退任にあたり、柳井氏と孫氏の両者の間で直接、話し合いが持たれた模様だ。

ファストリ広報担当者は、柳井氏が退任を申し出た理由として「海外への拠点拡大と国内基盤をより強固にするため、本業に専念したいとお伝えした」と説明。ファストリは2019年にインド、ベトナムなど新たに4カ国に進出。2020年は国内でも大型店舗をオープンするなどビジネスの拡大路線に打って出ているという。
「柳井さんには怒られてばかり」

ソフトバンクGの2020年3月期第2四半期決算は、売上高は前年同期とほぼ横ばい(4兆6517億円)ながら、最終利益は50%減の4216億円と厳しいものだった。孫氏自身が「今回の決算発表の内容は、ボロボロでございます。真っ赤っかの大赤字」と評している。

多額投資をしてきた米WeWorkのずさんな経営による上場延期や、同じく出資をしているインドのOYOグループが本国で訴訟を抱えるなど、ソフトバンクGを取り巻く経営環境は厳しさを増している。

孫氏は第2四半期決算会見の場でこんな言葉を漏らしている。

「SBG の取締役会では毎回、怖い柳井さんという社外取締役の方がいて、いつも口から泡を飛ばして怒られてばかりという状況。そのほかにもたくさん多くの社外役員、あるいは内部の役員も、特に今回 WeWork 問題について疲れ果ててしまうぐらい、ほぼ全員から責め立てられたということで、小さく反省して委縮しておるというのが最近の私自身でございます」(孫正義会長兼社長)

(文・滝川麻衣子、小林優多郎)




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