「三菱地所は、建設中に工事の不具合が発覚したマンション「ザ・パークハウス グラン南青山高樹町」の建て替えを2014年3月17日までに決めた。取り壊しと建設にかかる費用は施工業者の鹿島建設が負担する」
これ、とんでもない額の負担になるんだけど、そこまでしなければならない欠陥ってなんだろうと思ったら、「スリーブ」の位置違いをネットで暴露されたかららしい。
要するに内部の施工業者の誰かが、「よくこんなマンション買うよなw」みたいな書き込みをして発覚したから。
ここで「スリーブ?」と思った人、スリーブの説明を聞いても「相当な負担をしてでも建て替えないといけない理由」がよく理解出来ない人がいるのではないでしょうか。
そこで、元「業者」のますたくんが少しだけ簡単に説明したいと思います。
億ションを建て替えまでさせる「スリーブ」とは何か。
ネットになかなかよろしいスリーブの写真があったのでお借りしました。
この丸い穴がスリーブです。
物は大体が紙です。紙というと柔らかそうですが、カッチンカッチンです。
殴ったら相当な怪我をする位の硬さです。
トイレットペーパーの芯の部分がとても大きくて硬い物を想像してもらえればいいと思います。
穴の大きさはたくさん種類があります。
壁や床に穴を開けるために使うこともあれば、大きな丸い柱を作るために使うこともあります。
今回の場合は、コンクリートの壁に穴を開けるために入れてあるスリーブのことです。
写真を参考にしてもらうとわかりやすいと思うのですが、鉄筋の中に壁になる筈の長さの筒(スリーブ)を差し込んでおきます。この後、枠を建ててその間にコンクリートを流し込むと壁が出来ます。
スリーブが入っている部分にはコンクリートが入らないので、丸く穴が空くわけです。そこに水道やガスの配管を通したり、電気の配管や線を通したりします。
つまり、穴がないと生活に必要な設備が使えません。
ではなぜその穴の為に建て替えまでしなくてはならないか。穴は絶対に必要なら、別に問題なさそうですよね。
はい、また写真を見て下さい。(人の写真を使いまくる)
通常の鉄筋は縦と横に格子で通してあります。
そこにスリーブが入るわけですが、スリーブの周りに斜めに囲むように鉄筋が入ってるのが見えると思います。
硬いコンクリートに穴が空いたくらいでたいしたことなさそうですが、勝手にやったらメチャクチャ怒られます。
穴一つ空けるのも、ちゃんと打ち合わせをして必要な強化が必要なのです。
だから現場監督に施工図面を持って行き、お伺いをたて、小言を言われながら施工するわけです。
今回はそのスリーブの位置が間違っていたらしいので、下手をすると必要なところに設備をつけることが出来なくなっていた。
じょあどうするかというと、必要なところに穴を空けるしかない。この穴を「コア」と言って、その穴をコンクリートに空けるプロを「コア屋」と呼びます。
各施工業者はトラブルがあったりするとコア屋さんに連絡をとり、必要な穴を開けて貰うわけです。分厚いコンクリートに穴を開けるわけですから、それはもう大変な作業です。一個や二個なら自分で開けますが、一個開けるのに下手をすると1時間以上かかることを考えると、仕事を中断するしかないので専門の業者さんに頼んだりします。相場はまちまちですが、俺が頼んでいた方は一本二、三千円から開けてくれました。
ちゃんとスリーブが入っていれば数百円なので痛い出費です。
正直、スリーブ間違いや潰れでコア屋さを使うことは普通です。全ての業者がトラブルがないことは、ちょっと考えられません。
しかし、今回は六千箇所のうち六百が穴がなかったり間違ったりしたということです。これはさすがにヤバイです。少なくとも俺はちょっと聞いたことがないレベルです。
穴間違いなら穴が倍になります。無い穴を空けると、鉄筋を切ってしまいます。しかも補強は入れられません。
つまり建物の強度が下がります。
躯体の建物は高層な場合が多いので、かなり慎重に強度計算がしてあります。
東北の大震災から、更にうるさくなっているはずです。
そこに六百もの穴を空けるとなると、やはり相当な問題だと言われても仕方ありません。しかも億ションです。もしかすると強度的にはギリギリいけてたとしても、風評被害は相当になります。会社が傾きかねない事態でしょう。
そんなわけで今回はかなりの損害を出してでも建て替えになったのでしょう。
ではなぜそんなことがおこったのか。
これは想像でしかありませんが、おそらく製本の途中で配管図が「消えた」んだと思います。
デジタルならではの事象かもしれません。
小さな現場だと、設計、打ち合わせ、製図、現場監督を1人でやることが普通です。
ですが大きな現場になると、設計と打ち合わせ、製図までは1人が担当して、その後の現場管理は別の人間がやることも多いです。そして、現場が動くと図面はどんどん変わっていきます。何度も図面を直すことになります。
俺が業界に入った頃は製図板を使って鉛筆で書いてました。だから図面が変わる度に大変な思いをしてました。
しかし、途中からはパソコンを使ったCADによる図面になっていきました。
これが画期的で、古い配管を消すことも書き足すこともちょちょいのちょいなのです。
レイヤーと呼ばれる機能を使い、古い配管図と新しい配管図を同じ図面に書いていくことも可能です。
そしてこの機能は、全てのもしくは一部の配管を消してしまうことも可能です。
ですから、間違って必要な配管図を製本に落とし込まないこともあり得ます。
書いた本人なら気がつくかもしれませんが、違う人間が直す途中でミスをしても、大きな現場だと気がつかないかもしれませ。なにしろ六千箇所もあったそうです。
簡単にと言いながら、とても長々と書いてしまいました。
「スリーブ」という聞きなれないものが、意外と生活の中で重要なことに使われているというお話しでした。
尚、もう十年以上前の知識になるので、現状と多少の違いがあるかもしれませんが多めに見て下さい。