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・源氏は、
宮の御しとねの、
端から男の書いた手紙を見つけ、
手に取った。
源氏のそばには、
髪をととのえるために、
女房たちがいた。
女房達は、
(何かのご用で、
ご覧になっている手紙だろう)
と何心もなくいるが、
小侍従だけははっとして、
(昨日のお文の色と、
同じだけれど・・・)
と胸がとどろき、
顔色が変わる気がした。
宮はまだお休みになって、
いらっしゃる。
源氏は衝撃を受けていた。
(なぜあの男が・・・)
と思うが、
色にも出さない。
それにしても、
まず考えられたことは、
(拾ったのが自分でよかった)
ということ。
他の人間が拾っていたら、
どんなことになったろう。
忌わしき噂がたちまち、
舞い立っていたかもしれない。
(何という頼りない、
子供っぽいことを。
こんなものを、
何心のそなえもなく、
投げ散らすということが、
あるものだろうか)
女三の宮の幼稚さに、
舌打ちしたい気が起きる。
(前々から、
思わぬことではなかった。
危惧した通りだった)
帰る道々、
源氏は物思いにふけっている。
源氏が帰ったので、
女房達は宮のお側から離れ、
人少なになった。
小侍従は急いでお側へ寄り、
「昨日のお文は、
どう遊ばしました。
今朝源氏の院がご覧になっていた、
お文の色が似ておりましたけれど」
と申し上げると宮は、
「えっ」
とびっくりなさって、
それでは、
源氏のお手に渡ったのかと、
驚きと恐ろしさで涙をこぼされる。
おいたわしいものの、
小侍従は、
(ま、なんと他愛のない、
頼りない方でいらっしゃるのか)
といらいらした。
「どこへお置きになりました?
あの時、
人がお側へ参りましたので、
わけありげに宮さまの側に、
いては怪しまれると、
私は気を遣って離れたので、
ございます。
あれから源氏の院の、
おいでまでに少し、
時間がございましたから、
きっとうまくお隠しになった、
とばかり思っていましたのに」
小侍従に言われて、宮は、
「あの手紙を見ているうちに、
源氏の院が入っていらしたので、
すぐに隠すことは出来なかったの。
しとねの下に挟んだのを、
忘れてしまって・・・」
と涙をこぼしながら言われる。
小侍従は呆れて、
言葉も出てこない。
しとねに寄って、
さがしてみたけれど、
あろうはずはなく、
「まあ、大変なこと。
あの方とお逢いになって、
まだそんな月日も経っていない、
ではありませんか。
それなのに、
もうこんな失敗が起きるなんて。
すべて宮さまの子供っぽさが、
原因です。
宮さまが、うっかりあの方に、
お姿を見られなすった不用意が、
いけなかったのです。
あの方はそれ以来、
宮さまを忘れられなくなって、
ずっと私に、逢わせよと、
恨みごとばかり言ってられました。
こんなにまで、
深いりなさるなんて、
思ってもいませんでした。
とんだことになってしまいました。
源氏の院は、
秘密をお知りになったに、
違いありません。
宮さまにも、
あの方にも、
最悪の状態になってしまいました」
小侍従はずけずけと言った。
小侍従は心底、宮を案じて、
思ったとおりしゃべった。
宮はお返事もなく、
ただ、泣いてばかり。
他の女房たちには、
ことの次第はわからない。
非常に宮のご気分が悪く、
ものも召しあがらないので、
「こんなにお加減が悪いのに、
院は打ち捨てられて、
紫の上のお世話ばかり」
などと源氏を非難していた。
源氏は例の手紙について、
まだ不審が解けない。
(あの柏木が。
あの宮と)
源氏は人のいないところで、
手紙をくり返し眺めた。
長いあいだ、
恋焦がれていた苦しさ、
やっとのことで望みが叶って、
それゆえになお、
逢えぬ日の辛さ恨めしさ、
それらを綴っている恋文は、
真率な迫力にみち、
読む者の心を打ちはするが、
恋文に、
かくも麗々しく人の名を、
書く馬鹿者があろうか。
かの青年ほどの、
聡明な男が相手の女人への、
思いやりに欠けるではないか。
源氏は、
好感を抱いていた青年だけに、
見落とす心地になった。
それにしても、
宮をこれからどう扱えば、
いいのか・・・
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(次回へ)