全国交通ニュースブログ

パンタグラフ充電のEVバス、今度こそ日本の公道で運行されるか? <10/4追記あり>

東芝と川崎鶴見臨港バスなどは2024/10/2付で以下のリリース文を出しました。

約10分で充電可能な超急速充電EVバス運行の実証事業開始に向け共同検討を合意

パンタグラフ式充電器で充電したEVバスを用いて、日本で初めて公道での商業運行を含め実証を目指すものです。この充電器は大電力を短時間で充電でき、従来のEVバスでは数時間かかっていた充電時間を約10分にまで短縮します。川崎鶴見臨港バスで従来から走っているディーゼルバスをEVバスに改造し、バス営業所内に充電器を設置する計画となっており、実証運行開始は2025/11目標です。

さて私は、このリリース文から「2020年の東京五輪を前に、さいたま市と住友商事が埼玉高速鉄道浦和美園駅~さいたま新都心駅<いずれも五輪会場に近い>で進める予定だったプロジェクト」をすぐに想起しました・・・キーワードは「パンタグラフがついたバス」です。

2017/10/7付の日経電子版に掲載された内容によれば、

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO21985290W7A001C1L72000/

埼玉高速鉄道の電車がブレーキをかける際に発電する「回生電力」を、パンタグラフを通じて浦和美園駅バスターミナルに設置する次世代蓄電池に回収。パンタグラフ接触式充電器で、電気バスに5分以内に超急速充電するシステムを構築する。次世代蓄電池は東大発ベンチャーのエクセルギー・パワー・システムズ(東京・文京)が製作する。

17年度は充電器やバスのバッテリーなどの開発を進め、18年秋には超急速充電システムを設置し、実証実験を開始。19年度には浦和美園駅とJRさいたま新都心駅間の10.9キロメートルで、実際に客に乗ってもらう。20年度の商業運行を目指しており、国土交通省にも支援を要請する方針だ。

とあります。日経BP総合研究所の「新・公民連携最前線」のサイトにも同じころに記事が掲載されました。但し、掲載当時はリンク先に存在したはずの住友商事およびさいたま市の資料はいずれもすでに失われています。

https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/news/101300483/

しかし、残念ながらこのパンタグラフ付きEVバスは実際にお客さんを乗せて走るどころか、実車が登場することもなくプロジェクトごとフェードアウトしてしまった模様です・・・プロジェクト中止に関する報道はついぞなし  エクセルギー・パワー・システムズ社はこのブログ記事を書いている時点でもパワー型蓄電池を活用した分散型バックアップサービスを提供する会社として存在していますが、本件に関連したコンテンツは見当たりません。

ちなみに、EVバス自体は確かに2018年秋に浦和美園駅付近を「自動運転バスの実証実験」として走行していますが、その車両はバスというよりグリスロ(2022/12/2付ブログ記事「シンクトゥギャザー社製のグリスロはあちこちで活躍中」参照)であり、走路は浦和美園駅に隣接した歩行者専用道路でした・・・

https://www.s-rail.co.jp/about/csr/auto-driving-vehicle-demo.php

 

<10/4追記>

環境省のサイト内に、さいたま市と住友商事が進めていたEVバスプロジェクトが不成功に終わったことに関する資料が掲載されていたので、紹介します。

【課題名】電動バス普及拡大に繋がる電車回生電力を活用した超急速充電交通インフラの開発・実証 (委託・補助)

総事業費は約18億1500万円で、このうち委託事業・補助事業合わせて約6億7230万円を環境省他の補助で賄いました。

そして、「次世代蓄電池の開発」→「この蓄電池からの電動バスのパンタグラフ超急速充電試験<合格判定>」→「鉄道システムとの連携試験の実施<合格判定>」までは到達しました。

しかし、ここでコロナ禍に突入し2か月超の作業中断期間が生じ、その間に蓄電池の一部セルが機能不全・劣化に陥るという事象が発生しました。原因は「長期放置に伴う負極の酸化」であることは判明しましたが、解決策の実行にまでは至りませんでした。

最後のページの「CO2排出削減対策技術評価委員会による終了課題事後評価の結果」に、以下のような内容が記載されています。

[今後の課題]
- 本事業の主要な課題である鉄道の回生電力を蓄電する次世代蓄電池システムの開発では、新型コロナウイルスの感染防止策に起因する長時間の充電停止状態によって進行した劣化の原因解明と、実用化に関わる課題と対策の整理が必要とされた。劣化の原因は一通り解明されたものと判断するが、実用面での対策については、設計自体の見直しや、製造方法、メンテナンス等の面でなお解決すべき課題が残っている。これらを解決した上で、回生電力を活用して電動バスを運行するコンセプトは維持しつつ、脱炭素に積極的な自治体や協業する企業の参画等の体制の組み替えも含めて、早期の事業化に向けた課題の整理と事業計画の見直しが必要である。特に蓄電池については品質や量産の面で実績のある企業との連携も検討すべきである。
- 本事業が目指す地域の公共交通インフラとして社会実装しつつCO2削減に貢献するためには、適用サイトにおけるコスト回収に数十年を要する浦和美園駅ではなく、具体例として検討したコスト回収年が短く事業性が高い三軒茶屋駅を選定し、関係者を牽引しながら得られた課題を早急に解決して具体化を進めることを期待する。
[その他特記事項]
- 鉄道車両の回生電力をバスの電動化に利用するというCO2削減に対する斬新な構想に対して、次世代蓄電システムの開発が未達成であったことから、鉄道からの電力回収から電動バスの運行にわたる一連の実証を行うことが出来なかったことは残念である。
- 開発技術の成果発表が企業の広報ページのみでは、対外発表の努力をしているとは評価できない。国費による技術開発・実証であり、本事業を通して得られた成果を公表する努力が必要である。

このプロジェクトの顛末が全く話題にならなかったのは、最後の一節にあるように住友商事の企業広報ページのみで結果を公表し、報道発表を(さいたま市も含めて)実施しなかったことに尽きます。

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