みづかがみ【水鏡】
萩原義雄識
夜の月が池や湖の水面に映るとき、人は此の景観を「水鏡」と呼称してきた。
茲に、『金光明最勝王経』卷二に、
○善男子。譬。如日月無有分別。亦如水鏡無有分別。光明亦無分別。三種和合得有影生。
○善男子キヽ玉ヘ。譬(タトヘ)バ。如ク三日-月ノ。無(ナキ)ガレ有二分別一。亦( タ)。如クニ三水鏡(ミヅカヾミ)ミヅニヤドレルツキヒヲノ二無(ナキ)ガレ有(アル)コト分-別一。光-明マタヽク。テリカヽヤケルヒカリトテモトテモ。亦( タ)。無(ナケレ)トモキヲ以分-別アルコト。三-種タイサウイヨウノサンジン。和-合シヌレバ得(ウル)ヲ以ガ如シ三有(アル)コトヲ二影(カゲ)生ズルコト一▲。〔宝暦十年刊・架蔵本〕
【訓読】
善男子キヽ玉ヘ。譬(タトヘ)バ。日-月ノ。分別有無(ナキ)ガ如ク。亦(まタ)。水鏡(ミヅカヾミ)ミヅニヤドレルツキヒヲノ分-別有(アル)コト無(ナキ)ガ如クニ。光-明マタヽク。テリカヽヤケルヒカリトテモトテモ。亦(まタ)。分-別アルコト無(ナケレ)どもキヲ以。三-種▲タイサウイヨウノサンジン。和-合シヌレバ得(ウル)ヲ影(カゲ)生ズルコト▲有(アル)コトヲ以ガ如シ。
となっている。和語名詞「みづかがみ【水鏡】」の左訓語注記には、「ミヅニヤドレルツキヒ」と記述する。
他に、「水鏡(ミヅカヾミ)ケシンハ」と云う語例を見る。此のように、左訓和解注記については是れまで国語辞書の意義説明や補記などには反映されることが少なかったと考えている。その点を明らかにし、此れらの和解の注記表現を次に文藝資料などにどのようなかたちで投影されているのかへと繋げていければと考えている。
《補助資料》
小学館『日本国語大辞典』第二版
みず-かがみ[みづ‥]【水鏡】【一】〔名〕静かに澄んでいる水面に物の影がうつって見えること。また、水面に顔や姿などをうつして見ること。また、その水面。*恵慶集〔九八五(寛和元)~九八七(永延元)頃〕「天の河影を宿せる水かかみたなばたつめの逢瀬しらせよ」*謡曲・井筒〔一四三五(永享七)頃〕「井筒に寄りて〈略〉互に影を水鏡、面を並べ袖を掛け」*俳諧・犬子集〔一六三三(寛永一〇)〕三・杜若「水かかみ見てやたしなむ皃(かほ)よ花〈宗俊〉」*ありのすさび〔一八九五(明治二八)〕〈後藤宙外〉三「汀(みぎは)に水鏡して」【二】鎌倉初期の歴史物語。三巻。作者は中山忠親説、源雅頼説などがある。成立年代未詳。内容は神武天皇から仁明天皇までの五五代(弘文天皇を除き、神功皇后・飯豊天皇を含む)、約一五〇〇年間の事跡を編年体に記したもので、鏡物では最も古い時代を扱っている。【発音】ミズカガミ〈標ア〉[カ]〈京ア〉[カ]【辞書】日葡・ヘボン・言海【表記】【水鑑】ヘボン【水鏡】言海
すい-きょう[‥キャウ]【水鏡】〔名〕(1)水面に物の影が映って見えること。みずかがみ。*懐風藻〔七五一(天平勝宝三)〕在常陸贈倭判官留在京〈藤原宇合〉「公潔等二氷壺一、明逾二水鏡一」*本朝文粋〔一〇六〇(康平三)頃〕一・織女石賦〈菅原文時〉「空想二河鼓一以亘眺、亦対二水鏡一以下臨」*張九齢-和吏部李侍郎見示秋夜望月詩「光逐二露華満一、情因二水鏡揺一」(2)(水がありのままに物の姿をうつすところから)物事をよく観察し、その真状を見抜き、人の模範となること。また、その人。*世説新語-賞誉「衛伯玉為二尚書令一〈略〉命二子弟一造レ之曰、此人、人之水鏡也。見レ之若三披二雲霧一覩二青天一」(3)月の異称。*性霊集-一〇〔一〇七九(承暦三)〕故贈僧正勤操大徳影讚「団々水鏡空而仮、灼々空花亦不レ真」*布令字弁〔一八六八(明治元)~七二〕〈知足蹄原子〉三「水鏡 スイキャウ ツキノコト」*謝荘-月賦「柔祇雪凝、円霊水鏡」【発音】スイキョー〈標ア〉[0]
萩原義雄識
夜の月が池や湖の水面に映るとき、人は此の景観を「水鏡」と呼称してきた。
茲に、『金光明最勝王経』卷二に、
○善男子。譬。如日月無有分別。亦如水鏡無有分別。光明亦無分別。三種和合得有影生。
○善男子キヽ玉ヘ。譬(タトヘ)バ。如ク三日-月ノ。無(ナキ)ガレ有二分別一。亦( タ)。如クニ三水鏡(ミヅカヾミ)ミヅニヤドレルツキヒヲノ二無(ナキ)ガレ有(アル)コト分-別一。光-明マタヽク。テリカヽヤケルヒカリトテモトテモ。亦( タ)。無(ナケレ)トモキヲ以分-別アルコト。三-種タイサウイヨウノサンジン。和-合シヌレバ得(ウル)ヲ以ガ如シ三有(アル)コトヲ二影(カゲ)生ズルコト一▲。〔宝暦十年刊・架蔵本〕
【訓読】
善男子キヽ玉ヘ。譬(タトヘ)バ。日-月ノ。分別有無(ナキ)ガ如ク。亦(まタ)。水鏡(ミヅカヾミ)ミヅニヤドレルツキヒヲノ分-別有(アル)コト無(ナキ)ガ如クニ。光-明マタヽク。テリカヽヤケルヒカリトテモトテモ。亦(まタ)。分-別アルコト無(ナケレ)どもキヲ以。三-種▲タイサウイヨウノサンジン。和-合シヌレバ得(ウル)ヲ影(カゲ)生ズルコト▲有(アル)コトヲ以ガ如シ。
となっている。和語名詞「みづかがみ【水鏡】」の左訓語注記には、「ミヅニヤドレルツキヒ」と記述する。
他に、「水鏡(ミヅカヾミ)ケシンハ」と云う語例を見る。此のように、左訓和解注記については是れまで国語辞書の意義説明や補記などには反映されることが少なかったと考えている。その点を明らかにし、此れらの和解の注記表現を次に文藝資料などにどのようなかたちで投影されているのかへと繋げていければと考えている。
《補助資料》
小学館『日本国語大辞典』第二版
みず-かがみ[みづ‥]【水鏡】【一】〔名〕静かに澄んでいる水面に物の影がうつって見えること。また、水面に顔や姿などをうつして見ること。また、その水面。*恵慶集〔九八五(寛和元)~九八七(永延元)頃〕「天の河影を宿せる水かかみたなばたつめの逢瀬しらせよ」*謡曲・井筒〔一四三五(永享七)頃〕「井筒に寄りて〈略〉互に影を水鏡、面を並べ袖を掛け」*俳諧・犬子集〔一六三三(寛永一〇)〕三・杜若「水かかみ見てやたしなむ皃(かほ)よ花〈宗俊〉」*ありのすさび〔一八九五(明治二八)〕〈後藤宙外〉三「汀(みぎは)に水鏡して」【二】鎌倉初期の歴史物語。三巻。作者は中山忠親説、源雅頼説などがある。成立年代未詳。内容は神武天皇から仁明天皇までの五五代(弘文天皇を除き、神功皇后・飯豊天皇を含む)、約一五〇〇年間の事跡を編年体に記したもので、鏡物では最も古い時代を扱っている。【発音】ミズカガミ〈標ア〉[カ]〈京ア〉[カ]【辞書】日葡・ヘボン・言海【表記】【水鑑】ヘボン【水鏡】言海
すい-きょう[‥キャウ]【水鏡】〔名〕(1)水面に物の影が映って見えること。みずかがみ。*懐風藻〔七五一(天平勝宝三)〕在常陸贈倭判官留在京〈藤原宇合〉「公潔等二氷壺一、明逾二水鏡一」*本朝文粋〔一〇六〇(康平三)頃〕一・織女石賦〈菅原文時〉「空想二河鼓一以亘眺、亦対二水鏡一以下臨」*張九齢-和吏部李侍郎見示秋夜望月詩「光逐二露華満一、情因二水鏡揺一」(2)(水がありのままに物の姿をうつすところから)物事をよく観察し、その真状を見抜き、人の模範となること。また、その人。*世説新語-賞誉「衛伯玉為二尚書令一〈略〉命二子弟一造レ之曰、此人、人之水鏡也。見レ之若三披二雲霧一覩二青天一」(3)月の異称。*性霊集-一〇〔一〇七九(承暦三)〕故贈僧正勤操大徳影讚「団々水鏡空而仮、灼々空花亦不レ真」*布令字弁〔一八六八(明治元)~七二〕〈知足蹄原子〉三「水鏡 スイキャウ ツキノコト」*謝荘-月賦「柔祇雪凝、円霊水鏡」【発音】スイキョー〈標ア〉[0]
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