先日のUSエアウェイズがハドソン河に不時着水したニュースには釘付けになった。我々にとっては他人事とは思えない。毎年、かなりの回数飛行機を利用するからだ。
氷点下8度にもなる寒さの中、乗客、乗員合わせて155人全員が無事救出されたのはまさに奇跡。ニューヨーク知事が「ハドソン河の奇跡」と讃えたのにもうなずける。機長の英断と高い操縦技術、それに一般フェリー会社などの迅速な救助。
事故の発端はエンジンが鳥を吸い込んだ為による。片方なら片肺飛行で飛行場に引き返すことが可能らしいが、この事故の場合、両方のエンジンに鳥が吸い込まれエンジンが停止したとのこと。鳥は群れで飛ぶことが多いので、そういったことはありうるのだろう。
鳥の種類は未だ明らかにされていないが、恐らくカモメなどの水鳥との見方が多い。
元々、飛行場は水鳥が生息する、干潟などを埋め立てて作ったところも多く、いわば水鳥のテリトリーに飛行場が進出したのだ。或いは内陸部に飛行場がある場合でも比較的早い段階で海上に出て飛行ルートを取ることが多い。
飛行機が鳥に衝突したり吸い込んだりすることを、この程初めて耳にしたが、バードストライクと言うらしい。
ストライクと言うより鳥にしてみればむしろデッドボールではないのか?
そのバードストライクがアメリカで1990年から2003年までの間に51,000件も起きている。ポルトガルでは2008年1年間で126件。日本は2007年1年間だけで1320件と多い。
干潟だけではなく、大空は元々鳥のテリトリーだ。そこに人類が進出したのだ。
地球は人類だけの星ではない。
地球上に現在人類は70億。鳥は恐らくそれを遥かにしのぐ。鳥類は約1万種いると言われている。それが毎年1,1パーセントずつ減少している。3日に1種ずつ希少種が姿を消している勘定だ。
鳥の希少種の減少。これは人類の身勝手によるところも大いにある。
農薬や化学肥料による昆虫など餌の減少は勿論のこと、例えばあの可愛らしいツノメドリ。ツノメドリの生息地、カナダ沖などで獲れる子持ちシシャモを好んで食べるのは日本人だ。僕も大好物だが、子持ちでないと売り物にならないらしい。漁船は網ですくって子持ちでないオスはすぐ海に捨てる。それを目がけてカモメが安直に餌にありつく。カモメは増える。増えたカモメはツノメドリの卵も狙う。希少種のツノメドリの数は減少する。
昔、南米を旅行中に「インコを買わないか?」と声をかけられたことがある。
男の肩には鮮やかな色彩のインコが乗っていた。
インドネシアでは鳥市を見学に行ったことがあるが、珍しい鳥がたくさんいたので、熱心に見ていると、「こっちにもっと珍しいのがいるよ」と少年から声をかけられた。少年が鳥かごの覆いを外すと希少種のサイチョウがいて驚いたことがある。
両方とも勿論、ワシントン条約に違反する行為だろう。
昔、ニューヨークに住んでいる時、「街に増えすぎた鳩は汚らしくて病原菌を運ぶドブネズミと同じだ」と言った人がいる。
マンハッタンは鳩の天国だ。その豊富な鳩を餌にハヤブサなどの猛禽類が住み着いている。ハヤブサにしてみればマンハッタンの摩天楼は断崖絶壁の岩場同様なのだ。
我が家の周りでも鳩に毎日餌をやる人がいる。
鳩が増える。そうすると元々居た、或いは毎年渡って来ていた野鳥のテリトリーを脅かし、野鳥は減少する。
以前はセトゥーバルの中心ボカージュ広場のキオスクで鳩の餌を売っていたが、最近は売られていない。
鳩は人に狎れ、キオスクの売り手の目を盗んで売り物の餌の袋を突っつく。増えすぎると手がつけられない。
それに鳩が増えすぎると自然の生態系を崩す。と理解が深まったためだろうか。
という僕自身も以前、ストックホルムでは船着場まで行ってカモメに餌をやったり、セトゥーバルのルイサ・トディ大通り公園の鳩にパンくずをやったりもした。
以前、宮崎では山の中に住んでいたので、いろんな野鳥を楽しむことができた。
庭の鯉の池にはその稚魚を狙ってゴイサギだけでなく、カワセミなども姿を見せていたし、壊れた雨どいにはシジュウカラが巣を作って子育てをしていた。
庭で椿の移植をしていると、堀りあげた土にルリビタキが乗っかって首をかしげ不思議そうな目でこちらを見ていたこともある。
ピヨロロ~と鳴き声と共に真っ赤なアカショウビンが庭の上空を横切る。キビタキ、ジョウビタキ、数種類のセキレイそれに冬には野雁など、野鳥は本当に可愛いものだ。
人というものを見たことがなくて怖がらない鳥は可愛いが、人の存在を知っていて怖がらない団体の鳥は恐ろしくて厄介だ。
カラス、鳩、カモメなどがそれだ。
オーストラリアでは何百羽もの群れになったインコがトウモロコシ畑やピーナッツ畑を襲う。
ポルトガルでは、最近はフラミンゴの観察に行ったり、コウノトリを見たり、メルロや黄色い斑の野鳥の歌声などは我が家に居ながらにして楽しむことができる。
今も我が家の前の広間の空間を5羽のカモメが飛び交い、電線には19羽もの鳩が1列に並び、筋向いのおばさんがパンくずを放り投げるのを待っている。
メルカドの上空あたりには100羽ほどの鳩の群れが旋回している。
我が家の東南側は松林になっていて、昨年は数十本の松の木が伐られたがまだ5本の大木が残っている。
その松林は毎年、野鳥の繁殖地になって、たくさんの新しい生命が巣立っていく。
松林の中では今もシラコバトやメルロなどの野鳥がたぶんカモメなどの大型鳥を恐れてひっそりとしているのだろう。
我が家の前の松林に住み着いている白子鳩(ベランダから撮影)
幸いセトゥーバルにはカラスは居ない。郊外には少しは居ても群れになることはない。
冬場の今の時期、アレンテージョでは狩猟期だ。
メルカドの鶏肉屋の店先に毛皮が付いたままの野ウサギと共に、美しい羽根、羽毛のキジなどの野鳥も売られている。
何でも過剰な保護をすると生態系を壊す。可愛がったり食べたり、難しいところだ。
干潟近くの飛行場では野鳥を追い払う為に空砲を撃つのにかなりの人手と経費を使うと言う。
それでも年間1,320件ものバードストライクが日本国内だけで起こっている。
これだけバードストライクが多いのであれば大惨事が起る前にその対策は急がれてしかるべきだ。
ジープがヘッドライトの前に付けている金網のプロテクターの様なものを、航空機のエンジンの前に取り付けるというアイデアはどうだろう。鳥を吸い込むのではなく、跳ね飛ばすということになるだろう。何れにしろ鳥には気の毒な話には違いないのだが…。
寒さに弱い僕などは氷点下8度のハドソン河に不時着水したエアバスの、テレビ画像を見ただけで全身が凍りついてしまった。
VIT
オバマ大統領の就任式に当のチェスリー・B・サレンバーガー三世機長が招待されたことはニュースでも伝えられた。
その後のインターネットでのニュース [iza] にこんな見出しの記事が
<鳥に復讐!奇跡の機長「チキン」ガブリ!>
=就任式の前日、ワシントンのレストランで一緒に乗り合わせていた一部の乗客や乗務員と食事を共にしたらしい。
居合わせた他の客たちはサレンバーガー機長に握手を求めたりしたが、サレンバーガー機長は目の仇の如く料理された鳥にかぶりついていたとのこと。
そのレストランの名前が<ハドソン>・・・「ほんまかいな!」=
とコメントも付けられていた。
(この文は2009年2月号『ポルトガルの画帖』の中の『端布れキャンバスVITの独り言』に載せた文ですが2019年3月末日で、ジオシティーズが閉鎖になり、サイト『ポルトガルの画帖』も見られなくなるとの事ですので、このブログに転載しました。)
武本比登志のエッセイもくじへ
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます