予防接種法(昭和二十三年法律第六十八号)
(定義)
第二条 この法律において「予防接種」とは、疾病に対して免疫の効果を得させるため、疾病の予防に有効であることが確認されているワクチンを、人体に注射し、又は接種することをいう。
2 この法律において「A類疾病」とは、次に掲げる疾病をいう。
一 ジフテリア
二 百日せき
三 急性灰白髄炎
四 麻しん
五 風しん
六 日本脳炎
七 破傷風
八 結核
九 Hib感染症
十 肺炎球菌感染症(小児がかかるものに限る。)
十一 ヒトパピローマウイルス感染症
十二 前各号に掲げる疾病のほか、人から人に伝染することによるその発生及びまん延を予防するため、又はかかった場合の病状の程度が重篤になり、若しくは重篤になるおそれがあることからその発生及びまん延を予防するため特に予防接種を行う必要があると認められる疾病として政令で定める疾病
3 この法律において「B類疾病」とは、次に掲げる疾病をいう。
一 インフルエンザ
二 前号に掲げる疾病のほか、個人の発病又はその重症化を防止し、併せてこれによりそのまん延の予防に資するため特に予防接種を行う必要があると認められる疾病として政令で定める疾病
4 この法律において「定期の予防接種」とは、次に掲げる予防接種をいう。
一 第五条第一項の規定による予防接種
二 前号に掲げる予防接種に相当する予防接種として厚生労働大臣が定める基準に該当する予防接種であって、市町村長以外の者により行われるもの
5 この法律において「臨時の予防接種」とは、次に掲げる予防接種をいう。
一 第六条第一項又は第三項の規定による予防接種
二 前号に掲げる予防接種に相当する予防接種として厚生労働大臣が定める基準に該当する予防接種であって、第六条第一項又は第三項の規定による指定があった日以後当該指定に係る期日又は期間の満了の日までの間に都道府県知事及び市町村長以外の者により行われるもの
6 この法律において「定期の予防接種等」とは、定期の予防接種又は臨時の予防接種をいう。
7 この法律において「保護者」とは、親権を行う者又は後見人をいう。
第三章 定期の予防接種等の実施
(市町村長が行う予防接種)
第五条 市町村長は、A類疾病及びB類疾病のうち政令で定めるものについて、当該市町村の区域内に居住する者であって政令で定めるものに対し、保健所長(特別区及び地域保健法(昭和二十二年法律第百一号)第五条第一項の規定に基づく政令で定める市(第十条において「保健所を設置する市」という。)にあっては、都道府県知事)の指示を受け期日又は期間を指定して、予防接種を行わなければならない。
2 都道府県知事は、前項に規定する疾病のうち政令で定めるものについて、当該疾病の発生状況等を勘案して、当該都道府県の区域のうち当該疾病に係る予防接種を行う必要がないと認められる区域を指定することができる。
3 前項の規定による指定があったときは、その区域の全部が当該指定に係る区域に含まれる市町村の長は、第一項の規定にかかわらず、当該指定に係る疾病について予防接種を行うことを要しない。
なので、HPVワクチンは「定期の予防接種」です。
また、
市町村長は予防接種法第五条一項の規定があるので、
HPVワクチンの「定期の予防接種」を実施しています。
お住まいの市町村区の広報紙・広報誌をご覧ください。
HPVワクチンの「定期の予防接種」について、載っています。
(予防接種を行ってはならない場合)
第七条 市町村長又は都道府県知事は、第五条第一項又は前条第一項若しくは第三項の規定による予防接種を行うに当たっては、当該予防接種を受けようとする者について、厚生労働省令で定める方法により健康状態を調べ、当該予防接種を受けることが適当でない者として厚生労働省令で定めるものに該当すると認めるときは、その者に対して当該予防接種を行ってはならない。
(予防接種の勧奨)
第八条 市町村長又は都道府県知事は、第五条第一項の規定による予防接種であってA類疾病に係るもの又は第六条第一項若しくは第三項の規定による予防接種の対象者に対し、定期の予防接種であってA類疾病に係るもの又は臨時の予防接種を受けることを勧奨するものとする。
2 市町村長又は都道府県知事は、前項の対象者が十六歳未満の者又は成年被後見人であるときは、その保護者に対し、その者に定期の予防接種であってA類疾病に係るもの又は臨時の予防接種を受けさせることを勧奨するものとする。
(予防接種を受ける努力義務)
第九条 第五条第一項の規定による予防接種であってA類疾病に係るもの又は第六条第一項の規定による予防接種の対象者は、定期の予防接種であってA類疾病に係るもの又は臨時の予防接種(同条第三項に係るものを除く。)を受けるよう努めなければならない。
2 前項の対象者が十六歳未満の者又は成年被後見人であるときは、その保護者は、その者に定期の予防接種であってA類疾病に係るもの又は臨時の予防接種(第六条第三項に係るものを除く。)を受けさせるため必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
つまり、
各々の被接種者やその保護者は、接種する法的義務を負っていません。
接種する法的義務を課してしまうと、健康被害が生じたときの扱いが極めてややこしい(今の判例法理でも無茶がある)ので。
仔細は
に詳しい。
(定期の予防接種等の適正な実施のための措置)
第十三条 厚生労働大臣は、毎年度、前条第一項の規定による報告の状況について厚生科学審議会に報告し、必要があると認めるときは、その意見を聴いて、定期の予防接種等の安全性に関する情報の提供その他の定期の予防接種等の適正な実施のために必要な措置を講ずるものとする。
2 厚生科学審議会は、前項の規定による措置のほか、定期の予防接種等の安全性に関する情報の提供その他の定期の予防接種等の適正な実施のために必要な措置について、調査審議し、必要があると認めるときは、厚生労働大臣に意見を述べることができる。
3 厚生労働大臣は、第一項の規定による報告又は措置を行うに当たっては、前条第一項の規定による報告に係る情報の整理又は当該報告に関する調査を行うものとする。
4 厚生労働大臣は、定期の予防接種等の適正な実施のため必要があると認めるときは、地方公共団体、病院又は診療所の開設者、医師、ワクチン製造販売業者(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和三十五年法律第百四十五号)第十二条第一項の医薬品の製造販売業の許可を受けた者であって、ワクチンの製造販売(同法第二条第十三項に規定する製造販売をいう。附則第六条第一項において同じ。)について、同法第十四条の承認を受けているもの(当該承認を受けようとするものを含む。)をいう。第二十三条第五項において同じ。)、定期の予防接種等を受けた者又はその保護者その他の関係者に対して前項の規定による調査を実施するため必要な協力を求めることができる。
第六章 雑則
(国等の責務)
第二十三条 国は、国民が正しい理解の下に予防接種を受けるよう、予防接種に関する啓発及び知識の普及を図るものとする。
2 国は、予防接種の円滑かつ適正な実施を確保するため、予防接種の研究開発の推進及びワクチンの供給の確保等必要な措置を講ずるものとする。
3 国は、予防接種による健康被害の発生を予防するため、予防接種事業に従事する者に対する研修の実施等必要な措置を講ずるものとする。
4 国は、予防接種による免疫の獲得の状況に関する調査、予防接種による健康被害の発生状況に関する調査その他予防接種の有効性及び安全性の向上を図るために必要な調査及び研究を行うものとする。
5 病院又は診療所の開設者、医師、ワクチン製造販売業者、予防接種を受けた者又はその保護者その他の関係者は、前各項の国の責務の遂行に必要な協力をするよう努めるものとする。
この他、費用負担周りの規定(被接種者やその保護者への費用負担はゼロ)もあり。しかし、罰則規定はなし。
この通り、
厚労省が予防接種に関して使えるカードは、決して多くはない。予防接種法では、一歩引いた立場にあるから。
そのため、
厚労省ができる不作為も、決して多くはない。
そもそも、法文で接種すべきワクチンが定められている以上、
厚労省はそれらの接種を「なし」にも「なかったこと」にも、
できない(費用負担の拒否も不可)。
だからこそ、今でも各市町村区の広報誌・広報紙では、HPVワクチン接種できる旨の案内が掲載されている。
「接種したい人の希望を阻害しなかった」の法的背景は、予防接種法の定義規定(第二条)と第五条を含む法規範にある。
もし、厚労省が予防接種法に基づく予防接種にブレーキを掛ける必要性に気付いたとき、厚労省には如何なるカードを使えるか。
真っ先に出てくる手立ては、
予防接種法の改正。
たしかに、強力なカードです。
しかし、法案作り・審議は、とてつもなく面倒です。閣議決定も必要です。
たとえ睡眠時間削っても、
国会情勢次第で、法案がお流れになる事もある。
実際のところ、
厚労省は、
日本の行政法ではなじみ深い
「緩い」カード
を編み出し、使った。
それが、
市町村に対する行政指導
「積極的勧奨の差し控え」
です。
行政指導については、
行政手続法
(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
(中略)
六 行政指導 行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導、勧告、助言その他の行為であって処分に該当しないものをいう。
に詳しい。
つまり、行政指導自体は、新たな法的義務を生じさせない。
第四章 行政指導
(行政指導の一般原則)
第三十二条 行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、いやしくも当該行政機関の任務又は所掌事務の範囲を逸脱してはならないこと及び行政指導の内容があくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであることに留意しなければならない。
2 行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない。
なので、その効果は、
「お勧めしないが、接種したい該当年齢の人は無料でいつでもできるよ」
という一言に尽きます。
日本の行政法ではなじみ深いソフトなカード
行政指導
行政指導の利点は、
(阿吽の呼吸で)ソフトに事を進めることができるところ。
行政指導を受ける側に立ってもう少し踏み込むと、
行政指導の内容やその背景から、
行政機関の腹の内を探り当てやすく、
その結果、行政機関との認識・見解の相違を解消しやすい、
という利点もあります。
……話を戻すと、
厚労省による「お勧めしない」という意見から、
各市町村区は、
「HPVワクチン、やっぱりヤバいのか」
という見立てになったのでしょう(担当者たちは立場上、医療界隈からの噂話が耳に入りやすいですし。特に、保健所設置市(保健所政令市))。
現在では、
HPVワクチン接種の際、
電話問い合わせ必須の自治体が大半です。
当方の見立てとして、
あの積極的勧奨の差し控えは、
厚労省が予防接種法の枠内でなしうる
HPVワクチン予防接種に対する最大の抵抗だった、
と。