街の友人が 遊びにきた。久しぶりだったので 智をてばなしたくなかった。
「いいんだろう。急いで帰らなくても。」
「いいさ。喧しいから お前帰れと言われない限り なんにちでも どうだ。
養ってくれるか。」
「こいつめ。お前の魂胆派かっているんだ。 西の海だろう。」
「そういえば 『西の海』の香りがいいじゃないか。其れだよ。」
「善也に知らせておこう。善也はもぐりの名人だ。 酒の肴に イセエビの生きつくりは
どうじゃ。」
善也は 二つ返事で 夕方までには 間に合わせるから 待たせておけ。ということになって
その夜は さしぶりの 宴会となった。海人はこうして友を迎える。
寄せ手は返す 波の音も肴に市ながら われわれの心は どこかに土去ってしまったようだ。
偶々いわわせた彦爺さんの三味のねがさえるころには 朧月が三本松の枝にかかって
絶景である。
「お前は ええ男や。」智はすっかり善也にほれ込んだらしい。
海の分かれは 名残が惜しい。長い汽笛をふかしながら 長水丸は駄々こねる友を
さらうように 連れ去った。「おーい 今度来るときゃ 嫁連れてこいや。」