はな to つき

花鳥風月

Gravity Blue 9

2012-05-05 11:01:17 | 【Gravity Blue】
「何か目的がありそうね、今回は。」
私は言う。

「さすがは、泉ね。」
彼女は、私の反応を見透かしていたかのように言った。
「相変わらず敏感ね。
本当に、あなたは一家に一台あると重宝するって感じよ。
というより、わたしに一人かな。」

彼女は自分でも気付いているのだろうか。
そこで、とてつもない大きなうねりのようなものが待ち受けていることを。
そして、それを承知で、敢えてそこに飛び込もうとしているのだろうか。
だとすれば、彼女のことだから止めても無駄だろう。
それに、彼女が望んでいることなら、
それを妨げる資格は、私にも、誰にもない。

解ってはいる。

でも、今の私は、彼女の持っているどんな国家資格よりも、
彼女を説得できるだけの根拠と話術が、欲しかった。

「教会を見に行くの。」
彼女は言った。
「教会?」
「そう。泉はまだ小さかったから、憶えていないかもしれないね。」
「家族と患者さんの旅?」
間髪入れずに、私は言う。
「そうそう。でもあの時、泉は、
まだ小学校にも上がっていなかったはずよね。
なのに、よく憶えていたね。」
曇りなき瞳で、彼女は言った。
「それは私のセリフのような気がするのですが。」
冷やかすように言う。
「私の記憶が2歳の頃のものから引き出せることを、
まさかお忘れになられたのではないでしょうね?」