はな to つき

花鳥風月

Gravity Blue 12

2012-05-08 07:09:15 | 【Gravity Blue】
「そんな具合だから、
気付かないうちに、いつしかわたしの中の奥底に
ゆっくりと沈んでいったの。ずっとね。
それが、ここにきて、急浮上してきたのよ。
これって、何か見えない力が働いているような気がしない?
泉の獣の勘では、どう感じる?」
怪談話をせがむ子供のような無邪気な眼で、私に聞いた。

「獣の勘ってねぇ。
なんで、そう男性的な比喩しかできないかなぁ。
もっとこう、神秘的な予知とかって、
きれいな例えは出てこないかなぁ。まったく。」
笑いながら、私は言う。
「ごめん、ごめん。ハードボイルド映画の見すぎ。
それで、その神秘的な何とかは感じない?」
明らかに彼女は、私の反応にかなりの興味を抱いていた。
「残念だけど、全然。なんにも、感じないよ。」
「そう・・・、つまんないの。ただの思い過ごしか。」

そう言って彼女は、本気でつまらなそうに、
白い欠片と流れる光だけの世界に眼を移した。

うそを、ついた。
とっさに、私は。

そうすることしかできなかった。
それは、いつかそんな日が来ることを、
どこかで知っていたかのような強烈な閃光。

軋んだ音を確かに発して、歯車は動き出してしまった。
もう、誰にも止められない。
彼女自身でさえも。
その得体の知れない畏怖が、私の体を乗っ取ろうとしていた。

海、行ってはだめ。
どうか、行かないで。