「自己紹介もなしに突然こんなことをいいだして、おかしいですね。
私、クーっていいます。はじめまして。」
彼は少し照れくさそうに言った。
「わたしは・・・・メグ、です。」
少しぎこちなく口を突いたその名前は、大好きな小説の主人公の名前だった。
とっさに嘘をついてしまったのは、もちろん本名を隠したかったからではない。
知られるのが、恥ずかしかったのだ。
これだけ海を愛していて、褒めちぎられた後に、
どうしても“わたしも、海です”なんて、言えなかった。
「メグさんですか。好い名前ですね。」
そう言って、遠くを見るような彼の瞳は、まるで見えないものに焦点を当てているよう。
それは、どこか感傷的にさえ感じられた。
そんな彼を見ていたら、どんな理由であれ、偽名を使ってしまった自分が、
悪の権化のように思えて厭だった。
「今は、あそこでダイビングのコーチをして暮らしているんです。」
彼の視線を追いかける。
いつの間にか、きれいな砂浜から突き出した桟橋がすぐそこまで迫っていた。
「そうですか。」
あと少しで終わってしまう船旅を名残惜しく感じながら、わたしは言った。
彼は、すべてが自然だった。
話し方や仕草。
立ち姿に、正面を捉えた表情。
そして、何よりも、生き方そのものが自然体であるように想像できた。
どういう生い立ちが、彼をつくったのだろう。
どれだけの悲しみを、通ってきたのだろう。
どんなに、自分と闘って来たのだろう。
興味や探究心というものが、否応なしに湧いてきた。
彼のことを、もっと知りたい。
このまま、彼の側で彼を感じ、彼の隣で彼を見ていたい。
わたしにとっての、真新しい、未経験の感情だった。
そして、その時。
これが、
この出会いが、
彼が、
彼の存在が、
引力の答えだったんだ。
なぜだか、そう確信した。
引力の出会いだと。
私、クーっていいます。はじめまして。」
彼は少し照れくさそうに言った。
「わたしは・・・・メグ、です。」
少しぎこちなく口を突いたその名前は、大好きな小説の主人公の名前だった。
とっさに嘘をついてしまったのは、もちろん本名を隠したかったからではない。
知られるのが、恥ずかしかったのだ。
これだけ海を愛していて、褒めちぎられた後に、
どうしても“わたしも、海です”なんて、言えなかった。
「メグさんですか。好い名前ですね。」
そう言って、遠くを見るような彼の瞳は、まるで見えないものに焦点を当てているよう。
それは、どこか感傷的にさえ感じられた。
そんな彼を見ていたら、どんな理由であれ、偽名を使ってしまった自分が、
悪の権化のように思えて厭だった。
「今は、あそこでダイビングのコーチをして暮らしているんです。」
彼の視線を追いかける。
いつの間にか、きれいな砂浜から突き出した桟橋がすぐそこまで迫っていた。
「そうですか。」
あと少しで終わってしまう船旅を名残惜しく感じながら、わたしは言った。
彼は、すべてが自然だった。
話し方や仕草。
立ち姿に、正面を捉えた表情。
そして、何よりも、生き方そのものが自然体であるように想像できた。
どういう生い立ちが、彼をつくったのだろう。
どれだけの悲しみを、通ってきたのだろう。
どんなに、自分と闘って来たのだろう。
興味や探究心というものが、否応なしに湧いてきた。
彼のことを、もっと知りたい。
このまま、彼の側で彼を感じ、彼の隣で彼を見ていたい。
わたしにとっての、真新しい、未経験の感情だった。
そして、その時。
これが、
この出会いが、
彼が、
彼の存在が、
引力の答えだったんだ。
なぜだか、そう確信した。
引力の出会いだと。