はな to つき

花鳥風月

Gravity Blue 20

2012-05-17 04:40:57 | 【Gravity Blue】
「急ぐことはないわ、何も。」

彼女はスローモーションのように言った。
「私は信じるわ。あなたの感じているその引力を。
この旅で、何かに辿り着けることを。」
「ありがとう。そういってもらえると、元気になれそうです。」
本当に、力が湧いてきそうだった。

「この国は広い。」
突然、想像通りのやわらかくて幅のある声で、
彼はゆっくりと口を動かした。
「好きなように時間を送るといい。
気の向くままに過ごすといい。
そして、もう一度ここに帰ってくるといい。
そうすればきっと、何かが見えるはずだよ。きっと。」
「そうなさい。私もそう思うわ。」
彼女も、同調した。
「はい。」
わたしは答えた。「そうしてみます。」

素直に、大きなエネルギーをいただいた気がした。
同時に、ただ、やみくもに焦っていた自分が、なんだか気恥ずかしくなった。

別れ際、名前を交換した。
困ったことが起きた時のためにと、
親切にも住所と電話番号まで書いてくれた。
そして、最後に、ふたりのとっておきのお気に入りの場所まで
教えてもらった。

Magnetic Island

それはまさに、“引力”という言葉と密に関係しそうな名前。

はじまりが、待っている。
そう思えそうだった。

そうして、3人で席を立つ。
両頬にキスをもらって別れると、
わたしは迷うことなく、トランジットセンターへと向かっていた。
マグネティック島へ渡る船の発着場。
そこは、ブリスベンから海を横目に、
ひたすら北上したタウンズヴィルにあるということだった。