はな to つき

花鳥風月

Gravity Blue 28

2012-05-25 01:46:28 | 【Gravity Blue】
『日本の、ひと?』

お茶目な野生動物の、突然のお出ましにはしゃぐ子供たちの中央。
いつからか、凛とした高い姿のその人はいた。

ハーフのようにも映る、日に焼けた端正な横顔。
耳を隠すぐらいに伸びた、少し焼けた髪。
襟周りと袖周りの少しよれた白のTシャツ。
ウエストの位置がマネキンのように高い、穿き古されたデニム。
わたしよりも、手のひらの分くらい視界が高いだろうと思える彼から、
しばらくわたしの眼は動かせなくなってしまった。
くぎづけに、なっていた。

それは、どこか郷愁漂う圧倒的な存在感のように思えた。
ただ人を見ただけで、そんな感覚になったのは、月並みだけれど、
生まれて初めてのことだった。
わたしの中の時計のスピードが変わり、高速で心が捕らわれた。

致命的な出会い。
そう、感じた。

「えっ?」
その時、視界と脳裏がシンクロして、
あの教会と彼の姿が一瞬オーバーラップした。
「なに?」
どうして初めて会う人と、石造りの教会が重なるの?
訳が分からなかった。
自分の機能が壊れたのかとさえ思った。

そんな彼は、生徒たちの人気者だった。
イルカが、ここまで入ってくることは滅多にないこと。
きっと魚を追いかけているうちに、ここまで来てしまったのだろうということ。
イルカとクジラは同じ生き物で、大きさの違いが呼び名の違いだということ。
そういう、イルカについてのいろいろな知識を教えてあげていた。

そして、生徒たちに“クー”と呼ばれていたその人は、
彼らの冗談にも屈託ない笑顔で応えていた。