「お母さん。」
「なぁに?」
「あのね、海はしばらく帰ってこないような気がするの。」
「えっ?」
そう言って母は、左右の表情がまるで違うような複雑な顔をして私を見た。
「なぜだか、そういう気がしていたの。ずっと。」
「いつから?」
「はじめから。海が、オーストラリアに行くって言い出した時から。」
私は言う。
「どうして?どうして、そう思うの?予感なの・・・・ね?」
平静を保とうとしても、コントロールが効かないままのように聞いてきた。
「ううん。それ以上の感じ。
今までこんなに強く何かを感じたことはなかったわ。
教会のことを、海が口にした時に、とても強い力を感じたの。
お母さんは、一家揃ってあの教会を見た時に、
海が、妙に興奮していたのを憶えてる?」
「ええ、もちろん。」
「海にとって、あの教会はパズルのピースだと思うの。
それに、きっと私にとってもね。」
母の動揺具合を確かめながら、私は続ける。
「実は私、あの後から、ある夢をとても頻繁に見るようになったの。」
「ゆめ?」
「うん。最近は、全然見ていなかったから、すっかり忘れていたのだけれど。」
「どんな、夢なの?」
「あの教会によく似た教会に、まだ2歳か3歳くらいの海が、
小学生くらいの男の子に手を引かれて入っていこうとするの。
それで、私が後ろから大声で叫ぶの。“海、行かないで”って。
それで、必ず、そこで目が覚めるの。」
「小学生の男の子?」
真面目な顔で、母は聞いた。
「多分ね。ただ不思議なのは、夢を見ている私は年を重ねても、
そこに出てくる海と男の子は、いつも変わらずに子供のままなの。」
「そう、そんな夢を。」
そう言った母の顔に、不思議と乱れた様子はなかった。
それどころか、あまりにも落ち着いている様子なので、
言い出した私の方がなんだか後手に回った気分になった。
そんな不思議な感覚を意識しながら、私は焼きあがったチーズケーキをテーブルに置き、
熱い紅茶をふたつ注いだ。すると、
「今度は少し、お母さんがあなたに話しておきたいことがあるの。
おそらく、夢の話ととても関わりがあることよ。」
母は、落ち着きはらって言った。
「あなたと海のこと、そして、お父さん、お母さんのこと。」
そう言って、一呼吸置き、母は前に置かれた紅茶にひとくちそっと口をつけてから、
絵本を読むような声で話し始めた。
「なぁに?」
「あのね、海はしばらく帰ってこないような気がするの。」
「えっ?」
そう言って母は、左右の表情がまるで違うような複雑な顔をして私を見た。
「なぜだか、そういう気がしていたの。ずっと。」
「いつから?」
「はじめから。海が、オーストラリアに行くって言い出した時から。」
私は言う。
「どうして?どうして、そう思うの?予感なの・・・・ね?」
平静を保とうとしても、コントロールが効かないままのように聞いてきた。
「ううん。それ以上の感じ。
今までこんなに強く何かを感じたことはなかったわ。
教会のことを、海が口にした時に、とても強い力を感じたの。
お母さんは、一家揃ってあの教会を見た時に、
海が、妙に興奮していたのを憶えてる?」
「ええ、もちろん。」
「海にとって、あの教会はパズルのピースだと思うの。
それに、きっと私にとってもね。」
母の動揺具合を確かめながら、私は続ける。
「実は私、あの後から、ある夢をとても頻繁に見るようになったの。」
「ゆめ?」
「うん。最近は、全然見ていなかったから、すっかり忘れていたのだけれど。」
「どんな、夢なの?」
「あの教会によく似た教会に、まだ2歳か3歳くらいの海が、
小学生くらいの男の子に手を引かれて入っていこうとするの。
それで、私が後ろから大声で叫ぶの。“海、行かないで”って。
それで、必ず、そこで目が覚めるの。」
「小学生の男の子?」
真面目な顔で、母は聞いた。
「多分ね。ただ不思議なのは、夢を見ている私は年を重ねても、
そこに出てくる海と男の子は、いつも変わらずに子供のままなの。」
「そう、そんな夢を。」
そう言った母の顔に、不思議と乱れた様子はなかった。
それどころか、あまりにも落ち着いている様子なので、
言い出した私の方がなんだか後手に回った気分になった。
そんな不思議な感覚を意識しながら、私は焼きあがったチーズケーキをテーブルに置き、
熱い紅茶をふたつ注いだ。すると、
「今度は少し、お母さんがあなたに話しておきたいことがあるの。
おそらく、夢の話ととても関わりがあることよ。」
母は、落ち着きはらって言った。
「あなたと海のこと、そして、お父さん、お母さんのこと。」
そう言って、一呼吸置き、母は前に置かれた紅茶にひとくちそっと口をつけてから、
絵本を読むような声で話し始めた。