はな to つき

花鳥風月

Gravity Blue 27

2012-05-24 04:27:33 | 【Gravity Blue】
海を渡る風と、船が切り裂く高速の風で、陽射しが歪む。

汚れない青い空は永遠に高く、
幅の広い揺らぎをつくる海はとめどもなく広がる。
それは、太古からの尊い贈りもの。

1時間おきの連絡船は、待ちわびた乗客をほどよく受け入れて走る。
幾人かのバックパッカーズ。
街で用事を済ませたと思われる島の人々。
海の向こうで家族が待つ子供たち。
白に若葉色の新鮮な色使いの制服を着た彼女たちを見ると、
イギリス領だった名残を想起させる。

わいわいと愉しそうに話しをするのは、どこの子供も一緒だ。
誰もがそうだったことを重ね合わせられる。
なぜか、妙に安心する瞬間。
見慣れた色使いの制服たちは、今では対岸の影になりつつある。
耳慣れた言葉は、はるか遠くに置き去りにされたようだ。
そこにはまた、空気に乗りやすい張りのある言葉が溢れていた。

きっと、大丈夫だ。
かつて、ふたりが触れたたくさんのものを、わたしも感じることができる。
くっきりと、ふたりの顔が刻み込まれたわたしの心が呟いた。
それは、掛け値なく幸せなことに思えた。

2階の屋外席は、特等席に思える。
外にいなければ、もったいないような環境だ。
屋内ではしゃぐのは心苦しいのか、生徒たちもそこにいる。

対岸と島のちょうど中ほどに差し掛かった辺りで、
“ハック”が何かを見つけた。
それは、かなりの興奮度。
勝手に“ハック”なんて名付けてしまったのは、
その彼が、わたしの中のハックルベリー・フィンによく似ていたからだ。

彼が、すぐ下に広がる水面を指差して、真剣に口を動かしている。
“見て、見て。イルカだ!イルカ!”
その声に引き寄せられた残りの生徒たちが、一斉に席を立つ。
船が傾いてしまうでは?と思うほど、
一瞬にして、右舷は人気スポットとなった。
わたしも、野生のイルカを見ようと、一人分の体重をそちらに加える。

10頭ほどのイルカたちが、見事に並走している。
代わる代わる跳ねては潜り。
それは、まるで、好奇心いっぱいに遊んでいるよう。
生徒たちは、本当に嬉しそう。
誰ひとりとして、その場を動こうとしない。
飽くことなく、目を奔らせている。