「こんにちは。」
そう言って、わたしに気付いた彼は、躊躇なく素直な笑顔を向けた。
彼のその突然の行動で、現実に引き戻された気がして、
わたしはかなり狼狽した。
なにしろ、一秒前まで、静止した感情のまま彼を見つめていたのだから。
傍から見れば、おおよそ滑稽で、彼からすれば、かなり不気味だったろう。
その慌てぶりときたら、もう尋常なものではなかった。
「こ、こ、こんにちは。」
音にならずに、口だけがそう形作っているような気がした。
「やっぱり、日本の方だったんですね。」
彼は制服たちの間を縫って、少し空けた隣まで来た。
完全に全身がしびれているのが分かった。
今、目の前に立っている、すこぶる健康的なオーラに包まれた存在感に
悩殺されているのか。
運命的な出会いと、勝手に思い込んでいるのか。
それとももっと違う感覚で、彼という生命を意識しているのか。
まったく、分からない。
いいえ、そのすべてが当てはまっているといった方が近いのかもしれない。
「どうかなさいましたか?」
言葉を失くしてしまっていたわたしに、丁寧な顔をのぞかせて聞いた。
「あっ。いいえ。なんでもありません。」
今度は、声が少し耳に届いた。
心の芯の震えは一向に収まらないけれど、
社会性という心は作動し始めた。
「観光でいらしたんですか?」
「ええ。」
それでも、最小限度の言葉しか、まだ出てこない。
「以前、あの島へ行かれたことは?」
「はじめてです。」
「そうですか。
日本の方は、滅多にお見かけしないものですから。
島民として、同胞として歓迎いたします。
贅沢な島を、存分に満喫してください。」
耳触りのよい敬語で、彼は話した。
「生徒たちと、仲が良いのですね。ずっと、あの島で?」
まだまだ、イルカに心奪われている制服たちに目を向けて言った。
「いいえ、まだ5年くらいです。ただの、似非島民かな。」
「えせ、とうみん。」
彼は笑った。わたしも笑った。
そう言って、わたしに気付いた彼は、躊躇なく素直な笑顔を向けた。
彼のその突然の行動で、現実に引き戻された気がして、
わたしはかなり狼狽した。
なにしろ、一秒前まで、静止した感情のまま彼を見つめていたのだから。
傍から見れば、おおよそ滑稽で、彼からすれば、かなり不気味だったろう。
その慌てぶりときたら、もう尋常なものではなかった。
「こ、こ、こんにちは。」
音にならずに、口だけがそう形作っているような気がした。
「やっぱり、日本の方だったんですね。」
彼は制服たちの間を縫って、少し空けた隣まで来た。
完全に全身がしびれているのが分かった。
今、目の前に立っている、すこぶる健康的なオーラに包まれた存在感に
悩殺されているのか。
運命的な出会いと、勝手に思い込んでいるのか。
それとももっと違う感覚で、彼という生命を意識しているのか。
まったく、分からない。
いいえ、そのすべてが当てはまっているといった方が近いのかもしれない。
「どうかなさいましたか?」
言葉を失くしてしまっていたわたしに、丁寧な顔をのぞかせて聞いた。
「あっ。いいえ。なんでもありません。」
今度は、声が少し耳に届いた。
心の芯の震えは一向に収まらないけれど、
社会性という心は作動し始めた。
「観光でいらしたんですか?」
「ええ。」
それでも、最小限度の言葉しか、まだ出てこない。
「以前、あの島へ行かれたことは?」
「はじめてです。」
「そうですか。
日本の方は、滅多にお見かけしないものですから。
島民として、同胞として歓迎いたします。
贅沢な島を、存分に満喫してください。」
耳触りのよい敬語で、彼は話した。
「生徒たちと、仲が良いのですね。ずっと、あの島で?」
まだまだ、イルカに心奪われている制服たちに目を向けて言った。
「いいえ、まだ5年くらいです。ただの、似非島民かな。」
「えせ、とうみん。」
彼は笑った。わたしも笑った。